第29講 末梢神経損傷の後遺障害|神経断裂・麻痺・筋力低下の評価
第29講
末梢神経損傷の後遺障害|神経断裂・麻痺・筋力低下の評価

交通事故では、骨折や切創、圧迫、牽引などによって末梢神経が損傷し、しびれ、感覚低下、筋力低下、運動麻痺が残ることがあります。末梢神経損傷の後遺障害は、外見から分かりにくい一方で、実際には手足の機能に重大な影響を及ぼします。実務では、どの神経が傷んだのか、その結果としてどの機能が失われているのかを正確に整理することが重要です。
たとえば上肢では、橈骨神経、尺骨神経、正中神経などが問題になります。手関節や指がうまく動かない、握力が落ちる、細かい作業ができない、感覚が鈍いといった障害が現れます。下肢では、腓骨神経、脛骨神経などの損傷により、足関節が上がらない、つまずきやすい、足の感覚が低下するなどの症状が出ます。どの神経が傷害されたかによって、症状の分布や機能障害の形が異なります。
この分野では、筋力低下と感覚障害の評価が中心になります。徒手筋力検査、感覚検査、神経伝導検査、筋電図検査などが有用な場合がありますが、必ずしもすべての事案で決定的な結果が出るとは限りません。そのため、検査所見だけでなく、診察所見や生活動作上の支障を合わせて見る必要があります。
末梢神経損傷で難しいのは、しびれや感覚低下が主症状の場合、他人に伝わりにくいことです。被害者本人は強い不便を感じていても、骨折のように目に見えず、画像にもはっきり映らないことがあります。そのため、受傷部位と神経走行の整合性、神経学的所見の一貫性、経時的な変化などを丁寧に追うことが重要です。
また、神経損傷では、回復の程度と残存障害の見極めも重要です。神経は一定程度回復することもありますが、完全には戻らず、しびれや麻痺が長く残ることもあります。症状固定の時期をどう考えるか、手術やリハビリの効果がどこまで期待できるかも、実務上は問題になります。
さらに、末梢神経損傷は就労への影響が大きい分野です。手がうまく使えない、長く立てない、歩行が不安定、力が入らないといった状態は、多くの職種で直接的な制約になります。単なる「しびれ」という言葉で片づけず、そのしびれや麻痺が具体的に何をできなくしているのかを示すことが、損害賠償の場面でも重要になります。
末梢神経損傷の後遺障害は、診断名だけで理解することが難しく、神経の解剖と機能の理解が必要な分野です。しかし本質は、手足が思うように動かない、感覚が鈍い、力が入らないという、被害者の現実の不自由にあります。その不自由を医学的資料と生活実態の両面から組み立てることが重要です。