第31講 遺留分とは何か|遺言があっても最低限守られる取り分
第31講
遺留分とは何か|遺言があっても最低限守られる取り分

遺言は、相続の結論を大きく動かす強い道具です。しかし、だからといって被相続人がどの相続人を完全にゼロにしても、常にそのまま通るわけではありません。そこで出てくるのが遺留分です。法務省は、遺留分について、兄弟姉妹以外の相続人に対し、その生活保障などの観点から最低限の取り分を確保する制度だと説明しています。つまり、遺留分は「遺言に反対できる一般権」ではなく、一定の相続人にだけ認められた最低保障です。
誰に遺留分があるかという点は、最初にきちんと押さえる必要があります。民法1042条は、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が帰属すると定めています。したがって、遺留分があるのは、典型的には配偶者、子、直系尊属です。逆に、兄弟姉妹には遺留分がありません。ここは実務で非常に大きく、たとえば「子がいない夫婦で、夫が全財産を妻に相続させる」と遺言した場合、夫の兄弟姉妹は法定相続人になり得ても、遺留分は持ちません。だから、兄弟姉妹の事案では、遺言の効き方がかなり強くなります。
遺留分の割合にも、全体のルールがあります。民法1042条は、直系尊属のみが相続人である場合は遺留分全体が3分の1、それ以外の場合は遺留分全体が2分の1と定めています。法務省の改正説明でも、通常は2分の1、ただし直系尊属のみが相続人である場合は3分の1だと整理されています。したがって、配偶者や子がいる通常の相続では、まず遺産全体の2分の1が遺留分の土台になり、親だけが相続人である事案では3分の1が土台になります。
もっとも、遺留分は「全員まとめた総枠」が決まるだけでは終わりません。民法1042条2項は、相続人が数人いる場合には、その総枠を民法900条・901条の法定相続分に応じて配分するとしています。つまり、まず全体として2分の1または3分の1を取り、その中を各人の法定相続分で割り振る構造です。たとえば、配偶者と子2人が相続人なら、遺留分全体は2分の1で、そのうち配偶者は法定相続分2分の1に応じて4分の1、子2人は残り4分の1をさらに2人で分けるので、各自8分の1ずつが遺留分の目安になります。これは条文の割合から機械的に導ける考え方です。
ここで大事なのは、遺留分は法定相続分そのものではないという点です。法定相続分は、遺言がないときや遺産分割の出発点となる割合ですが、遺留分は、遺言があってもなお確保される最低保障です。だから、法定相続分よりはかなり小さくなることがあります。たとえば、配偶者と子がいる事案では、配偶者の法定相続分は2分の1ですが、遺留分として最低限保障されるのはその半分である4分の1にとどまります。遺留分は「本来もらえたはずの全部」ではなく、「そこまでは削ってはいけない最低線」だと見るべきです。
そのため、遺言があっても、直ちに全部が無意味になるわけではありません。遺言は基本として有効に働きますが、その内容が一定の相続人の遺留分を侵害しているときに、はじめて遺留分の問題が表面化します。法務省は、相続法改正後の制度について、遺留分を侵害された相続人は、受遺者や受贈者に対して請求をする仕組みだと説明しています。つまり、遺留分は「遺言があるから当然に発動する制度」ではなく、「遺言や贈与によって最低保障を割り込んだときに問題になる制度」です。
実務感覚でいえば、遺留分は、相続における最後の安全網です。被相続人の意思を尊重して遺言を広く認めつつも、配偶者や子、親を完全に切り捨てることまでは許さない。その線引きを担っているのが遺留分です。だから、遺言書を読むときは、「有効か無効か」だけでは足りません。誰に遺留分があり、全体で何割が遺留分となり、その人の最低線がどこにあるのかまで見て、はじめてその遺言の強さが分かります。
第32講では、ここから一歩進めて、遺留分侵害額請求とは何か|昔の減殺請求と何が違うのかを扱います。今の遺留分制度は、昔のように当然に物を取り返す仕組みではなく、原則として金銭請求に変わっています。