第6講 事前認定と被害者請求はどう違うか|どちらを選ぶべきか

第6講 事前認定と被害者請求はどう違うか|どちらを選ぶべきか

後遺障害の申請を考える場面で、多くの方が最初に戸惑うのが、「事前認定」と「被害者請求」という二つのルートの違いです。どちらも最終的には自賠責の後遺障害等級認定につながる手続ですが、進め方も、資料の集め方も、主導権の所在もかなり異なります。ところが、実際の相談では、「保険会社がやってくれるならそれでいいのではないか」「自分で請求すると何が違うのか」「どちらが有利なのか」といった疑問が多く、十分に整理されないまま進んでしまうことがあります。後遺障害の結果は、その後の賠償額に大きく影響しますから、この入口の選択は決して軽くありません。そこで今回は、事前認定と被害者請求の違いを実務的に整理し、どのような場面で何を考えるべきかを見ていきます。

まず、事前認定とは、加害者側の任意保険会社が窓口となって、後遺障害認定に必要な資料を集め、自賠責の認定手続に回していく方法です。交通事故では、多くの場合、治療費対応や示談交渉の窓口になっているのが任意保険会社ですから、その流れの中で「症状固定になったので後遺障害診断書を提出してください」「こちらで認定申請を進めます」と案内されることがあります。これが事前認定です。被害者から見ると、保険会社側が段取りをしてくれるため、手間が少なく、形式的にはもっとも進めやすい方法に見えます。

これに対し、被害者請求とは、被害者自身が必要資料を集め、自賠責保険に対して直接請求する方法です。後遺障害診断書だけでなく、診療報酬明細書、診断書、カルテ、画像資料、休業損害関係資料など、必要なものを被害者側で整えて提出していきます。もちろん、実際には弁護士や専門職が補助することも多いのですが、制度の建て付けとしては、「保険会社任せにせず、被害者側で資料を主導して提出するルート」ということになります。この違いだけでも、両者の性格はかなり異なっていることがわかります。

では、両者の違いはどこにあるのでしょうか。もっとも大きいのは、資料収集と資料選別の主導権です。事前認定では、任意保険会社が一定の範囲で資料を集めて手続を進めます。そのため、被害者側の負担は軽くなりますが、どの資料を出すか、どこまで補充するかについて、被害者側が細かくコントロールしにくい面があります。もちろん、必要に応じて資料を追加提出すること自体は可能ですが、基本の流れは保険会社主導です。これに対して、被害者請求では、被害者側が最初から「何を出すか」を意識して組み立てることができます。後遺障害診断書だけでは弱いと思えば、画像のCD-R、読影レポート、神経学的検査結果、主治医意見書、通院経過の整理資料などを意識的にそろえることもできます。つまり、被害者請求は、資料勝負である後遺障害認定において、主導権を被害者側に引き寄せる方法だといえます。

もっとも、だからといって、常に被害者請求の方が有利で、事前認定が劣るという単純な話ではありません。事前認定の最大の利点は、やはり手間の少なさです。被害者請求は、必要書類を理解し、病院や勤務先から資料を取り寄せ、漏れなく整理しなければならず、それなりの負担があります。交通事故の被害者の方は、治療や仕事、生活再建そのもので大変な状況にあることが多いですから、すべてを自力で整えるのは容易ではありません。その意味で、事前認定は、実務上もっとも一般的で、負担の少ないルートとして相応の合理性があります。症状が比較的明確で、必要資料も標準的にそろっており、大きな争いが予想されない事案では、事前認定でも十分対応できることがあります。

一方で、被害者請求が特に意味を持つのは、「標準的な資料だけでは弱いかもしれない事案」です。たとえば、むち打ちによる神経症状のように、画像所見がはっきりしにくく、診療経過や検査結果の積み上げが重要になるケースでは、後遺障害診断書一枚だけでは十分に伝わらないことがあります。また、通院経過に空白がある、既往症との関係が問題になりそう、仕事や日常生活上の支障を丁寧に補足したいといった事案でも、被害者側で資料を吟味しながら出した方がよい場面があります。要するに、後遺障害認定において「説明不足のまま流されると不利になりそうな案件」ほど、被害者請求の意義が大きくなります。

さらに、被害者請求には、単に認定資料を整えるだけでなく、自賠責保険金を先に受け取れるという実務上の利点があります。後遺障害部分について認定が出れば、その範囲で自賠責保険金が先行して支払われるため、示談成立前に一定の金銭を受け取ることができます。これは、治療や生活再建で経済的負担が続いている被害者にとって小さくない意味を持ちます。これに対し、事前認定では、通常、任意保険会社の示談提示の流れの中で処理されるため、自賠責部分だけを先に切り出して受け取るという感覚は持ちにくくなります。もっとも、この点も事案全体の見通しとの関係で考える必要があり、必ずしも誰にとっても決定打になるわけではありません。

では、どちらを選ぶべきなのでしょうか。実務的には、「事案の難しさ」と「資料をどこまでこちらで主導したいか」によって考えるのが基本です。症状や障害の内容が比較的明確で、後遺障害診断書や画像資料も十分に整っており、争点があまり複雑でない場合には、事前認定でも大きな問題なく進むことがあります。逆に、資料の補強が必要である、診断書の記載だけでは不十分である、保険会社主導で流れると不安がある、といった場合には、被害者請求を検討する価値が高まります。要するに、「どちらが絶対によいか」ではなく、「この案件でどちらがより納得できる資料提出ルートか」という視点で考えるべきです。

ここで注意したいのは、事前認定を選んだからといって、完全に受け身でいてよいわけではないということです。実務では、事前認定であっても、被害者側が後遺障害診断書の内容をよく確認し、必要に応じて画像資料や追加意見書の提出を検討することがあります。つまり、事前認定と被害者請求は、まったく白か黒かの世界ではなく、事前認定の中でもどこまで主体的に関与するかによって実質は変わってきます。ただ、形式上の主導権が保険会社側に寄りやすいのは事前認定ですから、「普通に出しておけば大丈夫だろう」と漫然と進めるのは避けたいところです。

逆に、被害者請求にも注意点があります。資料をたくさん出せばよいというものではなく、認定実務に意味のある資料を整理して出さなければなりません。関係の薄い資料を大量に添付しても、かえって要点が見えにくくなることがありますし、医学的に意味の乏しい主張を重ねても結果は変わりません。また、被害者請求は準備に時間と労力がかかるため、案件によってはその負担に見合うだけの上積みが期待しにくいこともあります。したがって、被害者請求は「自分でやるから有利」という話ではなく、「必要な補強を的確に行えるなら意味がある」という手続だと理解した方が正確です。

結局のところ、事前認定は、保険会社主導で比較的手間なく進められる標準的ルートであり、被害者請求は、被害者側で資料の中身を主導しながら進めるルートです。両者の差は、単なる手続の違いではなく、「後遺障害認定という資料勝負の場面で、誰がどこまで主導権を持つか」という違いでもあります。だからこそ、症状の性質、資料のそろい具合、争点の有無、被害者側の納得感を踏まえて選ぶことが大切です。後遺障害の申請は一度通して終わりではなく、その結果が賠償全体に影響します。入口の段階で、どのルートが自分の事案に合っているかを見極めることには十分な意味があります。

次回は、「後遺障害診断書の重要性|この一枚で何が決まってしまうのか」を扱います。後遺障害実務では、この診断書の出来不出来が結果を大きく左右するため、どこが重要なのかを丁寧に見ていきます。

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