第33講 遺留分はどう計算するのか|基礎財産・贈与加算・割合の基本
第33講
遺留分はどう計算するのか|基礎財産・贈与加算・割合の基本

遺留分の計算は、感覚でやるとすぐ崩れます。順番としては、まず遺留分を算定するための基礎財産を出し、次に総体的遺留分率を掛け、さらに各人の法定相続分率を掛けて、その人の遺留分の基準額を出します。そのうえで、その人がすでに受けていた特別受益や、相続で実際に取得する積極財産を差し引き、逆にその人が相続によって負担する債務があれば加えて、最終的な遺留分侵害額を考える、という流れです。法務省の資料でも、遺留分侵害額はこの順序で整理されています。
出発点になる基礎財産は、単純に「死亡時に残っていた遺産」だけではありません。法務省の説明では、基礎財産は、相続時の積極財産に、一定の生前贈与を加え、そこから被相続人の債務を控除して考えます。現在の整理では、相続人に対する生前贈与は原則として相続開始前10年以内、第三者に対する生前贈与は原則として相続開始前1年以内のものが算入対象とされます。また、害意がある場合の規律は維持されていると法務省資料で説明されています。さらに、負担付贈与や不相当な対価による有償処分では、目的物の全額ではなく、負担や対価を控除した価額を基礎財産に算入する整理が示されています。
次に掛けるのが総体的遺留分率です。通常は2分の1ですが、直系尊属のみが相続人である場合には3分の1になります。そのうえで、各人の遺留分は、その総枠にさらに各人の法定相続分を掛けて出します。たとえば、配偶者と子2人が相続人なら、まず全体で2分の1が遺留分の総枠で、その中を法定相続分に応じて配偶者4分の1、子は各8分の1という形で見ていくことになります。法務省の広報資料も、この計算構造を前提にしています。
もっとも、そこで終わりではありません。法務省の整理では、最終的な遺留分侵害額は、こうして出した基準額から、遺留分権利者自身の特別受益を差し引き、さらにその人が相続によって得る積極財産を差し引き、逆にその人が相続によって負担する債務があれば加えて算定します。要するに、遺留分は「理論上の最低保障額」を先に出し、その人がすでに受けている利益や、逆に背負う負担を調整して、最後に不足額を出す仕組みです。法務省資料では、この計算式に関して、相続で得る積極財産の額は具体的相続分に相当する額を基礎にし、寄与分による修正は考慮しない整理が示されています。
実務でつまずきやすいのは、どの贈与を基礎財産に入れるのかと、相続で実際に取得する積極財産をいくらとみるのかです。前者では、古い贈与でも何でも入るわけではなく、相手が相続人か第三者かで期間制限が違います。後者では、遺産分割の対象財産があるとき、法務省資料は「具体的相続分に相当する額」を控除すると整理しており、単純に法定相続分だけで割り切れるとは限りません。だから、遺留分の計算は条文の一読だけでは終わらず、結局は遺産の範囲、贈与の有無、評価額、債務の額まで固めないと動きません。
そして、計算ができても、権利は自動では動きません。裁判所は、遺留分侵害額の請求をするには、遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示を相手方にする必要があり、調停申立てだけではその意思表示にならないと案内しています。また、その権利は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始から10年で消滅するとされています。つまり、遺留分は計算問題であると同時に、権利行使の期限管理の問題でもあります。
結局のところ、遺留分の計算は、
① 基礎財産を出す
② 総体的遺留分率を掛ける
③ 各人の法定相続分率を掛ける
④ 特別受益と相続取得分を引き、承継債務を足す
という順番で見ると整理しやすいです。遺留分で揉める事案は、たいてい「計算式が難しい」のではなく、基礎財産に何を入れるかとその数字をどう証明するかで止まります。だからこそ、遺留分実務では、抽象論よりも、贈与記録、登記、通帳、残高証明、債務資料を積み上げる作業の方が重いのです。
第34講では、生前贈与はどこまで遺留分に入るのか|持戻しとの違いも含めてを扱います。遺留分計算で一番揉めやすいのは、まさにこの「どの贈与まで算入するのか」です。