第34講 解雇理由証明書をどう使うか|争う前に取るべき一手
第34講 解雇理由証明書をどう使うか|争う前に取るべき一手

解雇理由証明書は、解雇された労働者が会社に対して「なぜ解雇したのか」を書面で明らかにさせるための重要資料です。労働基準法22条は、労働者が退職の際に退職事由の証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付しなければならないと定めており、解雇の予告を受けた日から退職日までの間には、解雇理由そのものの証明書を請求できるとされています。厚生労働省も、労働者が解雇理由の証明書を請求した場合、会社はすぐに交付しなければならないと案内しています。
この制度の価値は、単に「説明を受ける」ことにあるのではありません。実務では、解雇理由証明書を取る最大の意味は、会社の言い分を早い段階で固定させることにあります。厚生労働省のQ&Aでは、解雇理由証明書には就業規則の該当条項を書くのみでは足りず、具体的な解雇理由を記載する必要があると明示されています。つまり、「能力不足です」「勤務不良です」といった抽象語で逃げるのではなく、どの規定のどの事実が問題なのかを会社に書かせるための制度なのです。
ここで重要なのは、解雇理由証明書は争う前の“初手”として非常に使いやすいことです。まだ労働審判や訴訟を起こしていない段階でも、会社に対し正式な書面で理由の具体化を求めることができます。そして、後に会社が別の理由を言い出したり、理由を膨らませたりしたときには、当初の証明書とのズレ自体が会社側説明の信用性を揺るがす材料になります。法文上は「証明書を取れば後から理由追加が絶対に許されない」とまではいえませんが、実務的には、最初に何を書かせたかはかなり大きな意味を持ちます。
請求のタイミングも大切です。解雇予告がされている場合には、解雇予告の日から退職の日までの間に請求できますし、その期間中に請求していれば、予告期間が過ぎても会社の交付義務は消えないと厚生労働省は説明しています。さらに、解雇の日を過ぎてしまっても、労基法22条1項に基づく退職時証明として、解雇理由を含む証明書を請求できるとされています。したがって、解雇理由証明書は「もう遅い」となりにくく、かなり使い勝手のよい制度です。
記載内容に関しては、労働者側にとって有利なルールもあります。厚生労働省のQ&Aでは、使用者は労働者の請求しない事項を証明書に記載してはならないとされており、たとえば労働者が「解雇の事実だけ」を証明してほしいと請求した場合には、会社は解雇理由まで勝手に書いてはいけないと説明されています。また、第三者と通じて就業を妨げる目的で秘密の信号を記載することも禁止されています。これは、転職活動などの場面で不必要な不利益を受けないためにも重要なルールです。
逆に、解雇を争うつもりがあるなら、通常は「解雇の理由」まで明示させる方が有益です。なぜなら、普通解雇でも懲戒解雇でも整理解雇でも、後の紛争では結局、「会社は何を理由に解雇したと言っているのか」が中心争点になるからです。厚生労働省も、解雇は労働契約法16条により客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であるとしたうえで、会社には就業規則への解雇事由記載義務があり、解雇理由証明書請求があれば交付義務があると整理しています。つまり、解雇理由証明書は、解雇無効論の入口に置かれる資料だといえます。
実務では、証明書を取ったら、それを単独で眺めて終わりにしてはいけません。解雇通知書、就業規則、評価資料、注意指導歴、面談記録、メール、勤怠、配転経過などと照らし合わせることが重要です。たとえば、証明書には「能力不足」とあるのに、従前の評価では大きな問題が見当たらない、注意指導の記録もない、改善機会もない、という場合には、会社の主張はかなり弱く見えてきます。逆に、「就業規則何条該当」とだけ書いて具体的事実がないなら、その時点で内容の薄さ自体が争点になります。厚生労働省が「具体的な解雇理由」を要求している以上、抽象的な書きぶりは会社側に有利とは限りません。
請求方法としては、後で「そんな請求は受けていない」と言わせないことが大切です。法令上、方式は限定されていませんが、実務的にはメールや書面で、請求日が残る形にしておくのが望ましいです。会社が応じない場合、厚生労働省のQ&Aは労働基準監督署への相談を案内しています。つまり、解雇理由証明書は、単なるお願いではなく、法的な請求権として行使するものだと理解しておくべきです。
要するに、第34講で押さえるべきことは、解雇理由証明書は「解雇されたあとにもらう説明書」ではなく、「会社の解雇理由を早期に具体化・固定させるための武器」だという点です。解雇されたら感情的に反論したくなりますが、その前にまず会社に書かせる。これだけで、後の交渉、労働審判、訴訟の組み立てがかなり変わります。争うつもりがあるなら、解雇理由証明書はかなり優先順位の高い一手です。