第33講 整理解雇とは何か|経営悪化で人を減らすときのルール
第33講 整理解雇とは何か|経営悪化で人を減らすときのルール

整理解雇とは、不況や経営不振など、使用者側の事情によって人員削減のために行う解雇をいいます。厚生労働省も、整理解雇は「使用者側の事情による解雇」であり、通常の解雇以上に厳しく有効性が判断されると整理しています。その法的な土台は労働契約法16条で、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合には無効になります。整理解雇はまさにこの条文のもとで、特に厳しく見られる類型です。
整理解雇でまず押さえるべきなのは、「会社が苦しいから解雇できる」という単純な話ではないことです。厚生労働省は、整理解雇の有効性をみる際の代表的な観点として、①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④解雇手続の妥当性、の四つを挙げています。実務では、これを「四要件」あるいは「四要素」と呼ぶことが多く、近時は総合判断という言い方もされますが、見るべき中身自体は大きく変わっていません。
第一のポイントは、本当に人を減らす必要があったのかです。ここでいう必要性は、単なる気分や経営者の抽象的不安では足りません。厚生労働省の資料でも、人員削減措置の実施が不況や経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていることが求められるとされています。他方で、近時の裁判例傾向としては、倒産寸前でなければ足りないとまではされず、体質強化や事業戦略上の再編に必要性を認めるものもあると整理されています。つまり、必要性のハードルは高いが、「明日倒産する会社でなければ無理」というほど狭くもない、というのが実務感覚です。
第二のポイントは、解雇を避ける努力を尽くしたかです。ここが整理解雇で最も重要になりやすいところです。厚生労働省は、配置転換、希望退職者の募集など、他の手段によって解雇回避のために努力したことを要すると明示しています。別の厚労省資料でも、残業規制、新規採用中止、役職手当カット、配転・出向、一時帰休、希望退職募集などが解雇回避努力として挙げられています。要するに、会社は「人を切る前に、まだやれることがなかったか」をかなり問われるのです。
このため、整理解雇は「指名解雇が最後の手段だったか」という発想で見ると分かりやすいです。売上が落ちたからすぐ解雇、部署を閉じるからその部署の人をすぐ解雇、という処理は危険です。希望退職、自然減、配転、出向、賃金・役員報酬の見直しなどを飛ばして直ちに解雇に進むと、解雇回避努力が不足していると評価されやすくなります。厚生労働省のあっせん事例解説でも、整理解雇は使用者の責任に属する経営上の理由による解雇であることから、解雇権濫用法理の適用がより厳しく判断される傾向にあるとされています。
第三のポイントは、誰を対象にするかの人選が合理的かです。厚生労働省は、整理解雇の対象者を決める基準が客観的・合理的であり、その運用も公正であることを求めています。したがって、「上司と合わない人から切る」「扱いにくい人を狙い撃ちする」「妊娠中や育休復帰者ばかり対象になる」といったやり方は非常に危ういです。勤務成績、勤続年数、担当業務、資格、部門閉鎖との関係など、基準自体に説明可能性があるか、その基準が恣意的に運用されていないかが重要です。
第四のポイントは、手続が妥当だったかです。厚生労働省は、労働組合または労働者に対し、解雇の必要性、その時期、規模、方法について納得を得るための説明を行うことを整理解雇の判断要素に挙げています。厚労省の事例解説でも、「説明・協議義務」の実施が重視されるとされ、突然の口頭通告だけでは不十分と評価されやすいことがうかがえます。整理解雇は、本人に責任がないのに職を失わせる場面ですから、なおさら説明と協議が軽視できません。
ここで実務上やや難しいのが、職種限定・勤務地限定のある労働者です。厚生労働省の検討資料では、勤務地限定や職務限定があっても、整理解雇法理そのものが否定されるわけではなく、整理解雇法理またはこれに準拠した枠組みで判断される傾向があると整理されています。そのうえで、限定性が特に影響しやすいのは解雇回避努力の範囲であり、高度専門職や高い処遇と結び付いた職務限定では、配置転換よりも上乗せ退職金や再就職支援などで足りるとされる場合もある一方、限定の程度が弱い場合や人事運用が広かった会社では、より広い配転努力が求められる傾向があるとされています。
したがって、整理解雇の実務では、「その部署がなくなるから、その部署の人は当然に解雇できる」という発想は危険です。たしかに部門閉鎖や職務消滅は人員削減の必要性を基礎付けやすいのですが、それでもなお、他部門への配転可能性、これまでの人事異動の実績、本人の保有資格や経験、希望退職や条件変更の余地などが問われます。厚労省のあっせん事例でも、法務部への残留可能性や他の労働者との比較、突然の口頭通告の有無などが争点として具体的に取り上げられています。
労働者側の実務としては、整理解雇を告げられたら、まず四つを具体化させることが大切です。すなわち、なぜ削減が必要なのか、解雇以外に何を試したのか、なぜ自分が対象なのか、事前にどんな説明や協議があったのか、です。会社がここを抽象的にしか説明できない場合、整理解雇の有効性はかなり揺らぎます。逆に、会社側に詳細な経営資料、回避措置の履歴、公正な人選基準、労組や本人への説明経過がそろっていると、整理解雇が有効と判断される余地は出てきます。
要するに、整理解雇は「会社が苦しいから仕方ない」で通る制度ではありません。必要性があり、解雇を避ける努力を尽くし、対象者の選び方にも合理性があり、しかも説明と協議を尽くして初めて、ようやく有効性が問題になります。第33講で押さえるべきなのは、整理解雇は会社都合の解雇である以上、四つの観点から特に厳しくコントロールされる、という点です。