第7講 遺言書がない場合どうするか|遺産分割協議の基本

第7講 遺言書がない場合どうするか|遺産分割協議の基本

相続では、遺言書がないことが珍しくありません。
その場合、相続財産をどう分けるかは、相続人の間で決めていくことになります。法務省は、遺産分割とは、法律で決められた相続人が全員参加して、相続財産の分け方を決定する手続だと説明しています。つまり、遺言がない相続では、相続人全員で話し合って決めるというのが出発点です。

もっとも、「話し合いで決める」といっても、自由に好きなように進めればよいわけではありません。
誰が相続人なのか、何が遺産なのか、評価をどう考えるのか、誰が何を取得するのかを整理しながら進める必要があります。家庭裁判所も、遺産分割調停では、まず遺産として分けるべき財産を確定し、その評価額を定めたうえで、分割の割合や方法について合意を目指して話し合いを進めると案内しています。

1 遺言がないときは、まず遺産分割協議になる

遺言がない場合、法定相続人が法定相続分に応じた持分を持つことになりますが、実際にどの財産を誰が取得するかは、なお決めなければなりません。
たとえば、相続人が3人いて、遺産が自宅不動産と預金だけで構成されている場合、「3人がそれぞれ3分の1ずつ相続する」というだけでは、実際の処理は終わりません。自宅を共有にするのか、1人が取得して他の相続人に代償金を払うのか、売却してお金で分けるのか、といった具体的な決定が必要です。法務省も、相続人全員が参加して分け方を決めるのが遺産分割だと案内しています。

そのため、遺言がない相続では、まず遺産分割協議をするという発想が基本になります。
ここでいう協議とは、相続人全員が参加し、誰がどの財産を取得するかを合意によって決める手続です。不動産の相続登記の案内でも、遺産分割協議を行った場合には、相続人全員が実印を押印した遺産分割協議書と印鑑証明書の添付が前提とされています。

2 遺産分割協議は「相続人全員」で行う

遺産分割協議で最も重要なのは、相続人全員が参加するという点です。
法務省は、遺産分割そのものを「法律で決められた相続人が全員参加して」行う手続と説明していますし、法務局の相続登記関係資料でも、遺産分割協議書には相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付するとされています。実務上、これが全員参加・全員関与の原則を強く示しています。

したがって、相続人の一部だけで先に話をまとめてしまうと、その後の登記や金融機関の手続で支障が生じやすくなります。
そもそも相続人の範囲がずれていれば、協議の前提自体が崩れます。だからこそ、第2講や第5講で見たように、戸籍を集めて相続人を確定する作業が重要なのです。相続登記ガイドブックでも、法定相続人の範囲を確認したうえで、遺産分割協議書やその押印関係書類を整える流れが示されています。

3 協議で決めるのは「割合」だけでなく「誰が何を取るか」である

遺産分割協議では、単に「持分が何分の一か」を確認するだけでは足りません。
実際には、どの財産を誰が取得するのかを具体的に決めていく必要があります。家庭裁判所も、調停では、遺産の範囲を確定し、その評価額を定めたうえで、分割の割合や方法について希望を聴いて合意を目指すと案内しています。これは協議の場でも同じ発想です。

たとえば、自宅不動産を長男が取得し、預金を他の相続人が多めに受けるという決め方もあり得ます。
あるいは、不動産を売却して代金を分ける、賃貸不動産は共有にせず一人が取得して代償金を払う、といった形もあります。ここで重要なのは、法定相続分を出発点にしつつも、現実の財産の性質に応じて取得方法を決めることです。相続登記の実務でも、遺産分割協議書には不動産を取得する相続人を具体的に特定していくことになります。

4 協議に入る前に、遺産の範囲を整理しておく必要がある

遺産分割協議は、いきなり「誰が何をもらうか」を話す場ではありません。
その前に、何が遺産なのかを整理しておかなければなりません。家庭裁判所は、遺産分割調停の対象となるのは、被相続人の所有や名義で、今も残っている遺産だと説明しています。土地建物、株式、現金、投資信託、預貯金、国債などが典型例として挙げられています。

