第22講 遺産分割協議はどう進めるか|何から決め、どこで揉めるのか

第22講

遺産分割協議はどう進めるか|何から決め、どこで揉めるのか

遺産分割協議というと、「相続人が集まって、誰が何を取るか話し合うこと」と理解されがちです。もちろん方向としては間違っていませんが、実務ではそれだけでは足りません。遺産分割は、最初から「結論」を話し合う手続ではなく、順番に争点を潰していく手続です。仙台家庭裁判所の案内でも、遺産分割調停は、①相続人と法定相続分の確定、②遺産の範囲の確定、③遺産の評価、④特別受益・寄与分の確定、⑤各相続人の最終取得額の算出、⑥遺産の分割、という流れで進むと整理されています。協議でも、この順番を意識した方が圧倒的にまとまりやすくなります。

まず最初に決めるべきなのは、誰が当事者なのかです。遺産分割協議は多数決ではなく、原則として相続人全員の関与を前提とする話合いです。裁判所の案内でも、遺産分割調停は原則として法定相続人全員が当事者になるとされていますし、民法907条も、共同相続人間の協議が調わないときは各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求できるという建て付けを取っています。したがって、前婚の子、養子、代襲相続人などを落としたまま話を進めると、そもそも協議の土台が壊れます。最初に相続人を確定するのは、形式的だからではなく、そこがずれると全部やり直しになるからです。

次に決めるべきなのが、何を分割対象にするのかです。これも裁判所の案内では、相続人確認の次に来る工程として明示されています。実務でよく揉めるのは、相続人同士が「遺産の範囲」を違うものとして見ている場面です。ある人は「この預金も遺産だ」と言い、別の人は「それはもう使われて残っていない」と言う。ある人は「生命保険金も入れるべきだ」と言い、別の人は「それは受取人固有の財産だ」と言う。ここが固まらない限り、配分の話はできません。裁判所も、あったはずだという主張だけでは調停で取り扱わず、必要資料の収集は相続人側で行う前提に立っています。

その次に出てくるのが、評価です。遺産の存在自体に争いがなくても、「いくらとして扱うか」で協議は止まります。特に不動産は典型です。家庭裁判所のQ&Aでも、不動産の評価方法として、不動産鑑定、固定資産税評価額、相続税評価額、公示地価等を基礎にする方法などが挙げられ、調停では当事者全員が合意した評価方法で処理するとされています。つまり、「家は長男が取ればいい」では済まず、その家をいくらで見るのかが決まらないと、他の相続人とのバランスが取れません。遺産分割協議は、感情の調整であると同時に、評価基準の調整でもあります。

ここまで進んで初めて、特別受益や寄与分をどう扱うかが問題になります。裁判所も、遺産の範囲や評価が定まった後に、特別受益や寄与分について聴くと整理しています。これは順番として非常に重要です。実務では、最初から「兄だけ生前に贈与を受けていた」「私だけ介護した」と言いたくなるのが自然ですが、相続人も遺産も評価も固まっていない段階でこの話を始めると、議論が散らばります。特別受益や寄与分は確かに重要ですが、あくまで“上乗せ・調整”の論点であって、本体を固めた後に処理した方が整理しやすいのです。

そしてようやく、どう分けるかに入ります。裁判所の案内では、代表的な分け方として、現物分割、代償分割、換価分割の三つが示されています。現物分割は遺産そのものを分ける方法、代償分割は一人または複数人が現物を取得して他の相続人に金銭を払う方法、換価分割は遺産を売って代金を分ける方法です。実務で揉めるのは、法律論よりむしろこの選択です。誰かは実家を残したい、誰かは現金が欲しい、誰かは共有でもよいと言い、誰かは共有だけは嫌だと言う。遺産分割協議は、法定相続分の計算だけで終わるものではなく、最終的にどの分割方法を採るかの利害調整が核心になります。

では、どこで一番揉めるのか。実務感覚では、大きく四つあります。第一に、相続人に漏れがある場面です。これは前提が崩れるため最も致命的です。第二に、遺産の範囲に争いがある場面です。特に同居していた相続人が通帳や資料を握っている場合、他の相続人は「本当にこれで全部か」と疑いやすくなります。第三に、不動産評価と取得希望がぶつかる場面です。第四に、生前贈与・介護・使途不明金といった感情的対立が法的論点に混ざる場面です。裁判所も、遺産分割の主眼はあくまで遺産をどう分けるかにあり、感情的問題を調整しつつも、主張する側が裏付け資料を集める必要があるとしています。つまり、揉める理由は感情でも、解く鍵は資料と順番です。

ここで大切なのは、遺産分割で解決できることと、できないことを混同しないことです。裁判所の案内では、生命保険金は受取人固有の権利であり、借金は相続開始と同時に当然分割され、葬儀費用は相続開始後に生じた債務であるため、いずれも原則として遺産分割の対象ではないとされています。使途不明金についても、内容によっては損害賠償請求など別手続が必要です。したがって、相続人の不満が大きくても、それを全部遺産分割協議の中で処理しようとすると、かえって話がまとまらなくなります。何をこの協議で決め、何は別に処理するのかを切り分けることが重要です。

結局のところ、遺産分割協議を進めるときは、①相続人の確定、②遺産の範囲の確定、③遺産の評価、④特別受益・寄与分の整理、⑤分割方法の選択という順番で考えるのが基本です。この順番を飛ばして、いきなり「誰が家を取るか」「いくらもらうか」に入ると、たいてい揉めます。逆に、この順番で資料をそろえながら進めると、感情的対立がある事案でも、少なくとも争点は整理できます。遺産分割協議とは、仲の良さに期待する手続ではなく、順序を守って合意可能な形に持っていく手続なのです。

第23講では、遺産分割協議書はどう作るか|後で困らない書き方の基本を扱います。話がまとまっても、協議書の作り方が甘いと、登記や解約の場面でまた止まります。

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