第38講  労働能力喪失率はどう決まるのか|等級表どおりではない場面

第38講
労働能力喪失率はどう決まるのか|等級表どおりではない場面

後遺障害の逸失利益を計算するとき、非常に重要なのが労働能力喪失率です。これは、事故によって被害者の労働能力がどの程度失われたかを割合で示すものです。実務では、自賠責の後遺障害等級に対応した喪失率の目安表がよく使われますが、これはあくまで出発点にすぎません。

たとえば、ある等級には一般的な喪失率の目安があるとしても、実際の仕事への影響は、人によって大きく異なります。同じ手指の機能障害でも、細かな作業を主とする職人や美容師、調理人、歯科技工士などにとっては重大な制約となる一方、主として管理業務やデスクワークに従事する人では、影響が相対的に小さいことがあります。

逆に、一見軽い等級であっても、痛みやしびれ、可動域制限、易疲労性、高次脳機能障害などによって、現実の就労に強い支障が出ることもあります。とくに神経症状では、画像所見だけでは捉えきれない苦痛や持続的な負担が問題となるため、等級表どおりの数字で十分かどうかが争われることがあります。

したがって、裁判実務では、等級表の目安を機械的に当てはめるのではなく、障害の内容、仕事内容、事故後の就労状況、生活上の支障などを踏まえて、喪失率を修正することがあります。つまり、等級は重要な指標ですが、それだけで決着するわけではないのです。

現実に減収がない場合でも、喪失率を否定しきれないことがあります。たとえば、周囲の配慮で負担の軽い業務に変えてもらっている、残業や出張を免除されている、昇進コースから外れている、転職市場で不利になっているなどの事情があれば、形式上の給与維持だけでは労働能力の維持を意味しません。このような場合、現実収入と喪失率は必ずしも一致しません。

他方で、等級が認定されていても、事故後長期にわたり従前どおり就労し、実質的な制約が乏しい場合には、目安表より低い喪失率にとどめられることもあります。したがって、「何級だから何%」と覚えるだけでは足りず、その数字を支える具体的事情を示すことが重要です。

証拠としては、医師の診断書や後遺障害診断書だけでなく、勤務先の意見書、就労状況報告、家族の陳述、日常生活動作の記録などが役立ちます。どの動作が難しくなったのか、どのような業務を断念したのか、疲労や疼痛のためにどれだけ能率が落ちたのかを具体的に示すことが、喪失率の説得力につながります。

要するに、労働能力喪失率とは、単なる等級の換算表ではなく、「この障害がこの人の働き方にどれほど影響しているか」という実質判断です。次回は、その労働能力の喪失が、いつまで続くものとして評価されるのか、喪失期間の問題を扱います。

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