第19講 高次脳機能障害とは何か|見えにくい障害をどう立証するか
第19講 高次脳機能障害とは何か|見えにくい障害をどう立証するか

高次脳機能障害は、交通事故後遺障害の中でもとりわけ理解が難しく、しかも被害者や家族にとって負担の大きい類型です。身体麻痺のように外から見えやすい障害とは異なり、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、感情コントロールの低下、対人関係の変化など、「以前と違うのに説明しにくい」という形で現れることが多いからです。そのため、見えにくい障害をどう資料化し、どう立証するかが核心になります。
高次脳機能障害を考える出発点は、単に「物忘れが増えた」「怒りっぽくなった」という訴えだけでは足りない、ということです。もちろん本人や家族の実感は非常に重要ですが、認定実務では、まず頭部外傷の存在、その程度、意識障害歴、画像所見、急性期医療記録などが重視されます。事故によって脳に一定のダメージが生じたことが資料上確認できるかが、入口として大きな意味を持ちます。
もっとも、高次脳機能障害は画像だけで決まるわけではありません。画像所見が明確でない事案でも、神経心理学的検査の結果、日常生活上の具体的支障、就労場面での失敗、家族や勤務先の観察内容などが積み重なれば、重要な資料になります。実務では、医療記録と生活記録の両方が必要です。病院の中だけでは見えない障害が、家庭や職場で初めて明らかになることが多いからです。
特に重要なのは、事故前との比較です。もともとの性格や能力との違いがわからなければ、「年齢相応ではないか」「精神的ショックによるものではないか」といった反論を受けやすくなります。そのため、家族や同僚が、事故前後でどのような変化があったかを具体的に整理することが大切です。約束を忘れるようになった、同じミスを繰り返す、段取りが組めない、感情の起伏が激しくなったなど、日常のエピソードが実務上は大きな意味を持ちます。
高次脳機能障害の案件では、本人が自分の障害を十分に自覚できないこともあります。これが立証をさらに難しくします。本人が「大丈夫」と言っていても、周囲からみると明らかに事故前と違うということがあるからです。したがって、家族や支援者の関与が不可欠になる場面も少なくありません。
高次脳機能障害は、見えないから軽いのではなく、見えないからこそ立証が難しく、生活への影響が深刻になりやすい障害です。認定のためには、頭部外傷の医学的資料と、生活・就労上の変化を示す具体的資料を結びつける必要があります。抽象的な「何となくおかしい」ではなく、どの機能が、どの場面で、どう障害されているのかを可視化することが、この類型の最も重要な課題です。