第45講 生命保険と相続の関係|受取人指定があるとき何が違うのか

第45講

生命保険と相続の関係|受取人指定があるとき何が違うのか

生命保険は、相続実務の中でも特に「民事」と「税務」で顔つきが違う財産です。家庭裁判所の案内では、保険金受取人として特定の人が指定されている場合、生命保険金は原則としてその受取人固有の財産であり、遺産分割の対象にはならないとされています。つまり、預金や不動産のように「相続人全員でどう分けるか」を話し合う対象とは、最初から別筋であることが多いのです。

この点が、相続の現場ではいちばん誤解されやすいところです。たとえば、母が死亡し、保険証券上の受取人が長男と指定されていた場合、その保険金は原則として長男固有の権利として取得され、他の相続人が「遺産なのだから分けろ」と当然に言えるわけではありません。仙台家庭裁判所のQ&Aでも、保険金は保険契約によって受取人と指定された者固有の権利であり、遺産分割の対象にはならないと明示されています。

もっとも、民事上は遺産でないからといって、税務上も相続と無関係になるわけではありません。国税庁は、被相続人が保険料の全部又は一部を負担していた死亡保険金は、相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になると説明しています。つまり、遺産分割の対象外であっても、相続税の世界では「みなし相続財産」として扱われるのです。ここが生命保険のややこしいところです。

さらに、受取人が相続人である場合には、一定の非課税枠があります。国税庁は、すべての相続人が受け取った死亡保険金の合計額について、500万円×法定相続人の数までは非課税限度額が認められるとしています。他方で、相続人以外の人が取得した死亡保険金には、この非課税の適用はありません。したがって、生命保険は、誰が受取人になっているかで、民事だけでなく税務の扱いもかなり変わります。

実務感覚でいえば、生命保険は「遺産ではないが、相続と無関係でもない」財産です。家庭裁判所の案内が示すとおり、原則として遺産分割の対象外なので、まずは協議書に当然に入れる発想を持たない方が安全です。他方で、税務では相続税の対象になり得るため、預金や不動産だけを見て「うちは基礎控除以下だろう」と思っていると、保険金を入れた途端に見込みが変わることがあります。

また、保険金が遺産分割の対象外だとしても、相続人間の不公平感が消えるわけではありません。福岡家庭裁判所の案内も、生命保険金は原則として受取人固有の財産だとしつつ、例外的に特別受益に準じて取り扱われることがあると触れています。つまり、保険金そのものを遺産として割り直すわけではないにせよ、他の相続人から「実質的には相続分の前渡しではないか」という主張が出る余地はあります。生命保険は、法的な仕分けは比較的明快でも、感情的には火種になりやすい財産です。

結局のところ、生命保険について押さえるべき基本は三つです。**第一に、受取人が特定されていれば、原則としてその受取人固有の財産であり、遺産分割の対象外であること。第二に、被相続人が保険料負担者なら、税務上はみなし相続財産として相続税の対象になり得ること。第三に、受取人が相続人なら500万円×法定相続人の数の非課税枠があること。**この三点が分かっていれば、生命保険を預金や不動産と同じ感覚で扱ってしまう事故はかなり防げます。

第46講では、会社経営者が亡くなったとき|自社株と事業承継の相続問題を扱います。相続財産が株式、それも非上場の自社株になると、分け方はさらに難しくなります。

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