第47講 労働組合と団体交渉|個人では難しい問題をどう動かすか

第47講 労働組合と団体交渉|個人では難しい問題をどう動かすか

労働問題を個人で会社にぶつけると、「検討します」「会社としては適切です」で止まってしまうことが少なくありません。そこで意味を持つのが、労働組合と団体交渉です。厚生労働省は、憲法28条が、労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権という労働三権を保障していると説明しており、労働組合は、労働条件の維持改善や経済的地位の向上を目的として、労働者が主体となって自主的に組織する団体だとしています。つまり、第47講の出発点は、組合活動は特別な運動ではなく、労働者が個人では弱い立場を補うための法律上予定された手段だということです。

この点を労働組合法でみると、同法6条は、労働組合の代表者又は組合の委任を受けた者が、労働組合又は組合員のために、使用者又はその団体と、労働協約の締結その他の事項について交渉する権限を有すると定めています。要するに、団体交渉は、個人がただ会社にお願いする場ではなく、組合が組合員のために使用者と対等に交渉する制度です。だから、賃金、労働時間、配置、懲戒、雇用継続など、個人では押し返されやすい問題でも、組合を通すことで交渉の土俵そのものが変わります。

さらに重要なのが、会社には団体交渉に応じる義務があるということです。労働組合法7条2号は、使用者が、雇用する労働者の代表者と、正当な理由なく団体交渉を拒むことを不当労働行為として禁止しています。厚生労働省の中央労働委員会サイトも、不当労働行為の代表例として、組合員への不利益取扱い、正当な理由のない団体交渉拒否、組合への支配介入を挙げています。つまり、組合から正式に団交申入れがあったのに、会社が無視する、引き延ばす、名ばかりの回答しかしない、組合を通さず本人に直接切り崩しをかける、といった対応は、単なる不誠実対応にとどまらず、不当労働行為の問題になり得ます。

この「不当労働行為」は、第47講の中心論点です。労働組合法7条は、大きくいえば、①組合員であることや正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱い、②正当な理由のない団体交渉拒否、③労働組合に対する支配介入などを禁止しています。厚生労働省の解説でも、不当労働行為救済制度は、憲法で保障された団結権等の実効性を確保するための制度だとされています。したがって、組合に入ったら急に評価が落ちた、団交申入れ後に配置転換された、組合を通さず退職勧奨が始まった、会社が組合を嫌って加入脱退を誘導した、といった場面は、個別の人事の問題としてだけでなく、集団的労使関係への違法介入として見る必要があります。

では、労働組合を使うと何が変わるのか。いちばん大きいのは、問題が「個人の不満」から「労使間の正式な交渉事項」に変わることです。厚生労働省の労働教育行政資料は、団体交渉は単なる普通の話合いではなく、労働協約の締結を含む、労働条件の集団的決定のための社会的・法的意義を持つ交渉だと説明しています。つまり、団交に乗せると、会社は“聞き置く”だけでは済みにくくなり、少なくとも組合との関係で、何についてどう考えるのかを示さざるを得なくなります。個人での交渉が「お願い」になりやすいのに対し、団交は法律上保護された対等交渉だ、という違いがあります。

もっとも、組合に入れば何でも思いどおりになるわけでもありません。会社が常に組合要求を受け入れなければならないわけではなく、団体交渉義務があるのは、あくまで正当な理由なく拒否してはならないということです。したがって、団交の場では、何を求めるのか、どの資料や事実に基づくのか、どこを譲れないのかを整理して臨む必要があります。団交は魔法ではなく、会社に誠実な対応を強制する入口です。結局、組合を通す意味は、「勝てる制度」というより、無視させず、記録を残し、争点を固定し、報復を違法化できる制度にあります。これは労組法7条の構造から見た実務的な整理です。

ここで重要になるのが、労働委員会という救済ルートです。厚生労働省は、不当労働行為があったかどうかを審査し、あった場合には是正命令を出して、労働組合や組合員を救済する仕組みとして、労働委員会の救済制度を案内しています。また、中央労働委員会・都道府県労働委員会には、集団的労使紛争の調整や不当労働行為救済の役割があります。つまり、会社が団交を拒む、組合活動を理由に報復する、組合を壊しにかかるといった場合には、単に「ひどい会社だ」と言うだけでなく、不当労働行為救済申立てという公的な手続で是正を求めることができます。

実務上は、団体交渉が特に有効なのは、個人で争うと会社から「本人の能力の問題」「個別事情です」で片付けられやすい場面です。たとえば、解雇・雇止め、退職勧奨、賃下げ、配置転換、懲戒、ハラスメント後の職場復帰条件などは、個人戦だと押し返されやすい一方、組合が入ることで、会社の対応全体を交渉対象にしやすくなります。さらに、団交の申入れ、会社回答、議事の経過は後の証拠にもなりやすいので、交渉がまとまらなくても、その後の労働委員会手続、労働審判、訴訟で意味を持ちます。ここは、団交が「その場で解決するかどうか」だけの制度ではない、という点です。これは労組法上の団交助成の趣旨と、不当労働行為救済制度の存在からの実務的な推論です。

なお、個別労働紛争のあっせんと、組合を通じた団体交渉・不当労働行為救済は別ルートです。厚生労働省の労働委員会サイトによれば、あっせんは個々の労働者と事業主との個別紛争に使う手続です。これに対し、団体交渉や不当労働行為救済は、組合と使用者との集団的労使関係を扱います。したがって、「個人であっせんに行くか」「組合で団交・救済に進むか」は、問題の性質によって選び分ける必要があります。個人救済で足りる事件もありますが、会社が組合嫌悪を示している、同種被害者が複数いる、団交拒否や報復人事がある、といった場面では、後者の意味が大きくなります。

要するに、第47講で押さえるべきことはこうです。労働組合は、個人では押し返されやすい労働条件や処遇の問題を、法的に保護された集団交渉の形に変える装置である。会社は正当な理由なく団体交渉を拒めず、組合加入や組合活動を理由に不利益取扱いしたり、組合に介入したりしてはならない。違反があれば、労働委員会による不当労働行為救済という公的ルートがある。 つまり、組合は「個人では難しい問題を大きくする道具」ではなく、個人では止まる問題を、法的に動く問題へ変える道具です。

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