第24講 不動産はどう分けるか|共有・換価・代償分割の発想
第24講
不動産はどう分けるか|共有・換価・代償分割の発想

相続で最も扱いが難しい財産は、不動産です。預貯金なら数字で分けやすいのに対し、不動産は一つの物をそのまま切って分けることが難しく、しかも居住、感情、思い出、収益性が絡みます。家庭裁判所の実務案内でも、遺産分割の方法として、現物分割、代償分割、換価分割の三つが基本形として示されています。したがって、不動産の分け方を考えるときは、まずこの三類型のどれで処理するのかを見極めるのが出発点です。
まず前提として、相続人が複数いるときは、相続開始と同時に相続財産は共同相続人の共有になります。民法898条・907条の建て付け上、不動産もいったんは共有状態に入ったうえで、その後に遺産分割で最終帰属を決めることになります。つまり、「長男がそのまま住んでいたから長男のもの」という話には直ちにはならず、共有状態をどう解消するかが問題になります。
第一の方法が、現物分割です。これは、遺産そのものを現物で分ける方法で、家庭裁判所の案内でも最初に挙げられています。不動産が複数あるなら、たとえば自宅は配偶者、賃貸アパートは長男、別の土地は長女、というように不動産同士を振り分けることができます。あるいは、不動産と預金を組み合わせて、一人は不動産、一人は預金多めという形にすることもあります。現物分割の強みは、売却せずにそのまま使い続けられることですが、財産の種類や価値が偏ると公平感の調整が難しくなります。
第二が、代償分割です。これは、一人または複数の相続人が不動産そのものを取得し、その代わりに他の相続人へ金銭を支払う方法です。家庭裁判所も、現物を取得した人がほかの相続人に金銭を支払う方法として代償分割を説明しています。実務では、自宅に住み続けたい相続人がいる、賃貸物件を一人で管理した方が効率的、事業用不動産を細かく割れない、という場面で最もよく使われます。不動産を残しつつ共有を避けられる点が大きな利点です。
ただし、代償分割は、代償金を現実に払えるかが核心です。不動産の評価額が高くても、取得する相続人に支払資力がなければ、理屈としては美しくても実行できません。家庭裁判所の実務案内でも、先に遺産の評価を確定したうえで各相続人の最終取得額を算出し、その後に分割方法へ進む流れが示されていますが、これはまさに代償分割で支払額を決めるためでもあります。不動産評価と支払能力を無視して「家は長男、他はお金で調整」と言っても、そこで止まることが多いのです。
第三が、換価分割です。これは、不動産を第三者に売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。家庭裁判所も、この方法を基本類型として挙げています。誰も住まない実家、遠方の土地、共有で持っても管理できない収益物件などは、換価分割が最も現実的なことがあります。換価分割の強みは、最終的に金銭化されるため、相続分や代償調整が分かりやすいことです。他方で、思い入れのある不動産を手放すことへの心理的抵抗や、売却価格・売却時期をめぐる対立が起きやすいという弱点があります。
では、共有のまま残すのはどうか。結論からいえば、共有は「とりあえずの解決」には見えても、長期的には火種になりやすいです。相続開始後の不動産は一時的には共有ですが、遺産分割の目的自体がその共有状態を解消することにあります。京都家庭裁判所も、遺産分割とは共同相続人の間で財産を分ける手続だと説明しており、共有のまま放置するのは、実質的には問題を先送りするに近いです。特に実家不動産を兄弟で共有にすると、固定資産税の負担、修繕、賃貸の可否、売却の是非、誰が使うかで将来ほぼ確実に揉めやすくなります。
共有が危険なのは、権利が細かく割れる一方で、不動産そのものは一つだからです。預金なら1,000万円を500万円ずつに分ければ済みますが、家や土地はそうはいきません。しかも、時間がたつと共有者が死亡して次の相続が起こり、持分がさらに枝分かれして、処理が一気に難しくなります。これは制度上自然に起こる帰結であり、相続開始時の共有をできるだけ早く整理する必要がある理由でもあります。民法898条・907条の構造と、家庭裁判所が遺産分割を共有解消の手続として位置付けていることからも、その理解が導かれます。
実務での考え方としては、住み続けたい人がいて支払能力もあるなら代償分割、誰も使わず感情的執着も薄いなら換価分割、複数不動産があって振り分け可能なら現物分割、という順で検討すると整理しやすいです。逆に、「とりあえず共有」は最後の逃げ道に見えて、実は将来のコストを増やしやすい選択です。家庭裁判所の案内が三つの分割方法を基本として明示しているのは、共有のまま放置するより、何らかの形で最終帰属を決めることが本筋だからです。
また、不動産の分け方では、評価方法の合意が極めて重要です。仙台家庭裁判所のQ&Aでは、不動産評価について、不動産鑑定、固定資産税評価額、相続税評価額、公示地価等を基礎にする方法などがあり、調停では当事者全員が合意した評価方法に基づいて処理するとされています。つまり、「この家はいくらか」が決まらないままでは、代償分割も換価分割後の配分も前に進みません。不動産の分け方で揉めるとき、実は争いの芯は「誰がもらうか」より先に「いくらと見るか」にあることが少なくありません。
結局のところ、不動産相続では、共有を一時状態と考え、最終的に現物分割・代償分割・換価分割のどれで解くかを考えるのが基本です。不動産は「誰かが住んでいるから」「思い出があるから」というだけでは処理できず、評価、利用状況、支払能力、将来管理まで含めて見ないと、分け方を誤ります。相続実務で不動産が難しいのは、法律論が難しいからというより、物理的に分けにくい財産に感情が乗るからです。だからこそ、早い段階で分割類型を意識して整理することに意味があります。
第25講では、預貯金は遺産分割前に払戻しできるのか|生活費が必要なときの対応を扱います。不動産と対照的に、預金はすぐ使いたくなる財産ですが、そこにも独自のルールがあります。