第13講 遺言書を見つけたら開けてよいのか|検認が必要な場合と不要な場合

第13講

遺言書を見つけたら開けてよいのか|検認が必要な場合と不要な場合

遺言書が見つかった場面では、内容を早く知りたいという気持ちが先に立ちます。しかし、相続実務では、見つけた直後の動き方を誤ると、その後の手続が無用にこじれます。特に重要なのが、家庭裁判所の検認が必要な遺言なのか、不要な遺言なのかを最初に見分けることです。裁判所は、遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならないと案内していますが、公正証書遺言と、法務局に保管されている自筆証書遺言に関して交付される「遺言書情報証明書」については、検認不要としています。

まず、検認とは何かを正確に押さえる必要があります。検認は、相続人に遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言書の形状、日付、署名、加除訂正の状態などを検認時点で明確にし、偽造・変造を防止するための手続です。裁判所は、検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではないと明示しています。したがって、「検認を受けたから遺言は有効だ」「検認を経たので内容争いはもうできない」という理解は誤りです。検認は、あくまで現物の状態を公的に確認する入口であって、実体的な有効性判断は別の問題です。

では、どの遺言に検認が必要なのか。結論からいえば、自宅や貸金庫などで保管されていた自筆証書遺言は、原則として検認が必要です。これに対し、公正証書遺言は検認不要です。また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管されていた自筆証書遺言も、相続開始後に交付される遺言書情報証明書を使うことで、家庭裁判所の検認は不要になります。したがって、「自筆証書遺言かどうか」だけで判断するのではなく、「どこで保管されていたか」まで含めて見なければなりません。

ここで特に注意すべきなのが、封印のある遺言書を勝手に開封してよいかという点です。民法は、封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人又はその代理人の立会いの上で開封しなければならないと定めており、これに違反して開封した者は五万円以下の過料に処するとしています。裁判所の案内やQ&Aも、自筆の遺言書を発見したときは自分で開封せず、速やかに検認を申し立てるよう案内しています。したがって、封筒に入った遺言書らしいものを見つけたときは、まず「中身を見る」より、「家庭裁判所に出すべきものか」を先に考えるべきです。

もっとも、実務上は「もう家族が開けてしまった」「開封済みの状態で見つかった」という場面もあります。その場合でも、検認が必要な類型の遺言である以上、遺言書の保管者又はこれを発見した相続人が家庭裁判所に提出して検認を請求すべきこと自体は変わりません。裁判所は、検認の対象を公正証書遺言及び法務局保管の自筆証書遺言以外の遺言書として整理しており、開封済みであることを理由に検認不要になるとはしていません。要するに、「開けてしまったからもう裁判所に出さなくてよい」という処理にはなりません。

検認の申立てができるのは、裁判所によれば、遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人です。申立先は、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。費用については、裁判所の一般案内で、遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分と連絡用郵便切手が必要とされています。したがって、検認は「相続人全員で一緒に申し立てなければならない手続」ではなく、保管者や発見者が先に動いて進める手続だと理解しておくとよいです。

検認手続の進み方も、あらかじめ知っておくと混乱が減ります。裁判所は、申立てがあると相続人に検認期日の通知が送られ、申立人以外の相続人が出席するかどうかは各人の判断であり、全員がそろわなくても検認手続は行われると案内しています。検認期日には、申立人が遺言書を持参し、裁判官が封がされた遺言書については開封した上で検認を行います。その後、遺言の執行には検認済証明書が必要になるため、検認済証明書の申請に進むのが通常です。つまり、検認は「全相続人の同意形成の場」ではなく、現物確認と手続の前提づくりの場です。

一方で、公正証書遺言がある場合は、そもそも検認を考える必要がありません。原本が公証役場に保管されており、裁判所も検認不要としていますから、実務上は公証役場で謄本等を確保し、遺言執行や相続手続に進む流れになります。これに対し、法務局保管の自筆証書遺言については、相続開始後、相続人・受遺者等・遺言執行者等が遺言書情報証明書の交付や閲覧を請求でき、その証明書は遺言書原本の代わりとして各種手続に使用され、家庭裁判所の検認も不要とされています。したがって、検認不要といっても、公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言では、取りに行く先と手続の入口が違います。

法務局保管制度には、見つからない・隠されるというリスクを減らすだけでなく、相続開始後の通知機能もあります。法務局の案内では、相続人等が遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をしたりした場合には、その他の相続人等へ遺言書が保管されている旨が通知される仕組みがあるとされています。したがって、法務局保管の自筆証書遺言は、単に検認不要になるだけでなく、「一部の相続人だけが先に遺言の存在を握ってしまう」ことも起きにくい構造になっています。

結局のところ、遺言書を見つけたときの基本動線は明快です。**自宅保管などの自筆証書遺言らしいものなら、まず勝手に開封せず、家庭裁判所の検認を前提に保全する。公正証書遺言なら検認不要で、公証役場ルートを考える。法務局保管の自筆証書遺言なら、遺言書情報証明書や閲覧の手続に進む。**この三つを分けて考えるだけで、初動の誤りはかなり減ります。相続実務では、内容に飛びつくより先に、方式と保管場所から手続ルートを確定することが重要です。

第14講では、さらに一歩進めて、遺言執行者とは何か|誰が遺言を実現するのかを扱います。遺言は、書いてあるだけでは動かず、それを実現する主体が問題になります。

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