第36講  学生・若年者の逸失利益|将来収入をどう認定するか

第36講
学生・若年者の逸失利益|将来収入をどう認定するか

学生や幼少の子どもが交通事故で後遺障害を負った場合、現時点ではまだ働いておらず、現実収入がないことが通常です。では、この場合、逸失利益は認められないのかというと、そうではありません。将来、就労して収入を得る蓋然性がある以上、その可能性を前提に将来の収入減を評価することになります。

もっとも、学生・若年者の逸失利益は、現実収入という土台がないため、会社員や自営業者以上に「将来をどうみるか」が問題になります。実務では、基礎収入として賃金センサスの全年齢平均賃金や学歴別平均賃金などを参考にすることが多く、年齢、学業状況、進学可能性、家庭環境なども考慮されます。

たとえば、大学生であれば、将来大卒者として就労する可能性を前提に、大卒平均賃金を基礎に考える場面があります。他方、高校生や中学生、さらに幼児となると、進学や職業の具体的予測は難しいため、全年齢平均賃金や男女別平均賃金を基礎にするなど、より定型的な処理が行われやすくなります。

ここで注意が必要なのは、将来高収入の職業に就く可能性があったという主張が、どこまで認められるかです。たとえば、医師志望、スポーツ選手志望、芸術系の進路などを主張することがありますが、裁判実務では、あまりに不確実な将来予測に基づいて高額の基礎収入を認めることには慎重です。成績、進学状況、既に専門課程にあるかなど、客観的裏付けが必要です。

また、若年者では、喪失期間が長くなるため、後遺障害の影響が賠償額に大きく反映されやすい特徴があります。幼い子どもであっても、将来長期間にわたって労働能力制限が及ぶと評価されれば、逸失利益は相当高額になることがあります。そのため、後遺障害の内容、日常生活上の支障、将来の就労制限の程度を丁寧に検討する必要があります。

特に問題になるのは、症状が現在どのように学業や進路に影響しているかです。集中力の低下、頭痛、高次脳機能障害、運動制限、感覚障害などが、学習や進学、資格取得、職業選択の幅にどのような影響を与えるのかは、将来収入の認定に直結します。単に「若いから将来が長い」というだけではなく、その若さゆえに、進路形成の段階で制約を受ける不利益が重要なのです。

また、性別による平均賃金の差をどう考えるかも実務上の論点でしたが、近時は、家事労働や就労実態の多様化を踏まえ、機械的な低額評価を避ける方向も意識されています。若年者の将来像を固定観念で決めつけることは適切ではありません。

学生・若年者の逸失利益では、現在の収入がない分、将来の可能性をどこまで具体的に立証できるかが重要になります。学校成績、進路希望、部活動歴、資格取得状況、家族や教師の証言などが意味を持つこともあります。

次回は、逆に年齢が高い場合、高齢者の後遺障害賠償で何が問題になるのかを扱います。

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