第5回 固定残業代があると言われたら|有効な場合と無効な場合

第5回 固定残業代があると言われたら|有効な場合と無効な場合

求人票や雇用契約書、給与明細に「固定残業代込み」「みなし残業代含む」と書かれていると、それだけで残業代の問題は終わりだと思ってしまう方が少なくありません。ですが、固定残業代は、制度として当然に違法というわけでもなければ、書いてあるだけで当然に有効というわけでもありません。問題になるのは、そのお金が本当に割増賃金として明確に位置付けられているか、法定計算を下回っていないか、そして固定時間を超えた分がきちんと追加で支払われているかです。

1 そもそも固定残業代とは何か

固定残業代とは、名称のいかんにかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金を、あらかじめ定額で支払う仕組みをいいます。厚生労働省は、募集・求人の段階で固定残業代制を採用する場合、少なくとも、固定残業代を除いた基本給額、固定残業代の時間数と金額等の計算方法、固定時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して追加で割増賃金を支払う旨を明示するよう求めています。

2 固定残業代は、あるだけで無効でも、あるだけで有効でもない

この点は誤解が多いところですが、最高裁は、割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支払う方法自体が、直ちに労働基準法37条に反するわけではないとしています。他方で、その手当が本当に時間外労働等の対価として支払われるものかどうかは、雇用契約書や賃金規程の記載だけでなく、会社が労働者にどう説明していたか、実際の労働時間がどうだったかなどを踏まえて判断すべきだとも述べています。つまり、固定残業代は「制度としてあり得る」が、「実際にその会社で有効に機能しているか」は別途見なければならない、ということです。

3 有効性を考えるうえでの基本ポイント

厚生労働省の裁判例整理では、定額残業制が問題になる場面で重要なのは、割増賃金に当たる部分と、それ以外の通常の賃金部分とが明確に区別されているかどうかだとされています。さらに、固定残業代で予定された時間数や金額を超えて時間外労働等が行われた場合には、その差額を別途支払う必要があります。法定休日労働や深夜労働についても同様です。したがって、固定残業代の有効性をみるときは、単に「毎月〇万円払っている」という事実ではなく、その内訳と、超過分精算の仕組みまで確認する必要があります。

4 会社の説明で特に注意したいところ

実務上、注意すべきなのは、「固定残業代込み」という一言だけで片づけようとする説明です。たとえば、基本給と固定残業代の区別が曖昧であったり、何時間分なのかが分からなかったり、時間数は書いてあってもその時間を超えた場合の追加支払について説明がなかったりする場合には、固定残業代としての有効性に疑義が生じやすくなります。これは、厚生労働省が求人・募集段階で求めている表示内容や、裁判例整理が求める「明確な区別」「差額の別途支払」と整合しないからです。これは条文そのものではなく、公的資料から導かれる実務上の見立てです。

5 「手当」という名前なら会社が有利になるわけではない

固定残業代の論点では、手当の名称に引きずられないことも大切です。厚生労働省の資料では、「固定残業代」は名称にかかわらず一定時間分の割増賃金として定額で支払われるものを指すとされており、最高裁も、ある手当が時間外労働等の対価かどうかは、契約書等の記載内容、説明内容、勤務状況などを考慮して判断するとしています。したがって、「業務手当」「職務手当」「営業手当」などの名前になっていても、実質的に固定残業代かどうか、逆に固定残業代だと言いながら実態として通常賃金の一部にすぎないのではないか、という両方向から検討する必要があります。

6 固定残業代があっても、差額請求が残ることがある

固定残業代が一定の範囲で有効だとしても、それであらゆる残業代請求が消えるわけではありません。厚生労働省の裁判例整理では、定額残業制によってまかなわれる残業時間数等を超えて残業等が行われた場合、その差額を別途支払う必要があると明示されています。したがって、たとえば「30時間分の固定残業代」が設定されていても、実際には毎月45時間、60時間と残業しているのに差額が支払われていないのであれば、そこには未払い残業代の問題が残ります。

7 相談のときに確認したい資料

固定残業代の問題では、雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程、就業規則、求人票、給与明細、勤怠資料をセットで確認したいところです。最高裁が、契約書等の記載内容、会社の説明、実際の勤務状況を総合考慮するとしている以上、書面だけ見ても足りず、逆に勤怠だけ見ても足りません。何時間分の固定残業代として設計されていたのか、通常賃金との区別がどうなっていたのか、超過分の精算がされていたのかを、資料全体から読み解く必要があります。

8 まとめ

固定残業代は、「書いてあれば終わり」でもなければ、「固定残業代という制度だから全部無効」でもありません。大事なのは、通常の賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されているか、時間数と金額の設計が示されているか、固定時間を超えた残業や休日・深夜労働について追加支払がされているか、という点です。求人票や給与明細の文言だけで諦めず、制度の中身と実際の運用を分けて見ることが、未払い残業代の有無を判断する出発点になります。

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