第2講 労働者か、業務委託か|最初に確認すべき「立場」の問題

第2講 労働者か、業務委託か|最初に確認すべき「立場」の問題

会社とのトラブルを考えるとき、多くの方は、まず「残業代が出るか」「解雇が有効か」「有休が取れるか」といった個別論点から入ります。けれども、その前に必ず確認しなければならない、もっと根本の問題があります。そもそもその人が、労働法上の「労働者」なのか、それとも業務委託や請負として扱われる立場なのか、という問題です。ここを取り違えると、議論の入口そのものがずれてしまいます。

労働基準法9条は、「労働者」を、事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者と定めています。そして厚生労働省は、この労働者性を、契約書の名前だけでなく、実際の働き方に即して判断すると整理しています。つまり、契約書に「業務委託」「請負」「フリーランス」と書いてあっても、それだけで労働者でなくなるわけではありません。

この点は実務上とても重要です。会社側は、社会保険や残業代、解雇規制などの負担を避けるため、形式上は業務委託にしていることがあります。しかし、実態としては毎日出社し、勤務時間が決められ、上司の指示に従い、代わりの人を立てることもできず、報酬もほぼ時給や月給のように計算されているのであれば、それは「名前だけ業務委託」で、法的には労働者に当たる可能性があります。厚生労働省も、フリーランスであっても働き方によっては労働者に当たりうると明示しています。

1 なぜ「立場」の確認がそんなに大事なのか

その人が労働者に当たると評価されれば、労働基準法の労働時間規制や賃金支払ルール、労働契約法などの保護が問題になります。反対に、純粋な業務委託であれば、基本的には民法上の契約問題として処理され、残業代や解雇権濫用法理のような労働法独自の保護は、当然には前提になりません。つまり、「どの法律で守られるのか」が最初の立場の認定で大きく変わります。

たとえば、報酬の未払いが起きたとしても、労働者であれば未払賃金の問題になりますが、業務委託であれば報酬請求権の問題として構成するのが基本です。仕事を打ち切られた場合も、労働者なら解雇や雇止めの問題として争える余地がありますが、純粋な委託であれば契約終了の可否や債務不履行の問題として組み立てることになります。出発点が違えば、主張も証拠も使う法律も変わってきます。

2 契約書のタイトルではなく、実態で決まる

この場面で最もよくある誤解は、「業務委託契約書にサインしているから労働者ではない」という考え方です。しかし、厚生労働省は、契約の形式や名称にかかわらず、契約内容、労務提供の形態、報酬その他の事情から個別に総合判断すると整理しています。要するに、書面の表紙よりも中身、名札よりも実際の働かせ方を見る、ということです。

ですから、会社側が「これは外注です」「フリーランスです」と説明していても、その一言で結論は決まりません。逆に、本人が「私は社員ではないから何も言えない」と思い込んでいても、法的にはそうではない可能性があります。ここで必要なのは、契約書の文言をうのみにすることではなく、日々どう働いていたかを具体的に見直すことです。

3 実務で見る中心は「使用従属性」である

厚生労働省は、労働基準法上の労働者性を判断する中心的な基準として、いわゆる「使用従属性」を示しています。これは大きく二つに分かれます。第一に、他人の指揮監督の下で働いているかどうか。第二に、その報酬が、そのような労務提供の対価として支払われているかどうかです。

そして、この使用従属性をみるための具体的要素として、厚生労働省は、仕事の依頼や業務指示に対して断る自由があるか、業務の進め方について具体的な指揮監督があるか、時間や場所の拘束があるか、本人に代わって他人がやれるか、さらに事業者性や専属性があるかなどを挙げています。これは単純なチェックボックスではなく、全体としてどちらに傾くかを見るための材料です。

ここで大事なのは、「ひとつ当てはまったら即労働者」「ひとつ外れたら即業務委託」というものではないことです。たとえば、ある程度自分で仕事の順番を決められても、出勤日や勤務時間が固定され、日報提出が義務づけられ、報酬も時間ベースで払われているなら、なお労働者性が強く出ることがあります。反対に、納品物だけ決まっていて、作業場所も時間も自由で、代替も可能で、複数の発注者から仕事を受け、報酬も出来高払いであれば、事業者性が強く出ます。これはまさに総合判断の問題です。

4 どんな事情があると「労働者らしい」のか

実務感覚としては、まず「断れない」「指示される」「縛られる」という事情が強いほど、労働者性は濃くなります。仕事を受けるかどうか自由に決められず、会社からの依頼を事実上拒否できない。業務内容や順番、方法について細かい指示がある。勤務場所や始業終業時刻が決められている。こうした事情は、会社の組織の中に組み込まれて働いていることを示しやすいものです。

