第5講 非該当とは何か|認定されなかったとき、何を見直すべきか

第5講 非該当とは何か|認定されなかったとき、何を見直すべきか

後遺障害の申請をした被害者の方にとって、もっとも落胆しやすい結果の一つが「非該当」です。症状は残っている。通院も続けた。医師にも痛みやしびれ、不自由さを伝えてきた。それにもかかわらず、「後遺障害には該当しない」という判断が返ってくると、「症状がないと言われたのか」「嘘をついていると思われたのか」と強いショックを受けることがあります。しかし、実務上の「非該当」は、必ずしもそのような意味ではありません。まず大切なのは、非該当という結果の意味を正確に理解し、感情的に受け止めるだけで終わらせず、どこに問題があったのかを丁寧に見直すことです。

そもそも、非該当とは、申請された残存症状について、自賠責の後遺障害等級表上、等級に該当するとまでは評価できないと判断されたことを意味します。ここで注意しなければならないのは、「症状が残っていない」と判断されたことと、「後遺障害等級に該当するだけの資料的裏づけや評価に至らなかった」ということは、同じではないという点です。たとえば、本人には現実に痛みやしびれが残っていても、その症状が画像所見、検査結果、診療経過、通院状況などによって十分に裏づけられていないと、認定実務上は等級認定に至らないことがあります。したがって、非該当とは、苦痛の存在そのものを否定する言葉というより、あくまで認定基準との関係での評価結果だと捉えるべきです。

もっとも、被害者側から見れば、その違いは簡単には割り切れません。実際に困っているのに認定されない、という結果が返ってくれば、不満や不信感が生じるのは自然です。ただ、そこで重要なのは、「納得できない」で止まらないことです。非該当の実務では、なぜその結果になったのかを読み解く作業が極めて重要になります。認定結果には、理由の概要が示されることが通常ですが、その文言は簡潔で、時に冷たく感じられる表現になっています。しかし、その短い記載の中に、どの点が弱かったのかを探るヒントが含まれています。異議申立てを考えるにしても、示談方針を考えるにしても、まずはその理由の読み込みが出発点です。

非該当になる典型的な理由の一つは、他覚的所見の不足です。特に、頸椎捻挫や腰椎捻挫に伴う痛み、しびれなどの神経症状では、MRIやCTなどの画像所見がはっきりしない、神経学的検査結果が乏しい、画像上の所見と訴えられている症状との結びつきが弱い、といった事情があると、認定は厳しくなりやすい傾向があります。もちろん、画像で異常が明確に出なければ絶対に認定されないわけではありませんが、少なくとも他覚的裏づけが薄い場合には、そのぶん通院経過や症状の一貫性など、別の資料面で強く支える必要があります。非該当の背景には、「症状は訴えられているが、客観資料による補強が弱い」という構造が少なくありません。

また、通院状況の問題も、非該当の大きな要因になります。事故直後からの通院頻度が不自然に少ない、長期間の通院空白がある、治療中断の理由が資料上はっきりしない、といった事情があると、「症状が継続していた」という評価が弱くなりやすくなります。後遺障害認定では、症状の一貫性と継続性が重視されますから、痛みやしびれを訴えていても、通院の記録上それが連続して現れていなければ、認定上は不利に働きます。被害者本人としては、忙しさや仕事、家庭の事情で思うように通えなかったという事情があることも少なくありませんが、その事情が記録上見えなければ、単に症状が軽かったのではないかと受け取られてしまうことがあります。

さらに、診断書の記載不足も非該当の典型例です。後遺障害診断書は、認定実務の中心資料ですが、この書面に必要なことが十分に書かれていなければ、どれだけ症状が残っていても正しく伝わりません。たとえば、症状の内容が抽象的で、どの部位にどのような痛みやしびれがあるのかが不明確である、可動域制限の数値記載が不十分である、神経学的検査結果が空欄ないし簡略すぎる、画像所見の記載が乏しい、といった場合には、認定の土台自体が弱くなります。非該当の案件では、診断書を見返してみると、「これではつらさが十分伝わらない」ということが実際によくあります。

