第37講  高齢者の後遺障害賠償|年齢が高いと不利になるのか

第37講
高齢者の後遺障害賠償|年齢が高いと不利になるのか

 

後遺障害の賠償では、「高齢だと逸失利益は認められにくいのではないか」と考えられがちです。確かに、年齢が上がるほど、将来の就労期間が短くなる傾向があるため、若年者に比べれば逸失利益が小さくなりやすいのは事実です。しかし、年齢が高いからといって、直ちに賠償が否定されるわけではありません。

まず重要なのは、高齢者でも現実に就労している人は少なくないということです。会社員の継続雇用、自営業、農業、パート勤務、役員報酬を伴う活動など、さまざまな形で経済活動を続けている場合があります。このような場合には、現実の就労実態を踏まえて、逸失利益を検討することになります。実際に働いていたのであれば、年齢だけを理由に労働能力の損失をゼロとみるのは相当ではありません。

また、現実の就労収入がなくても、家事従事者としての逸失利益が問題になることがあります。高齢の配偶者のために家事を担っていた場合や、家庭内で相当の役割を果たしていた場合には、その家事能力の喪失が賠償対象となりえます。したがって、高齢者の後遺障害賠償は、「仕事をしていたかどうか」だけでなく、「どのような生活上の役割を担っていたか」も重要です。

実務では、症状固定時から67歳までを一応の就労終期の目安とすることがありますが、これは絶対的なルールではありません。67歳を超えても現に働いていた人、あるいは働く蓋然性が相当ある人については、それ以後の期間も考慮されることがあります。他方、すでに就労から離れて久しい場合には、平均余命まで全面的に逸失利益を認めることには慎重な判断がされることがあります。

高齢者で争いになりやすいのは、就労可能性をどうみるかです。たとえば、退職して年金生活に入っていたとしても、それだけで労働能力の価値がゼロになるわけではありません。再就職の可能性、家業への従事、家事労働の継続など、個別具体的な事情をみる必要があります。他方で、具体的な就労実態や家事実態が乏しい場合には、逸失利益の立証が弱くなることもあります。

さらに、高齢者の場合、既往症や加齢変化との関係が問題になることも多いです。事故による後遺障害なのか、もともとの身体的衰えや持病による影響なのかが争われやすく、素因減額とも関係します。この点は第40講で改めて扱います。

慰謝料の面でも、高齢であることを理由に当然に低くみることはできません。むしろ、高齢者にとって身体機能の低下は、残りの生活期間の自立性や尊厳に直結するため、生活への打撃が大きい場合もあります。歩行障害、視力障害、疼痛の持続などは、日常生活の質を大きく損ないます。

結局のところ、高齢者の後遺障害賠償では、「高齢だから不利」という単純な発想では足りません。現実の就労、家事従事、生活実態、将来の自立性への影響などを具体的に見ていく必要があります。

次回は、逸失利益の中核論点の一つである労働能力喪失率について、等級表どおりではない場面を整理します。

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