また、本人に代わって他人を使えないことも重要です。純粋な請負や委任であれば、結果の完成や事務処理が目的ですから、一定の範囲で代替が許されることがあります。しかし、本人が自ら出て働くこと自体を求められ、代わりを立てられないのであれば、それは「その人の労務」への依存が強いことを示します。厚生労働省も、代替性の有無を補強要素として挙げています。

さらに、報酬の性質も見逃せません。時間給、日給、月給に近い形で計算される、欠勤で控除される、働いた時間に応じて増減する、といった事情は、報酬が成果物の代金ではなく、労務そのものの対価として支払われていることをうかがわせます。反対に、完成した成果物一件いくら、プロジェクト単位でいくらという色彩が強い場合は、委託らしさが出てきます。

5 「業務委託らしさ」が強いのはどんな場合か

他方で、本当に業務委託とみるべき場面ももちろんあります。典型的には、仕事を受けるかどうかを自分で選べる、仕事の進め方を自分で決められる、作業場所や時間も自由、機材や経費も自分持ち、補助者を使うかどうかも自分で決める、複数の取引先を持っている、といった場合です。こうした働き方は、会社に従属して働くというより、自分の事業として仕事を受けている姿に近いといえます。

もっとも、ここでも形式論は危険です。たとえば「自分のパソコンを使っているから業務委託」といった単純な話ではありません。今どきは在宅ワークでもPCは本人所有ということがありますし、逆に外形上は自由そうでも、実際には発注者のスケジュール、指示、審査、レポート義務に強く縛られていることもあります。結局は、個々の事情を積み上げてみないと分からない、というのがこの論点の本質です。

6 労働基準法上の労働者と、労働組合法上の労働者は少し違う

ここで少しだけ補足しておくと、法律によって「労働者」の範囲は同じではありません。労働組合法3条は、労働者を、職業の種類を問わず、賃金・給料その他これに準ずる収入によって生活する者と定めています。厚生労働省も、労働組合法上の労働者の範囲は労働基準法上より広く、労働基準法上の労働者に当たれば労働組合法上の労働者にも当たる、と整理しています。

これは何を意味するかというと、たとえば残業代請求までは難しくても、団体交渉の保護という場面では労組法上の労働者として扱われる余地がある、ということです。実務上は、「労基法上の労働者ではないから何もできない」と早合点しないことが大切です。どの法律の保護を問題にするのかによって、射程がずれることがあります。

7 では、実際に何を集めればよいのか

この論点で最も大事なのは、抽象論ではなく、実態を示す資料です。契約書や発注書、報酬明細、請求書だけでなく、勤務シフト、チャットやメールでの業務指示、日報、マニュアル、研修資料、遅刻欠勤の扱いが分かるやり取り、代替が認められていたかどうかを示す資料などが重要になります。労働者性は総合判断ですから、一発で決まる証拠より、細かな事実の積み重ねが効きます。これは上の判断基準からほぼそのまま導かれる実務上の発想です。

特に、会社から細かい指示を受けていたこと、断る自由が乏しかったこと、時間や場所の拘束があったこと、報酬が時間ベースであったことを示す資料は重要です。逆に、自分で営業し、代替も自由で、成果物単位で請けていた事情が強いなら、業務委託側の事情として整理されます。どちらにせよ、感覚で語るのではなく、資料で時系列化することが必要です。

8 迷うときは「名目」ではなく「働かせ方」を見る

この問題で最後に強調しておきたいのは、肩書や契約名に引きずられないことです。社員証がない、請求書を出している、源泉の扱いが給与ではない、といった事情は参考にはなりますが、それだけで結論は出ません。大事なのは、その人が、実際には誰の指揮の下で、どの程度縛られ、どのような対価の支払いを受けていたかです。

厚生労働省は、労働者性に疑義がある場合、労働基準監督署が、申告として調査した事案では原則としてその人が労働者に当たるかどうかを判断すると案内しています。ですから、悩ましい事案では、最初から諦めるのではなく、資料を整えた上で相談に持ち込む意味があります。

9 まとめ|入口の見誤りが、その後の全部をずらす

労働問題では、未払賃金、解雇、ハラスメントといった個別論点に目が向きがちです。しかし、その前提として、その人が法的にどの立場にあるのかを見誤ると、使うべき法律も、集めるべき証拠も、交渉の組み立ても、全部ずれてしまいます。労働者か、業務委託か。これは単なる肩書の問題ではなく、労働法の保護の入口そのものです。

そして、この論点の結論は、契約書の名前ではなく、実際の働かせ方で決まります。断れるか、指示されるか、拘束されるか、代替できるか、報酬は何に対して払われているのか。こうした事情を一つずつ確かめることが、労働問題の最初の一歩になります。

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