第41講 人事評価が低すぎる|査定そのものを争えるのか

第41講 人事評価が低すぎる|査定そのものを争えるのか

人事評価について不満を持つ労働者は多いのですが、法的には、単に「自分はもっと高く評価されるべきだ」と思うだけで直ちに違法になるわけではありません。ここは解雇や賃金不払いより少し難しく、まず押さえるべきなのは、人事評価には会社の裁量が入りやすい一方、その裁量も無制限ではないということです。厚生労働省は、人事評価制度について、評価の対象・基準・方法が明確であり、労働者に開示されていることを要件とする制度設計例を示し、また職業能力評価について「公正で透明性の高い評価基準」が必要だとしています。したがって、一般論としては、評価それ自体の“正しさ”を抽象的に争うよりも、どの基準で評価されるはずだったのか、その基準や運用が公正・透明だったかを具体的に見ることが重要です。

このため、第41講の出発点は、「査定そのものを争えるか」という問いに対し、常に自由に争えるわけでもなければ、まったく争えないわけでもないということです。法令上、すべての人事評価について「裁判所が点数を付け直す」ような一般制度があるわけではありません。他方で、評価が賃金、賞与、昇進、昇格、降格などの具体的不利益につながる以上、その評価が会社の定めた制度と食い違っていたり、差別や報復の手段になっていたりすれば、十分に争点になります。厚生労働省の資料でも、評価制度は賃金や賞与に直接反映される仕組みとして設計されることがあり、その場合は評価基準や変動幅との関係が明確であることが求められています。

したがって、実務でまず重要なのは、評価制度の中身を確認することです。就業規則、人事評価規程、賃金規程、等級制度、目標管理シート、面談票などに、何を評価対象にしているのか、誰がどう評価するのか、賞与や昇給にどう反映するのかが書かれていれば、それが争いの土台になります。厚生労働省の制度資料でも、評価の対象は能力・技能・資格、行動・コンピテンシー、努力・姿勢、成果・業績など、労働者個人の意思で向上可能な項目を対象とすることが想定され、年齢や勤続年数だけで一義的に決まるものではないことが示されています。つまり、会社が制度上掲げた物差しと、実際の運用が一致しているかが重要なのです。

ここで特に争いやすいのが、評価が恣意的・差別的・報復的に使われている場面です。男女雇用機会均等法6条は、配置、昇進、降格、教育訓練について性別を理由とする差別的取扱いを禁止しており、厚生労働省の解説でも、昇進基準を満たす複数人がいるときに男性を優先して昇進させることなどが禁止例として示されています。したがって、同じ職務内容・同じ区分に属しながら、性別だけを理由に評価や昇進で不利に扱われているなら、単なる「査定への不満」ではなく、法違反の問題になります。実際に労働局長による紛争解決援助事例でも、男性が先に昇進したのは差別的取扱いだとして、公正な人事評価を求める申立てが扱われています。

また、妊娠・出産や育児・介護休業等との関係でも、人事評価は強く規制されます。厚生労働省の資料は、妊娠・出産・育休等を理由とする不利益取扱いの例として、「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」を明示しています。育児休業や介護休業の申出・取得等をしたことのみをもって、休業していない者より不利に評価することも同様に問題になります。つまり、マタハラやケアハラの場面では、評価そのものが違法な不利益取扱いの手段になることがあるため、「評価だから会社の自由」とは言えません。

さらに、権利行使への報復としての低評価も問題になります。厚生労働省は、年次有給休暇の取得を賞与査定のマイナス要素として扱うことは、労働基準法附則136条の不利益取扱い禁止に抵触し許されないと明示しています。これは賞与査定の場面の説明ですが、要するに、法が保障した権利を使ったこと自体を理由に評価を下げることは、少なくともその権利行使を事実上抑制する違法な取扱いになり得る、ということです。したがって、年休取得、育休取得、妊娠申告、相談窓口利用などの直後に不自然な低評価が出てくる場面は、かなり注意して見るべきです。

他方で、会社があらかじめ定めた基準に沿って、成果や勤務状況、役割達成度などを踏まえて評価差を付けること自体は、直ちに違法ではありません。厚生労働省の人事評価制度資料でも、成果・業績や行動・能力を対象とした評価制度自体は前提とされており、評価結果が賃金や賞与に反映される仕組みも想定されています。したがって、同じ部署で評価差がある、昇給額に差がある、賞与査定に差があるというだけでは足りず、その差が制度上の基準から見て説明不能なのか、それとも説明可能なのかが勝負になります。ここは「差があること」それ自体ではなく、「差のつけ方が制度や法の枠内か」を見るべきところです。

実務上は、評価それ自体を抽象的に争うより、評価の結果として生じた具体的不利益を通じて争う方が組み立てやすいです。たとえば、低評価の結果として昇給停止、賞与大幅減額、昇進見送り、降格、配転、雇止め、退職勧奨などが起きていれば、その不利益処分の適法性の中で評価の問題を掘り起こしていくことになります。反対に、「評価が気に入らない」というだけで、賃金も地位も何も変わっていない段階だと、法的争点としてはやや弱くなります。これは、法が問題にするのが単なる気分の問題ではなく、労働条件や処遇に具体的影響を及ぼす違法・不合理な取扱いだからです。以上は、厚生労働省資料が人事評価を賃金・賞与・昇進などの処遇決定と結び付けて論じていることからの実務的な整理です。

労働者側で証拠化するなら、就業規則、人事評価規程、等級表、目標設定資料、面談記録、自己評価票、上司コメント、昇給・賞与の通知、比較対象者の処遇、相談後の経緯などを集めることが重要です。特に、何を基準に評価する制度だったのか、前年までの評価と何が変わったのか、権利行使や妊娠・育休取得の前後で評価が不自然に落ちていないか、同程度の実績の他者と比べて説明不能な差がないかを時系列で見るべきです。厚生労働省が評価制度について、対象・基準・方法の明確化や開示、公正・透明な基準の必要性を示している以上、会社側がそこを説明できない場合、評価の信用性はかなり揺らぎます。

要するに、第41講で押さえるべきことはこうです。人事評価は会社の裁量領域ではあるが、無制限ではない。単なる不満だけでは争いにくい一方、評価基準が不明確、運用が恣意的、性別・妊娠出産・育休取得・年休取得などを理由に不利に扱っている、あるいは評価結果が具体的不利益処分に結び付いている場合には、十分に争点化し得る。 したがって、「査定そのものを争えるか」という問いには、「点数の付け直しを求めるのではなく、その査定が制度と法に照らして違法・不合理かを争う」と答えるのが実務に近いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA