第4講 試用期間中なら自由に辞めさせられるのか|本採用拒否の考え方
第4講 試用期間中なら自由に辞めさせられるのか|本採用拒否の考え方

試用期間と聞くと、「まだ本採用ではないのだから、会社は自由に切れるのではないか」と思われがちです。実際、会社側もそのような感覚で説明することがあります。しかし、法的にはそう単純ではありません。厚生労働省の整理でも、試用期間中の解約権の行使は通常の解雇より広い範囲で認められうる一方で、なお客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当といえる場合にしか許されないとされています。
1 試用期間は「自由解雇期間」ではない
まず押さえたいのは、試用期間であっても、会社が好きなタイミングで好きな理由により一方的に切ってよいわけではない、ということです。労働契約法16条は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合には、権利濫用として無効になると定めています。そして厚生労働省の試用期間の裁判例整理でも、試用期間中の本採用拒否や解雇について、同じ考え方が基本に置かれています。
したがって、試用期間という言葉だけで「どうせ争えない」と考えるのは早すぎます。会社が「試用期間だから」「まだ正式採用ではないから」と言っていても、それは法的結論そのものではなく、あくまで出発点にすぎません。争点になるのは、なぜ不適格と判断したのか、その判断に客観的根拠があるのか、評価の過程が試用期間の趣旨に沿っていたのか、という中身です。
2 多くの場合、試用期間は「解約権留保付の雇用契約」と理解される
最高裁や厚生労働省の整理では、試用期間付きの雇用は、しばしば「解約権留保付の雇用契約」と理解されます。要するに、まだ何も成立していない状態ではなく、すでに雇用契約自体は成立しているが、会社側に一定の解約権が留保されている、という発想です。神戸弘稜学園事件でも、採用時に期間を設けていても、その趣旨が適性判断にある場合には、期間満了で当然終了する旨の明確な合意など特段の事情がない限り、試用期間と解されると整理されています。
この理解は実務上かなり重要です。なぜなら、「まだ本採用ではない=契約は未成立」という雑な理解を退けるからです。雇用契約がすでに始まっている以上、本採用拒否は単なる不採用通知ではなく、実質的には解約・解雇の問題として扱われます。ここに、試用期間中の労働者にも一定の保護が及ぶ理由があります。
3 本採用拒否が許されるのはどんな場合か
本採用拒否が許されるのは、試用期間の趣旨、つまり人物・能力・適性を見極めるという目的に照らして、引き続き雇用しておくのが適当でないと客観的に判断できる場合です。厚生労働省のあっせん事例集は、三菱樹脂事件の流れを踏まえ、採用当初知ることができなかったような事実が試用期間中に判明し、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することに客観的合理性が認められるような場合に、本採用拒否は相当とされると整理しています。
ここでいう「客観的合理性」は、単なる好き嫌いでは足りません。たとえば、業務遂行に重大な支障があり、改善指導をしてもなお適性に重大な疑問が残るとか、協調性や勤務態度に深刻な問題があり、就業継続に現実的な支障があるとか、そういった水準が問題になります。他方で、印象が悪い、何となく合わない、挨拶が小さい、といった程度では、社会通念上相当性まで満たさないことがあります。厚生労働省の資料でも、会長に声を出して挨拶しなかったことを理由とする解約が無効とされた例が紹介されています。
4 「期間満了だから当然終了」は、そのままでは通らないことがある
会社側はしばしば、「試用期間が終わったので本採用しません。もともと期間付きです」と説明します。しかし、神戸弘稜学園事件の整理では、採用時に期間が付されていても、それが適性判断のためのものであるなら、期間満了で当然終了する旨の明確な合意など特段の事情がない限り、単純な期間満了とは扱われません。つまり、形式上「1年契約」「3か月契約」と書いてあっても、それだけで当然終了になるとは限らないのです。
この点は、会社の書類の題名よりも、実際の運用の方が大切だということでもあります。試用期間中の労働者が、他の社員と同じ職場で同じ仕事をし、取扱いにも大差がなく、試用期間満了時にあらためて本採用契約書を作る運用もないような場合には、裁判所は解約権留保付雇用契約と捉える方向を示しています。
5 試用期間の長さにも限界がある
