第35講 遺留分侵害額請求の期限はいつまでか|1年と10年の考え方

第35講

遺留分侵害額請求の期限はいつまでか|1年と10年の考え方

遺留分は、計算ができても、期限を外すと権利行使そのものができなくなる論点です。裁判所は、遺留分侵害額請求権について、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年を経過すると消滅すると案内しています。民法1048条も同趣旨です。つまり、遺留分では「請求額が合っているか」以前に、「まだ間に合うか」が最初の関門になります。

ここでまず押さえるべきなのは、1年と10年は意味が違うということです。1年の方は、遺留分権利者が、相続開始を知り、かつ自分の遺留分が贈与や遺贈で侵害されていることを知った時から進みます。他方、10年の方は、そうした認識の有無にかかわらず、相続開始時から機械的に進む最終期限です。裁判所の実務案内も、両方を並べて示しており、どちらか早い方で権利が消える構造であることが分かります。

したがって、実務では「まだ細かい計算が終わっていない」「相手と話合い中だから大丈夫だろう」という感覚が危険です。遺留分侵害額請求権は、相続開始後かなり早い段階で1年の時計が動き得ますし、話合いをしているだけでは時計は止まりません。裁判所は、遺留分侵害額の請求について調停手続を利用できるとしつつも、調停申立てだけでは相手方に対する意思表示にはならないと明示しています。つまり、家庭裁判所に調停を出しただけで期限対策が済むわけではありません。

ここが実務上いちばん事故が多いところです。裁判所は、遺留分侵害額請求をするには、遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示を相手方にする必要があり、そのためには内容証明郵便等による通知を行う必要があると案内しています。したがって、期限が迫る場面では、調停を申し立てるかどうかとは別に、まず相手方に対し「遺留分侵害額請求権を行使する」旨を明確に通知しておくことが重要です。

さらに注意すべきなのは、この現行の「遺留分侵害額請求」の制度自体が、令和元年7月1日以後に開始した相続に適用される点です。裁判所の案内でも、令和元年7月1日より前に被相続人が亡くなった場合は、この申立てはできず、改正前民法の遺留分減殺による物件返還請求等の問題になるとされています。つまり、期限を考える前提として、まずその相続が新法の事案なのか旧法の事案なのかを確認しなければなりません。

結局のところ、遺留分侵害額請求の期限管理は、
① 相続開始と侵害事実を知ってから1年
② 相続開始から10年で最終的に切れる
③ 調停申立てだけでは足りず、相手方への意思表示が必要
という三点で押さえるのが基本です。遺留分は、計算より先に時効・期間制限で落ちることがある分野なので、「まず通知して期限を止める」という発想を持っておくことが極めて大切です。

第36講では、遺言無効と遺留分はどう違うのか|争い方の選び方を扱います。遺言が気に入らないとき、遺言自体を倒すのか、遺留分だけ請求するのかで、戦い方は大きく変わります。

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