第7回 パワハラ・職場いじめへの対応|我慢する前に確認したいポイント

第7回 パワハラ・職場いじめへの対応|我慢する前に確認したいポイント

職場で強い叱責を受け続ける、無視される、仕事を与えられない、あるいは到底達成できない業務を押し付けられる。こうした場面で、「これは厳しい指導なのか、それともパワハラなのか」が分からず、我慢を重ねてしまう方は少なくありません。ですが、職場におけるパワーハラスメントには法律上の定義があり、会社にも防止措置や相談対応の義務があります。単に「嫌な思いをした」で終わらせず、どこからが労働事件として問題になりやすいのかを整理しておくことが重要です。

1 法律上のパワハラとは何か

厚生労働省の指針では、職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる言動であって、①優越的な関係を背景としたもの、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、という3つの要素をすべて満たすものをいいます。反対にいえば、上司からの言動であっても、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲の適正な業務指示や指導であれば、直ちにパワハラとはされません。

ここでいう「優越的な関係」は、単純な上司・部下だけに限りません。厚生労働省は、同僚や部下であっても、その人の協力がなければ業務遂行が難しい場合や、集団で抵抗しにくい形で行われる場合には、この要素を満たし得るとしています。また、「職場」も会社の建物の中だけではなく、出張先、業務で使う車中、取引先との打合せ場所、さらには勤務時間外の懇親の場であっても、実質上職務の延長といえるときは含まれます。

2 典型的に問題になる6つの類型

厚生労働省は、代表的な類型として、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の6類型を示しています。たとえば、殴る・物を投げつけるといった暴行、人格を否定する暴言、長時間にわたる厳しい叱責の反復、集団での無視や孤立化、到底達成困難な目標の押し付け、嫌がらせ目的で仕事を与えないこと、私的情報の暴露などが典型例として挙げられています。

もっとも、この6類型はあくまで代表例であって、そこに入らないものは問題にならない、という意味ではありません。厚生労働省のポータルサイトでも、6類型はパワハラになり得る行為のすべてを網羅したものではないと明示されています。現実の事案では、言動の目的、経緯、頻度、継続性、被害者側の心身の状況などを含め、総合的に判断されます。

3 厳しい指導とパワハラはどう違うのか

実務で最も揉めやすいのは、「指導の範囲内だったのか、それとも業務上必要かつ相当な範囲を超えていたのか」という点です。厚生労働省は、この判断に当たって、言動の目的、問題行動の有無や程度、当時の状況、業種・業態、業務の内容、言動の態様や頻度、継続性、被害者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合考慮するとしています。つまり、一度強い口調で注意しただけで直ちに違法となるわけではありませんが、必要性を超えて人格否定に及んだり、同様の叱責を長期間反復したりすれば、指導の名を借りたパワハラとして問題化しやすくなります。

厚生労働省は、労働者に問題行動があった場合であっても、人格を否定するような言動など、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものは当然にパワハラに当たり得るとしています。したがって、会社側が「本人にも落ち度があった」「ミスを叱っただけだ」と主張していても、それだけで終わるわけではありません。問題は、どのような方法で、どの程度まで、どれくらい継続して行われたのかです。

4 会社には防止措置と相談対応の義務がある

労働施策総合推進法により、事業主には、職場におけるパワーハラスメントについて、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる義務があります。中小企業についても、パワハラ防止措置は2022年4月1日から義務化されています。

指針では、相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知すること、パワハラが現実に生じている場合だけでなく、そのおそれがある場合や該当するか微妙な場合でも広く相談に対応すること、事案があれば迅速かつ正確に事実関係を確認することなどが求められています。さらに、相談者や行為者のプライバシー保護に必要な措置を講じ、その旨を周知すること、相談したことや事実確認に協力したことなどを理由に解雇その他の不利益取扱いをしてはならないことも、指針と法文上明確にされています。

5 我慢する前に何を確認すべきか

この場面で大切なのは、「つらい」という感覚をそのまま押し込めるのではなく、事実を切り出して整理することです。具体的には、いつ、どこで、誰から、どのような言動を受けたのか、その場に誰がいたのか、どんな資料が残っているのかを確認する必要があります。厚生労働省の相談案内でも、外部窓口に相談する際には、日時、場所、言われた内容や強要された内容、相手、目撃者などを整理して持っていくとよいとされています。

証拠としては、メール、チャット、録音、メモ、日報、シフト表、面談記録、診断書など、後から経過を再現できるものが重要です。特にパワハラ事案では、「そんなつもりはなかった」「指導だった」「受け止め方の問題だ」と反論されやすいため、単発の感想よりも、継続的な経過と具体的な文言を示せる資料の価値が高くなります。これは厚生労働省の指針が、相談者・行為者双方から丁寧に事実確認することを重視していることからも分かる実務上の要点です。

6 社内でだめなら外部窓口もある

社内に相談窓口がない、相談しても取り合ってもらえない、社内相談だと不利益が怖いという場合には、外部窓口の利用も選択肢になります。厚生労働省は、総合労働相談コーナーで、いじめ・嫌がらせ・パワハラを含む幅広い労働問題について、面談または電話で、予約不要・無料で相談を受け付けていると案内しています。さらに、必要に応じて助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせんにつなぐ制度も用意されています。

また、個別労働紛争解決制度の利用は無料で、労働者がこれを利用したことを理由として事業主が不利益取扱いをすることは法律で禁止されています。社内対応が機能しないときに、外部相談を「大ごとにしすぎる」とためらう必要はありません。むしろ、記録を持って早めに相談する方が、後の見通しを立てやすくなります。

7 心身に影響が出ているなら、そこも切り離さない

パワハラ問題では、言動自体だけでなく、それによって体調不良やメンタル不調が生じているかも重要です。厚生労働省の指針でも、該当性判断に当たっては、労働者が受ける身体的・精神的苦痛の程度や、心身の状況への配慮が必要だとされています。職場での出来事と体調悪化が重なっている場合には、医療機関の受診や診断書の確保も、後の整理において意味を持ちます。なお、労災との関係は別論点としてさらに検討が必要なので、このシリーズでは次の回で扱います。

まとめ

パワハラ・職場いじめの問題では、「上司に厳しく言われた」というだけで直ちに違法になるわけではありませんが、優越的関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動が行われ、就業環境が害されているのであれば、法律上のパワハラとして問題になる可能性があります。暴言、孤立化、過大な要求、仕事を与えないこと、私生活への過度な介入などは典型例ですし、会社には相談窓口の整備、事実確認、再発防止、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止といった義務があります。

大事なのは、我慢するか辞めるかの二択で考えないことです。まずは、何が起きたのかを具体的に記録し、社内外の相談ルートを使い、必要なら法的整理に持ち込む。その初動で、後の見通しはかなり変わります。

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