第2講 不動産が多い相続の難しさ|収益不動産・自宅・共有問題をどう考えるか

第2講 不動産が多い相続の難しさ|収益不動産・自宅・共有問題をどう考えるか

相続財産の中に不動産が多く含まれる場合、相続は一気に難しくなります。預貯金であれば数字で割ることができますが、不動産はそうはいきません。しかも、相続が開始して遺産分割がまとまるまでの間、不動産は原則として相続人らの共有状態になります。現在は相続登記の申請も義務化されており、不動産を多く含む相続ほど、「とりあえず後で考える」という進め方が通用しにくくなっています。

富裕層の相続で不動産が問題になりやすいのは、単に評価額が大きいからではありません。不動産には、自宅、賃貸マンション、貸地、商業ビル、遊休地など、性質の異なるものが混在しやすく、それぞれ「使う」「持ち続ける」「収益を上げる」「売る」といった目的が異なるからです。金銭のように均等に切り分けられず、誰が取得するかによって、その後の生活、経営、税負担、管理負担まで変わってきます。ここに、不動産相続特有の難しさがあります。

1 自宅の相続は、金額よりも感情がぶつかりやすい

まず、自宅が問題になる場面です。被相続人が住んでいた家や、家族の思い出が強く残る不動産は、単なる「資産」ではありません。相続人の一人がそのまま住み続けたいと考える一方、別の相続人は換価して公平に分けたいと考えることがあります。ここでは価格だけでなく、居住の必要性、思い入れ、これまでの同居や介護の経緯などが絡み、話合いが感情的になりやすいのです。

実務上、自宅については、「一人が取得して代償金で調整する」「売却して代金を分ける」「一定期間は居住を認めつつ最終的な処理を決める」といった発想が問題になります。しかし、どの方法を採るにしても、前提として評価額の見方と、取得する側の資金手当てを詰めなければなりません。自宅は“住む価値”と“売れる価値”が必ずしも一致しないため、ここを曖昧にしたまま進めると、後で「不公平だ」という不満が噴き出しやすくなります。

2 収益不動産は、“儲かる財産”ではなく“管理責任を伴う財産”でもある

次に、賃貸マンションやアパート、テナントビル、駐車場などの収益不動産です。これらは相続人の外から見ると「家賃が入る良い財産」に見えますが、実際にはそう単純ではありません。空室リスク、修繕費、借入金、管理会社対応、テナントとの関係、固定資産税等、継続的な管理と判断が必要になります。したがって、収益不動産を取得する人は、財産を受け取るだけでなく、事実上、経営や維持管理も引き受けることになります。

そのため、収益不動産の相続では、「誰が取得するか」と「誰が管理できるか」を分けて考えてはいけません。現に管理してきた相続人が引き継ぐのか、それとも売却して現金化するのか、あるいは法人や管理体制を含めて承継させるのか。こうした設計を欠いたまま形式的に“平等”を目指すと、取得した人は負担が重く、取得しなかった人は「価値のあるものを持っていかれた」と感じ、双方に不満が残りやすくなります。

3 不動産の共有は、一見公平でも、長期的には火種になりやすい

不動産相続で安易に選ばれがちなのが「とりあえず共有」です。今すぐ決め切れないとき、持分だけ決めておけば一応その場は収まります。しかし、共有は、先送りであって解決ではないことが少なくありません。法務省の案内でも、遺産分割がまとまるまでは相続人らが法定相続分の割合で共有する状態になると説明されています。

共有状態になると、共有物の「変更」は原則として共有者全員の同意が必要であり、他方で「管理」に関する事項は、民法251条の場合を除き、持分価格の過半数で決するとされています。また、「保存行為」は各共有者が単独で行うことができます。つまり、何が変更で、何が管理で、どこまでを単独でできるのかというルールを前提に、共有者間で意思決定をしなければなりません。

この仕組みは、理屈としては整理されていますが、相続の現場ではしばしば使いにくいものです。たとえば、大規模修繕、用途変更、建替え、長期的な活用方針の変更など、不動産の価値に大きく関わる判断ほど、共有者間の足並みがそろわないことがあります。自宅なら「誰が住むのか」で対立し、収益不動産なら「持ち続けるのか、処分するのか」「どこまで費用をかけるのか」で対立します。共有はその場の公平感を作れても、後の運用局面で対立を固定化しやすいのです。

4 放置すると、共有問題はさらに複雑化する

不動産の共有を放置すると、次の相続が起きたときに問題が一段と深くなります。法務省の資料でも、土地について数次相続が生じている場合、遺産共有の状態を解消するには、被相続人ごとにそれぞれ遺産分割手続を実施しなければならないと説明されています。つまり、今日の「とりあえず共有」は、数年後には「誰の相続から片付けるのか」という、より重い問題に変わり得るのです。

この意味で、不動産相続では、共有にした瞬間よりも、その後の時間経過のほうが危険です。相続人の一人が亡くなり、その配偶者や子が新たに関係者となれば、当初の兄弟間の話合いは、次の世代を巻き込んだ複雑な利害調整に変わります。相続人の人数が増えるほど、合意形成は難しくなり、登記や利用関係の整理も重くなります。

5 相続登記の義務化で、“後回し”のコストはさらに高くなった

現在は、相続や遺言によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続開始があったことと、その不動産を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をする義務があります。また、遺産分割が成立した場合には、その成立日から3年以内に、その内容を踏まえた登記申請をする追加的義務もあります。正当な理由なく怠ったときは、10万円以下の過料の対象となり得ます。

したがって、不動産が多い相続では、単に「誰が何をもらうか」を考えるだけでなく、「どの段階で、どの登記をし、共有状態をどう解消するか」という工程管理が不可欠です。特に、収益不動産や複数物件を含む相続では、財産調査、評価、分け方、資金手当て、登記の順序が互いに絡み合います。不動産が多いほど、法務・税務・実務の整理を同時並行で進める必要があるのです。

6 不動産が多い相続で、最初に見るべきポイント

では、実務上どこから考えるべきでしょうか。重要なのは、物件ごとに「性質」を分けて見ることです。自宅なのか、収益物件なのか、事業用なのか、将来的に売却予定なのか。これを曖昧にしたまま「総額で平等」を目指すと、たいてい無理が生じます。

その上で、「誰が使うのか」「誰が管理できるのか」「取得した人に代償金を払う資力があるのか」「借入れや修繕負担を誰が引き受けるのか」「共有を残すとしても、それは一時的措置なのか恒常的な形なのか」を整理する必要があります。不動産相続では、法律上の持分だけでは問題は終わりません。現実に使い、維持し、費用を出し、責任を負うのが誰かまで見て、初めて分け方の良し悪しが見えてきます。

7 まとめ

不動産が多い相続の難しさは、評価額の大きさよりも、「分けにくさ」と「後に残る管理問題」にあります。自宅は感情と居住の問題を伴い、収益不動産は管理責任と収益性の問題を伴い、共有は一見公平でも将来の対立を残しやすい。しかも今は、相続登記の義務化により、不動産相続を長く曖昧なまま放置するコストも高くなっています。

したがって、不動産が多い相続では、「とりあえず共有」に逃げるのではなく、それぞれの不動産の性質に応じて、保有、承継、換価、管理の方針を早めに設計することが重要です。次回は、自社株と事業承継の問題に進み、会社を残す相続と、他の相続人への公平をどう両立させるかを考えていきます。

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