第6講 遺言書がある場合どうなるか|自筆証書・公正証書・秘密証書

第6講 遺言書がある場合どうなるか|自筆証書・公正証書・秘密証書

相続では、遺言書があるかどうかで流れが大きく変わります。
遺言書がなければ、原則として相続人全員で遺産分割協議を行うことになりますが、遺言書があれば、その内容に従って遺産の取得者や取得割合が決まることがあります。家庭裁判所の遺産分割手続案内でも、遺言書により遺産の取得者が決まっている場合などを除き、原則として法定相続人間の協議により遺産分割を行うと説明されています。

もっとも、「遺言書がある」といっても、種類によって作り方も、見つかった後の対応も違います。
普通方式の遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、それぞれ方式や安全性、検認の要否が異なります。したがって、相続開始後に遺言書らしきものが見つかった場合は、まずどの方式の遺言なのかを見極めることが重要です。

1 遺言書があると、相続の出発点が変わる

遺言書の役割は、亡くなった方の最終意思を、法的な形で相続に反映させることにあります。
そのため、遺言書がある場合には、「誰が何を取得するか」という出発点が、法定相続分や単純な話合いではなく、まず遺言の内容から決まることになります。もっとも、遺言の内容や書き方によっては、なお解釈や執行で問題が残ることもあります。

ただし、遺言書が見つかったからといって、すぐにそのまま自由に使えるとは限りません。
裁判所は、遺言書の保管者や発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならないと案内しています。他方で、公正証書遺言と、法務局に保管されている自筆証書遺言について交付される「遺言書情報証明書」は、検認が不要です。

2 自筆証書遺言とは何か

自筆証書遺言は、遺言者本人が自分で作成する遺言です。
民法968条は、自筆証書によって遺言をするには、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないと定めています。法務省の案内でも、全文、作成日付、氏名を遺言者が自書し、押印することが要件だと説明されています。

この方式の長所は、本人だけで作成でき、比較的手軽であることです。
法務局の案内でも、自筆証書遺言は本人のみで作成でき、手軽で自由度が高いと整理されています。他方で、方式の不備があると無効になるおそれがあり、自宅保管では紛失、隠匿、改ざんの危険もあります。

なお、現在は財産目録について例外があります。
法務省の案内では、財産目録は自書でなくてもよく、パソコンで作成したり、通帳のコピー等を添付する方法も認められていますが、その場合は目録の各ページに署名押印が必要です。つまり、遺言本文まで全部パソコンで作れるわけではなく、緩和されているのは主に財産目録部分です。

3 自筆証書遺言は「保管場所」で対応が変わる

自筆証書遺言は、自宅などで保管されている場合と、法務局の保管制度を利用している場合とで、相続開始後の対応が大きく違います。
裁判所は、公正証書遺言のほか、法務局に保管されている自筆証書遺言について交付される「遺言書情報証明書」は検認不要であると案内しています。また法務省も、保管制度を利用した遺言書は、相続開始後に閲覧や証明書交付を受けられ、家庭裁判所の検認が不要だと説明しています。

反対に、自宅保管の自筆証書遺言は、原則として検認が必要です。
そして、封印のある遺言書については、家庭裁判所で相続人等の立会いのもとで開封しなければならないと裁判所は明示しています。したがって、自筆証書遺言らしき封書を見つけた場合に、相続人が勝手に開封して進めるのは避けるべきです。

4 公正証書遺言とは何か

公正証書遺言は、公証人が関与して作成する遺言です。
民法969条は、公正証書による遺言には、証人2人以上の立会いがあること、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること、公証人がこれを筆記して遺言者と証人に読み聞かせることなどの方式を定めています。法務省や法務局の案内でも、公正証書遺言は公証人が作成に関与し、原本が保管される方式として紹介されています。

この方式の大きな利点は、方式不備の危険が小さく、原本保管もされることです。
法務局の比較資料では、公正証書遺言は形式不備等により無効になるおそれがないこと、原本が公証役場で保管されるため紛失・隠匿・偽造のおそれが小さいこと、家庭裁判所の検認が不要であることが示されています。

