第21講 遺産分割とは何か|相続人全員で話し合うとはどういうことか

第21講

遺産分割とは何か|相続人全員で話し合うとはどういうことか

被相続人が死亡し、相続人が複数いる場合、その瞬間から相続財産は共同相続人の共有状態に置かれます。民法898条はそのことを定め、民法907条は、共同相続人はいつでも遺産の全部又は一部の分割をすることができ、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所に分割を請求できるとしています。つまり、遺産分割とは、相続によっていったん共有状態になった財産を、最終的に誰がどの財産を取得するかという形に確定させる手続です。単に「仲良く話し合って分けること」ではなく、法律上の共有状態を解消するための作業だと理解する必要があります。

この点を押さえると、遺産分割がなぜ必要なのかも見えやすくなります。相続が始まっただけでは、各相続人は法定相続分という抽象的な持分を持つにとどまり、特定の預金口座や特定の不動産を「自分のもの」として単独で確定取得しているわけではありません。そこで、最終的に誰がどの財産を取得するのかを決め、共有状態を終わらせるのが遺産分割です。家庭裁判所のQ&Aでも、遺産分割は「遺産を相続人の間で確定的に分けること」が目的だと説明されています。

そして、ここでいう「話し合い」は、単なる多数決ではありません。遺産分割協議は、原則として相続人全員が当事者になります。裁判所の手続案内でも、遺産分割調停は原則として被相続人の法定相続人全員が当事者となると明記されています。これは協議でも同じ発想で、相続人の一部だけで決めた内容では、他の相続人を拘束できません。したがって、「長男と長女だけで話をまとめた」「同居していた者だけで決めた」という形では足りず、相続人に漏れがないことが大前提になります。

この「相続人全員」という要請があるため、遺産分割では第1に相続人の確定が必要になります。前講までで見たように、前婚の子、養子、認知された子、代襲相続人などがいると、外から見える家族関係だけでは当事者を確定できません。家庭裁判所のQ&Aでも、調停の最初の段階として、相続人に漏れがないか、法定相続分はどうかを確認すると整理されています。つまり、遺産分割の話し合いとは、最初から分け方の好みをぶつけることではなく、まず当事者を確定することから始まるのです。

第2に必要なのは、何を分割対象にするのかの確定です。裁判所のQ&Aでは、調停の進行として、相続人確定の次に「遺産として何があるのか、何を分割の対象とするのか」を確定するとされています。遺産分割の話し合いで揉めるのは、単に「誰が多く取るか」だけではありません。そもそもそれが遺産なのか、遺産分割の対象なのかというところから争いになります。相続の実務では、相続人の範囲と遺産の範囲が固まらない限り、分け方の議論は空中戦になりやすいのです。

第3に、評価の問題があります。家庭裁判所のQ&Aでも、相続人と遺産の範囲を確定した後に、遺産の評価、そして具体的分割方法へ進む流れが示されています。たとえば、不動産を誰か一人が取得するにしても、その評価額がいくらなのかで代償金の額は変わりますし、換価して分けるのか、共有のままにするのかでも結論は違います。したがって、遺産分割の話し合いは「これを欲しい」「あれはいらない」という感覚論だけではまとまらず、評価の共通土台を作ることが必要になります。

こうして見ると、遺産分割協議とは、実際にはかなり順序立った作業です。家庭裁判所が示す進め方でも、①相続人と法定相続分の確定、②遺産の範囲の確定、③遺産の評価、④具体的な分割方法の検討、という流れが示されています。実務で話がこじれる典型は、この順番を飛ばして、いきなり「家は誰が取るか」「預金をどう分けるか」に入ってしまう場合です。当事者や対象財産が固まっていない段階で結論だけ先に争えば、話がまとまらないのは当然です。

また、遺産分割で解決できる問題にも限界があります。京都家庭裁判所の手続案内では、使途不明金、葬儀費用、扶養や介護、祭祀承継、相続債務、遺産管理費用などは、本来の遺産分割の問題ではなく、原則として審判手続で解決できないと案内されています。つまり、遺産分割とは万能な家族紛争解決手続ではなく、あくまで「遺産をどう分けるか」の手続です。実務では、当事者は生前の介護負担や使途不明金への不満を強く持っていることが多いのですが、それらをすべて遺産分割の中で一気に解決できるとは限りません。

では、話し合いがまとまらなかったらどうなるのか。民法907条2項は、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に分割を請求できると定めています。裁判所の案内でも、共同相続人間で協議がととのわないとき又は協議をすることができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に遺産分割の調停又は審判を申し立てることができると説明されています。つまり、遺産分割は、協議が原則ではあるものの、協議が壊れた場合の裁判所ルートまで含めた制度です。

もっとも、裁判所に行く場合でも、最初からいきなり白黒がつくわけではありません。裁判所の説明では、調停は裁判官1人と調停委員2人以上で構成される調停委員会が、中立の立場から事情や意見を聴き、合意による解決を助ける手続であり、手続は非公開です。つまり、遺産分割の本筋は、裁判所に入ってからも、なお「全員でどう決めるか」を探ることにあります。審判はその後の段階であり、まずは調停で合意形成を目指すのが通常の流れです。

結局のところ、遺産分割とは、共同相続によって生じた共有状態を解消し、誰がどの遺産を確定的に取得するかを決める手続です。そして「相続人全員で話し合う」とは、単に顔をそろえて意見交換することではなく、全員を当事者に入れ、相続人の範囲、遺産の範囲、評価、分割方法を順に固めていくことを意味します。ここを正確に理解すると、遺産分割が感情論だけでは進まない理由も、逆に手順を踏めば整理可能である理由も見えてきます。

第22講では、ここからさらに具体化して、遺産分割協議はどう進めるか|何から決め、どこで揉めるのかを扱います。遺産分割の枠組みが分かったところで、次は実際の進め方に入ります。

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