第4講 後遺障害が認定されると何が変わるのか|慰謝料・逸失利益とのつながり

第4講 後遺障害が認定されると何が変わるのか|慰謝料・逸失利益とのつながり

交通事故の被害者の方にとって、後遺障害等級認定が重要だと言われても、最初のうちは「結局、何がどう変わるのか」が見えにくいことがあります。診断書を書いてもらい、申請をして、等級が認定されるかどうかを気にする。しかし、その先にある賠償とのつながりが具体的に理解できていないと、なぜそこまで認定実務が重視されるのかが腹落ちしません。後遺障害認定の本当の意味は、単に「等級がつく」ということではなく、その認定結果が賠償の中身と金額を大きく左右する点にあります。そこで今回は、後遺障害が認定されると何が変わるのかを、慰謝料と逸失利益を中心に整理します。

まず大前提として、交通事故の損害賠償は、大きく分ければ「治療中の損害」と「症状が残ったことによる損害」とに分かれます。治療中の損害には、治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料などがあります。これに対して、症状固定後も症状が残り、それが後遺障害として評価される場合には、そこから先は別の損害項目が前面に出てきます。その代表が、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益です。つまり、後遺障害が認定されるということは、事故による被害が「治療が終わるまでの損害」にとどまらず、「将来にわたって残る不利益」として法的に評価されることを意味します。

後遺障害慰謝料とは、事故によって症状が残ってしまったことそれ自体に対する精神的苦痛の賠償です。入通院慰謝料が、治療を受けざるを得なかった苦痛や不便に対する賠償であるのに対し、後遺障害慰謝料は、治療を経てもなお症状や機能障害が残ったことによる将来にわたる苦痛を評価するものです。たとえば、首や腰の痛みが残る、しびれが続く、関節が十分に曲がらない、顔に傷あとが残る、視力や聴力に障害が残るといった場合、その不利益は治療期間中だけの問題では終わりません。今後の生活や仕事にずっと影を落とす可能性があり、その意味で後遺障害慰謝料は、事故後の人生に残された負担に対する賠償だといえます。

もっとも、後遺障害慰謝料は、「つらいから多くもらえる」という単純なものではありません。実務では、認定された等級に応じて一定の相場感が形成されています。もちろん、裁判基準、自賠責基準、任意保険会社の提示水準には差がありますが、少なくとも方向性としては、等級が重いほど慰謝料額も大きくなる構造です。したがって、後遺障害認定がされるかどうか、されるとして何級になるかは、慰謝料の金額に直結します。逆にいえば、症状が残っていても後遺障害として評価されなければ、入通院慰謝料の範囲でしか整理されず、将来に残る不利益への賠償が十分に反映されないことがあります。

もう一つ、実務上さらに大きな意味を持つのが後遺障害逸失利益です。これは、後遺障害が残ったことによって、将来の労働能力が低下し、その結果として得られるはずだった収入が減ることへの賠償です。交通事故の相談では、「今も働けているから逸失利益はないのではないか」と思われる方も少なくありません。しかし、逸失利益は、現に直ちに失職したかどうかだけで決まるものではありません。たとえば、以前と同じ勤務先で働き続けていても、痛みやしびれのために長時間労働が難しくなった、重い物を扱えなくなった、昇進や配置の幅が狭くなった、将来的な転職可能性が落ちた、といった不利益はありえます。つまり、後遺障害逸失利益は、「今の給料が下がったか」だけではなく、「将来の労働能力にどの程度の制約が生じたか」を問題にするのです。

この逸失利益の算定では、一般に、基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間といった要素が問題になります。そして、ここで後遺障害等級が強く関わってきます。等級ごとに、実務上おおよその労働能力喪失率の目安が意識されるため、どの等級に認定されるかは逸失利益の金額を大きく左右します。たとえば、同じように「首が痛い」と感じていても、後遺障害等級が認定される場合とされない場合とでは、逸失利益の議論に乗るかどうか自体が変わりえます。また、認定されたとしても、14級なのか12級なのか、それ以上なのかによって、賠償額には相当な差が生じます。ここに、後遺障害認定が示談や裁判の帰趨を左右する理由があります。

もっとも、等級が認定されたからといって、機械的にそのとおりの逸失利益が必ず認められるわけではありません。実務では、被害者の年齢、職業、仕事内容、事故前後の収入状況、実際の就労状況、症状の内容などを踏まえて、労働能力喪失の有無や程度が個別に検討されます。とりわけ、むち打ちによる神経症状のような事案では、後遺障害等級が認定されていても、保険会社側が「実際には減収がない」「労働能力喪失は限定的だ」と主張して、逸失利益を争ってくることがあります。逆に、重い後遺障害では、就労自体が大きく制約されるため、長期かつ高額の逸失利益が問題になることもあります。後遺障害等級は非常に重要ですが、それはあくまで入口であって、最終的な逸失利益の評価には個別事情が乗ってくるのです。

ここで実務上よくある誤解は、「後遺障害が認定されれば、その後は自動的に高額賠償になる」というものです。実際には、そう単純ではありません。後遺障害認定は重要な武器ですが、それだけで全てが決まるわけではなく、その後の示談交渉や訴訟の中で、認定された等級をどう賠償論につなげるかが問題になります。たとえば、同じ14級9号でも、通院経過が整っていて、症状の一貫性があり、仕事への具体的支障が明確に示されている事案と、資料上の裏づけが弱い事案とでは、相手方の反応も、最終的な解決水準も異なりえます。後遺障害認定はゴールではなく、賠償論を組み立てる土台なのです。

一方で、後遺障害が認定されなかった場合の影響も小さくありません。もちろん、非該当だからといって一切賠償がなくなるわけではありませんし、入通院慰謝料や休業損害などは別途問題になります。しかし、後遺障害慰謝料や逸失利益という将来損害の中心部分が弱くなり、示談交渉では賠償額が大きく下がる傾向があります。そのため、実務では、認定結果が非該当であったときには、その理由を丁寧に読み、資料不足なのか、症状経過の問題なのか、画像や検査所見の弱さなのかを見極める必要があります。後遺障害認定が賠償に直結するからこそ、非該当の意味もまた重いのです。

さらに、後遺障害認定には、金額面だけでなく、交渉全体の重心を変える効果もあります。治療中の段階では、「どこまで治療費をみるか」「休業損害をどう考えるか」といった争点が中心になりがちですが、後遺障害が認定されると、争点は将来の生活・労働への影響に移っていきます。すると、保険会社とのやり取りも、単なる治療費精算の話ではなくなり、より本格的な賠償交渉になります。被害者側としても、症状の具体的内容、仕事上の不利益、家事や日常生活への支障などを、より丁寧に整理して主張していく必要が出てきます。後遺障害認定は、金額項目を増やすだけでなく、事故被害の評価軸そのものを変えるのです。

このように、後遺障害が認定されると、まず後遺障害慰謝料という独立の損害項目が問題になり、さらに後遺障害逸失利益という将来収入への影響も賠償対象として前面に出てきます。そして、それらの議論の出発点として、認定等級が強い意味を持ちます。だからこそ、後遺障害認定は、単なる保険実務上の手続ではなく、事故後の賠償全体を組み替える重要な分岐点だといえます。被害者の方にとっては、「等級がついたかどうか」だけを見るのではなく、「その認定が最終的な賠償とどうつながるのか」を意識することが大切です。

次回は、「非該当とは何か|認定されなかったとき、何を見直すべきか」を扱います。後遺障害の実務では、非該当という結果をどう受け止め、どこを点検するかが非常に重要になるため、その読み方を丁寧に整理していきます。

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