第23講 遺産分割協議書はどう作るか|後で困らない書き方の基本
第23講
遺産分割協議書はどう作るか|後で困らない書き方の基本

遺産分割協議は、口頭で合意しただけでは実務上ほとんど前に進みません。不動産の相続登記、預貯金の解約・名義変更、証券口座の承継といった場面では、結局、何を誰が取得するのかを書面で明確にした遺産分割協議書が必要になります。法務局は、相続登記の必要書類として遺産分割協議書を挙げており、銀行実務でも、遺産分割協議書がある場合にはこれをもとに相続手続が進みます。
まず大前提として、遺産分割協議書は相続人全員で成立した協議を反映していなければなりません。家庭裁判所は、相続人全員で合意した遺産分割協議書がある場合、その内容に不服があるからといって遺産分割調停を申し立てることはできないと案内しています。裏返せば、協議書はそれだけ強い意味を持つ文書です。だからこそ、誰か一人でも相続人を漏らしたまま作ると、書面としての土台自体が危うくなります。
書き方の基本は、抽象語で済ませず、財産を具体的に特定することです。不動産なら、法務局の登記申請案内や記載例どおり、所在、地番、地目、地積、家屋番号、種類、構造、床面積などを登記事項証明書に合わせて記載するのが安全です。相続登記は登記情報と食い違うと止まりやすいため、「自宅土地建物一式を長男が取得する」といった大づかみな表現では足りないことがあります。
預貯金についても同じです。全国銀行協会は、遺産分割協議書の記載が曖昧だと、預金が分割対象にされているのか、どの相続人にどれだけ承継されるのか判断できず、改めて相続人全員の同意確認が必要になることがあると案内しています。特に、「不動産は甲、動産は乙が取得する」としか書かれていない場合、預金は動産ではなく債権なので、その文言だけでは預金が対象に含まれるか分からないとされています。したがって、預金は銀行名、支店名、口座種別、口座番号まで具体的に書くのが安全です。
実務でよくある失敗は、協議書に書いた財産しか処理できないのに、記載漏れがあることです。全国銀行協会は、分割対象の預金を具体的に特定した場合、その協議書に記載のない被相続人名義の預金があるときは、その預金は遺産分割の対象にならず、法定相続になるか、改めて遺産分割協議をする必要があると案内しています。つまり、協議書は「だいたい全部」という趣旨では動かず、書いたものをどう分けるかという文書です。漏れがあると、その財産だけ後で再協議になります。
署名押印の点でも甘くできません。法務局の相続登記案内や記載例では、遺産分割協議書には相続人全員が押印し、各自の印鑑証明書を添付する前提になっています。全国銀行協会も、遺産分割協議書には相続人全員が署名したうえで実印で捺印し、金融機関は相続人全員の印鑑証明書により署名押印を照合すると案内しています。したがって、少なくとも実務運用上は、全員の署名と実印押印、全員分の印鑑証明書をそろえるつもりで準備した方が安全です。
また、協議書には「誰が何を取得するか」だけでなく、必要に応じて代償金の支払まで明記した方がよい場面があります。たとえば不動産を一人が取得し、他の相続人には代償金を払うなら、「甲は別紙不動産を取得する。甲は乙に対し代償金○円を○年○月○日限り支払う」という形で、金額と支払期限を明示しておかないと、後で「いつ払うのか」「払わなければどうなるのか」が曖昧になります。これは裁判所実務の流れ上も自然で、遺産の評価と最終取得額を踏まえて具体的分割方法に進む以上、代償分割を採るならその内容を文書に落とす必要があるからです。
不動産登記を見据えるなら、協議書の作り方はさらに慎重にする必要があります。法務局の案内では、遺産分割協議書のほか、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍、遺産分割協議書に押印した印鑑の印鑑証明書などが必要書類とされています。つまり、協議書は単独で動く文書ではなく、戸籍関係書類や印鑑証明書とセットで審査される文書です。だから、氏名や続柄の表記、住所、対象不動産の表示などが添付書類と食い違わないようにしておくことが大切です。
預金手続でも同様です。全国銀行協会は、遺産分割協議書がある場合の相続手続に必要な書類として、遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、相続人全員の戸籍、相続人全員の印鑑証明書を挙げています。つまり、銀行では「協議書だけ持っていけば終わる」のではなく、その協議書が本当に全相続人の合意に基づくものかを戸籍と印鑑証明書で確認する運用になっています。
文章の作り方としては、できるだけ一義的に読める文言にした方がよいです。「その他の財産は適宜分ける」「預金は話合いで処理する」では、後の機関手続に耐えません。銀行実務の注意点が示すとおり、対象財産なのか、誰がどれだけ取得するのかが読めない文言は避けるべきです。協議書は家族向けの覚書ではなく、第三者である法務局や金融機関が読んで処理できる文書である必要があります。
結局のところ、遺産分割協議書で後から困らないための基本は、①相続人全員が当事者になっていること、②対象財産を具体的に特定すること、③誰が取得するかを一義的に書くこと、④全員が実印で押印し印鑑証明書を付けること、⑤代償金など付随条件も必要なら明記することです。話がまとまった後に雑に書くのではなく、最初から「登記と銀行でそのまま通るか」という目線で作るのが実務的です。
第24講では、不動産はどう分けるか|共有・換価・代償分割の発想を扱います。遺産分割協議書の中でも、結局いちばん難しいのは不動産の処理です。