第34講 自営業者の逸失利益|売上ではなく何を基礎に考えるのか
第34講
自営業者の逸失利益|売上ではなく何を基礎に考えるのか

自営業者の後遺障害逸失利益は、会社員以上に争いになりやすい分野です。会社員であれば給与明細や源泉徴収票という比較的明確な資料がありますが、自営業者では、何をもって「収入」とみるのか自体が問題になるからです。
まず注意しなければならないのは、逸失利益の基礎になるのは、通常、売上そのものではないということです。自営業では、売上が大きくても経費が多ければ手元に残る所得は小さいことがあります。したがって、実務では、原則として確定申告上の所得額が基礎資料として重視されます。つまり、「いくら売ったか」ではなく、「どれだけ利益を得ていたか」が出発点になります。
もっとも、確定申告の数字がそのまま絶対というわけでもありません。自営業者の場合、節税のために経費計上が広く行われていたり、家族への支払いや減価償却の処理が実態とずれていたりすることがあります。そのため、申告所得が低額であっても、それだけで実際の稼働価値まで低いと評価するのが妥当でない場合があります。逆に、申告額が不自然に低いのに、事故後だけ高額の逸失利益を主張するのも容易ではありません。
そこで実務では、確定申告書、青色申告決算書、帳簿、売上台帳、通帳、取引先との契約関係などをもとに、事業の実態を丁寧に見ていくことになります。どの程度の売上が継続していたのか、本人の労働がどれほど収益に結びついていたのか、事業拡大の見込みがあったのかなどが重要です。
自営業者特有の論点として、事業収入のうち、本人の労働による部分と、資本や設備、従業員、家族の補助による部分をどう区別するかという問題があります。たとえば、店舗や機械設備が主に利益を生んでいる事業であれば、本人に後遺障害が残っても、直ちに所得全体が同率で減少するとはいえません。他方、本人の技能や身体活動が中心で成り立つ事業、たとえば職人、運送、建設、施術、営業型の個人事業などでは、後遺障害の影響が収益に直結しやすくなります。
家族労働の問題も重要です。家族が無償または低額で補助していた事業では、事故後に家族の負担が増えたとしても、帳簿上の所得にすぐ表れないことがあります。つまり、見かけ上は売上も所得も維持されていても、実際には家族の過重な支援によって成り立っているにすぎないという場合があるのです。このようなときには、「現実所得が落ちていないから損害がない」という単純な処理は相当でありません。
さらに、自営業者は景気、取引先、季節変動など外部要因の影響も受けやすいため、事故との因果関係をどうみるかが難しくなります。事故後の減収が、後遺障害のためなのか、景気後退や別の経営事情によるのかを区別する必要があります。そのため、事故前後の数年分の資料を比較し、業種特性も踏まえて分析することが大切です。
したがって、自営業者の逸失利益では、「確定申告の数字がすべて」でもなければ、「申告が低いから請求できない」ということでもありません。重要なのは、事業の実態と本人の労働寄与を具体的に示し、後遺障害によってどの部分にどれだけの打撃が生じたのかを丁寧に立証することです。
次回は、現実に給与収入がないにもかかわらず逸失利益が問題となる、主婦・家事従事者のケースを扱います。