反対に、争い方が別になるものもあります。
家庭裁判所の大阪家裁資料では、生前に払い戻された預貯金や、不当利得・不法行為債権などは、全員の合意がなければ別途民事訴訟等で解決することになると整理されています。また、相続債務や葬儀費用についても、全員合意があれば調停で扱えるが、審判で当然に処理できる対象ではないとされています。遺産分割協議でも、遺産の範囲と、別途処理すべき問題を分ける視点が大切です。

5 相続人全員が納得すれば、柔軟な分け方ができる

遺言がない相続では、法定相続分が基準になりますが、実際の分け方はそれに機械的に縛られるわけではありません。
相続人全員が納得すれば、法定相続分とは異なる配分や、特定の財産の集中取得も可能です。家庭裁判所の調停案内でも、話合いを通じて合意を目指し、解決のための必要な調整を行うとされており、相続は本質的に合意形成の手続です。

この柔軟性は、相続の実務では非常に大きな意味を持ちます。
たとえば、同居していた相続人が自宅を取得し、預金や金融資産で他の相続人を調整する、事業承継の必要があるので非上場株式を後継者に集中させる、といった形は、法定相続分だけでは処理しにくい問題に対応するための工夫です。相続は、数字の問題であると同時に、生活や経営の継続の問題でもあります。

6 協議がまとまらないときは家庭裁判所の調停に進む

もっとも、相続人の間で話合いが常にまとまるとは限りません。
誰がどれだけ取得するか、不動産の評価をどうみるか、過去の生前贈与や介護貢献をどう反映するかなどで対立が深まることは珍しくありません。そのような場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることができます。裁判所は、相続人間で話合いがつかない場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停又は審判を申し立てることができると案内しています。

調停では、裁判所がすぐに一方的な結論を押し付けるわけではありません。
家庭裁判所の案内では、調停委員会が事情を聴き、資料提出を受け、遺産の範囲や評価を整理したうえで、合意を目指して話合いを進めるとされています。そして、話合いがまとまらなければ、調停不成立となり、自動的に審判手続に移って裁判官が判断する流れになります。

7 協議が済んだ遺産や、遺言で決まっている遺産は別扱いになる

遺産分割協議は、「まだ分け方が決まっていない遺産」を対象にする手続です。
家庭裁判所は、すでに遺産分割協議が済んだ遺産については、遺産分割調停で取り扱うことはできないと説明しています。また、遺言で取得者が決められている遺産も同様です。ただし、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる分割をすることもできるとされています。

この点は、実務上かなり重要です。
「一部の財産だけはもう話がついている」「ある不動産だけは誰が取るか決まっている」という場合、その処理済み部分と未処理部分を分けて考える必要があります。協議は一度にすべてを確定するのが理想ですが、実際には、処理済みの財産と未処理の財産が混在することもあります。その場合でも、何が協議済みで、何がまだ残っているかをはっきりさせる必要があります。

8 実務では、協議を見据えて資料をそろえることが大切である

遺産分割協議は、感情論だけで進めるとうまくいきません。
実務では、少なくとも、戸籍による相続人の確定、預金残高、不動産資料、証券資料、固定資産評価証明書、必要に応じて通帳履歴や過去の贈与資料などをそろえて、共通の土台を作る必要があります。家庭裁判所も、調停では資料提出を受けながら遺産の範囲と評価を整理するとしています。

また、不動産の相続登記まで見据えるなら、最終的には協議書を登記に使える形で整える必要があります。
法務局の案内では、遺産分割協議を行った場合、相続人全員が実印を押印した遺産分割協議書と印鑑証明書の添付が必要になります。つまり、協議は単なる口約束では足りず、後の手続に耐える形で整理する必要があるということです。

9 まとめ|遺言がない相続は、全員参加の話合いが基本になる

遺言書がない場合、遺産の分け方は相続人全員で決めるのが基本です。
法務省は、遺産分割を、法律で決められた相続人が全員参加して相続財産の分け方を決定する手続だと案内しています。実務でも、遺産分割協議書には相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付する形が前提になっています。

もっとも、協議は単なる多数決ではなく、遺産の範囲、評価、取得方法を整理しながら全員の合意を目指す手続です。
話合いがまとまらなければ家庭裁判所の調停に進み、なお不成立なら審判に移ります。だからこそ、遺言がない相続では、最初から感情だけでぶつかるのではなく、相続人と遺産を整理したうえで協議に入ることが大切です。

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