カルテの記載とのズレも見落としてはいけません。後遺障害診断書には症状が詳しく書かれていても、それ以前のカルテにその訴えがほとんど現れていない場合には、認定実務では整合性に疑問が持たれます。たとえば、最後の段階になって急にしびれや可動域制限が強く記載されているのに、通院中の記録ではその訴えが乏しいという場合です。このようなズレがあると、「後から認定を意識して症状が強くなったのではないか」とまではいわないまでも、資料全体としての説得力は落ちます。非該当の理由を検討するときは、診断書単体だけでなく、それまでのカルテや紹介状、検査結果とのつながりまで視野に入れる必要があります。

加えて、事故との因果関係が弱いと見られる場合も、非該当につながります。既往症がある、加齢性変化が目立つ、事故態様が比較的軽微に見える、初診時の訴えと後の訴えにズレがある、といった事情があると、「本当にこの事故でその症状が残ったのか」が疑われやすくなります。もちろん、軽い事故に見えても症状が残ることはありますし、既往症があっても事故で悪化した部分が問題になることはあります。しかし、認定実務は提出資料に基づいて評価するため、その関係が資料上うまく整理されていないと、非該当方向に傾きやすくなります。したがって、既往症や加齢変化がある事案ほど、どこからどこまでが事故による影響なのかを丁寧に位置づける必要があります。

では、非該当となったとき、何を見直すべきでしょうか。実務上、まず確認すべきなのは、認定理由の文面です。そこに、他覚的所見が乏しいのか、症状の一貫性が弱いのか、事故との関連性が不明なのか、あるいは提出資料自体が不足していたのかを読み取る必要があります。そのうえで、後遺障害診断書、カルテ、画像、検査記録、通院歴を一つずつ点検し、どこに弱点があるのかを整理します。重要なのは、「異議申立てをすればもう一度見てもらえるだろう」という発想ではなく、「前回の認定を動かすだけの補強材料があるか」という観点で見ることです。前回と同じ資料をほぼそのまま出し直しても、結論が変わらないことは少なくありません。

異議申立てを考える場面では、追加できる資料の有無が極めて重要です。たとえば、画像の再読影、神経学的検査の補充、可動域検査の再実施、主治医意見書の取得、通院中の症状経過がわかる診療録の補足などにより、前回の弱点を埋められる場合があります。また、仕事や日常生活への具体的支障が認定理由の背景にありそうな場合には、その実情を丁寧に整理することにも意味があります。ただし、異議申立ては万能ではなく、そもそも医学的資料の裏づけが乏しい事案では、補強しても結論が動かないこともあります。だからこそ、非該当後の対応は、闇雲に争うのではなく、資料の質を見ながら現実的に判断する必要があります。

一方で、非該当であっても、賠償全体が終わるわけではありません。後遺障害慰謝料や逸失利益の主張は弱くなりますが、入通院慰謝料、休業損害、治療費など、症状固定前の損害はなお問題になります。また、訴訟になれば、自賠責認定に拘束されず、裁判所が独自に証拠を評価する余地もあります。もっとも、実務上は自賠責認定の影響はやはり大きいため、非該当は決して軽い結果ではありません。だからこそ、申請前から資料の整え方に注意する必要があり、非該当後も「何が足りなかったのか」を冷静に検証することが重要になるのです。

結局のところ、非該当とは、症状の存在を全面的に否定する言葉ではなく、提出資料と認定基準との関係で、等級認定に至らなかったという実務上の評価です。そして、その背景には、他覚的所見の弱さ、通院経過の問題、診断書やカルテの記載不足、事故との因果関係の整理不足など、さまざまな事情が潜んでいます。非該当という結果を受けたときに必要なのは、落胆や怒りだけではなく、「どこが弱かったのか」「何を補えるのか」「補ってもなお難しいのか」を一つずつ見ていく姿勢です。その作業を経てはじめて、異議申立てをすべきか、そのまま示談方針を考えるべきかという次の判断につながります。

次回は、「事前認定と被害者請求はどう違うか|どちらを選ぶべきか」を扱います。後遺障害認定の入口にあたる二つのルートの違いは、資料の集め方や主導権の持ち方に関わるため、実務上とても重要です。

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