その反面、公正証書遺言は本人だけで完結するものではなく、証人や公証人が関与し、財産額に応じた手数料も必要です。
法務局の資料でも、公正証書遺言には証人2名の立会いが必要で、財産価格に応じた手数料がかかると案内されています。手軽さでは自筆証書に劣りますが、安全性と執行のしやすさでは非常に強い方式です。

5 秘密証書遺言とは何か

秘密証書遺言は、遺言の内容自体は秘密にしつつ、その文書が自分の遺言であることを公証人と証人の前で確認してもらう方式です。
民法970条は、秘密証書遺言について、遺言者がその証書に署名押印し、証書を封じて同じ印で封印し、公証人1人および証人2人以上の立会いのもとで自己の遺言書である旨などを申述することを要件としています。

もっとも、秘密証書遺言は、公正証書遺言のように内容そのものを公証人がチェックする仕組みではありません。
また、裁判所の検認不要の対象として明示されているのは公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言であり、秘密証書遺言はそこに含まれていません。そのため、秘密証書遺言は制度上存在するものの、一般的な相続実務では中心になりにくく、法務省も実際によく利用される方式としては自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類を前面に出しています。これは、秘密証書遺言の位置づけを示す実務的な傾向として理解できます。

6 検認とは何か、何ではないのか

検認は、遺言書の有効・無効を判断する手続ではありません。
裁判所は、検認とは、相続人に遺言の存在と内容を知らせ、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを明確にして、偽造・変造を防止するための手続であると説明しています。つまり、検認を受けたから有効になるわけでも、逆に無効が確定するわけでもありません。

この点は実務上とても重要です。
「検認済みだから内容は絶対に争えない」という理解は誤りであり、方式違反、遺言能力、意思能力、内容解釈などの問題は別途争われ得ます。したがって、検認はあくまで執行の入口であり、遺言の実質的な有効性とは切り分けて考える必要があります。

7 相続開始後に遺言書が見つかったときの実務

実務上、遺言書が見つかったときにまずやるべきなのは、方式の確認です。
自筆証書なのか、公正証書なのか、法務局保管の自筆証書なのか、秘密証書なのかで、必要な手続が変わります。家庭裁判所や法務局の案内でも、検認の要否や取得できる証明書が方式ごとに異なることが示されています。

そのうえで、自筆証書遺言らしきものを自宅等で見つけた場合は、安易に開封・処理せず、家庭裁判所への検認手続を視野に入れるべきです。
一方、公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言であれば、検認を経ずに、証明書や謄本的な資料を基に預金・登記などの手続を進めやすくなります。方式ごとの差は、まさにこの実務のスムーズさに表れます。

8 結局、どの方式が実務上おすすめか

一般論としては、手軽さを重視するなら自筆証書遺言、安全性と執行のしやすさを重視するなら公正証書遺言という整理が分かりやすいです。
法務局や法務省の資料でも、自筆証書遺言は自由度が高く本人のみで作成できる一方、公正証書遺言は原本保管や形式面の安定性に優れると整理されています。

秘密証書遺言は制度としては存在しますが、相続実務の主役はやはり自筆証書遺言と公正証書遺言です。
法務省が「一番利用されている」のはこの2種類だと案内していることからも、その傾向は明らかです。したがって、一般の相続対策としては、まずこの2つを比較検討するのが現実的です。

9 まとめ|遺言書は「あるか」だけでなく「どの方式か」が重要である

遺言書がある場合、相続の出発点は遺言の内容になります。
そして、普通方式の遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、自筆証書遺言は本人作成型、公正証書遺言は公証人関与型、秘密証書遺言は内容を秘密にしたまま存在を公的に確認してもらう型だと整理できます。

もっとも、相続開始後の実務では、検認が必要かどうかが大きな分かれ目です。
公正証書遺言と、法務局に保管されている自筆証書遺言は検認不要ですが、自宅保管の自筆証書遺言や秘密証書遺言は原則として検認を要します。また、検認は有効性判断ではなく、遺言書の状態を確認して偽造・変造を防止するための手続です。

したがって、遺言書が見つかったときは、まず内容に飛びつくのではなく、方式と保管状況を確認することが肝心です。
ここを間違えないことが、その後の預金払戻しや相続登記、遺産分割を円滑に進める第一歩になります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA