第31講  後遺障害慰謝料とは何か|等級ごとの相場をどう見るか

第31講
後遺障害慰謝料とは何か|等級ごとの相場をどう見るか

後遺障害が認定されると、被害者は、治療費や休業損害とは別に、「後遺障害が残ったこと自体」に対する慰謝料を請求することができます。これは、事故によって身体や精神に長期的な不利益を受け、今後も生活上の制約や不安を抱え続けることに対する賠償です。

もっとも、後遺障害慰謝料は、単に「つらい思いをしたからいくら」という感覚的なものではありません。実務では、後遺障害等級を基礎に、おおむね一定の相場に沿って算定されます。そして、この相場には大きく分けて、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準という三つの見方があります。

まず、自賠責基準は、被害者に対する最低限の補償を目的とする基準です。そのため、金額は比較的低額にとどまる傾向があります。自賠責保険は、全国一律の最低保障制度としての性格を持つため、個別事情をきめ細かく反映するというより、一定の定型的処理を重視します。

これに対し、任意保険基準は、各保険会社が示談実務で内部的に用いている基準です。公開されていないことも多いですが、一般に、自賠責基準よりはやや高く、裁判基準よりは低い水準にあることが多いといわれます。示談の初回提示では、この任意保険基準ないしそれに近い水準が用いられる場面が少なくありません。

そして、裁判基準は、裁判例の集積を踏まえて形成されてきた基準で、実務上はもっとも高い水準になりやすいものです。いわゆる「赤い本」などで整理されている基準がこれにあたります。交通事故訴訟で弁護士が損害額を検討する際には、この裁判基準を中心に考えるのが通常です。

なぜこのような差が生じるかというと、自賠責は最低限の救済を目的とし、任意保険は早期解決・定型処理を重視し、裁判は個別具体的な事情を踏まえて、法的に相当な賠償額を判断するからです。したがって、同じ後遺障害等級であっても、どの基準で話をするかによって、最終的な慰謝料額には相当な差が出ることがあります。

もっとも、後遺障害慰謝料は、等級だけで機械的に決まるわけではありません。たとえば、外貌醜状のように見た目への影響が大きい事案、若年者で将来への精神的影響が重い事案、疼痛やしびれが慢性的に続き生活への支障が強い事案などでは、等級の形式だけでは捉えきれない苦痛が問題になります。ただ、実務上は、まず等級ごとの相場を出発点とし、そのうえで個別事情をどう評価するかを検討するという流れになります。

注意しておきたいのは、保険会社からの提示額が、そのまま「法的に正しい金額」であるとは限らないということです。とくに後遺障害が認定された事案では、慰謝料だけでなく、逸失利益や過失相殺も含めて全体の金額差が大きくなりやすいため、基準の違いを理解することが重要です。

後遺障害慰謝料は、後遺障害賠償の入口にある論点です。しかし、実際の金額差は、慰謝料単体よりも、次に扱う逸失利益のほうが大きくなることが少なくありません。そこで次回は、「将来の収入減をどう計算するのか」という逸失利益の基本構造を扱います。

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