もうひとつ見落としやすいのは、試用期間の長さです。厚生労働省の裁判例整理では、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるため、適性判断に必要な合理的期間を超えた長期の試用期間は、公序良俗に反し、その限りで無効と解されると明示されています。つまり、「試用期間を長く設定しておけば会社がずっと自由に様子見できる」という発想も、そのままは通りません。
実務感覚としては、試用期間の長さ自体も、それが職務の内容や見極めの必要性に照らして相当か、という観点で見直す必要があります。単に会社にとって便利だから長くしているだけであれば、争点になりえます。
6 14日ルールは「有効・無効」の話ではなく、主に解雇予告の話である
試用期間では、「14日以内なら即時解雇できる」という説明がよく出てきます。これは一部だけを見ると誤解しやすいのですが、厚生労働省のQ&Aによれば、労働基準法上、試用期間中の者については最初の14日間は解雇予告や解雇予告手当の例外が認められ、14日を超えると、原則として30日前予告または解雇予告手当が必要になります。
ただし、これは主として解雇手続の話です。14日以内だからといって、理由のない解雇まで当然に有効になるわけではありません。この点は、労働契約法16条の実体的規制と、労働基準法20条・21条の手続的規制を分けて見ると理解しやすいです。つまり、14日ルールは「予告手当が要るかどうか」に強く関係しますが、「本採用拒否に客観的合理性と社会通念上の相当性があるか」という本体の問題は、なお残るという整理になります。これは条文構造からの実務的な読み方です。
7 理由を曖昧にしたままの本採用拒否は、争点になりやすい
本採用拒否の場面で会社が曖昧な説明しかしない場合、そのこと自体が後で問題になります。厚生労働省は、就業規則に解雇事由を記載しておく必要があること、解雇理由の証明書を請求された場合には会社が遅滞なく交付しなければならないことを説明しています。予告期間中から解雇日までに請求すれば、労働基準法22条2項に基づく解雇理由証明書の交付を求めることができます。
そして、もし解雇後であっても、労働基準法22条1項に基づく退職時の証明として、退職理由が解雇である以上、その理由を含む証明を請求できます。したがって、会社が「合わなかった」「総合判断だ」などと濁してくる場合でも、理由の固定を求める意味は大きいです。後から理由がずれていくのを防ぐうえで、非常に重要な一手になります。
8 指導不足や評価過程の雑さは、会社側に不利に働きうる
試用期間中の本採用拒否では、会社がどのように評価し、どの程度指導し、改善機会を与えたかも見られます。厚生労働省のあっせん事例でも、上司の指導等に不十分な点が見られることから、本件解雇理由は過去の判例に照らすと合理性がないと判断される可能性がある、と説明された例が紹介されています。
もちろん、すべての職場で十分な教育訓練を尽くさなければ絶対に本採用拒否できない、という話ではありません。ただ、少なくとも、採用時に求める能力の説明が曖昧で、現場での指導も不十分で、評価記録もなく、最後に「やはり適性がない」で終わるようなケースは、客観的合理性の立証が弱くなりやすい、ということです。これは上記のあっせん事例や判例整理からかなり素直に導ける見方です。
9 本人側が最初に確認したいこと
試用期間中に辞めさせられそうになったり、本採用拒否を告げられたりしたときは、まず、就業規則や雇用契約書に試用期間の定めがどう書かれているかを確認する必要があります。次に、いつ、誰が、どの理由で、本採用しないと言ったのかを記録し、評価表、指導記録、面談記録、メール、チャットなどを残すことが大切です。さらに、14日を超えているかどうかで解雇予告手当の問題が変わるため、入社日と通知日も正確に押さえるべきです。
そのうえで、会社が本採用拒否の理由を曖昧にしているなら、解雇理由証明書や退職時証明の請求を検討する価値があります。試用期間の紛争では、「会社がどう言い換えていくか」が勝敗に影響しやすいので、初動で理由を固定しておく意味はかなり大きいです。
10 まとめ|試用期間でも、会社は理由なく切れない
試用期間は、たしかに通常の解雇より会社側に広い裁量が認められる場面です。しかし、それでも本採用拒否や試用期間中の解約は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であり、単なる印象論や好き嫌いでは足りません。しかも、期間付きのように見えても、適性判断のための期間であるなら、多くの場合は解約権留保付雇用契約として扱われ、期間満了で自動終了とは限りません。
また、14日ルールは主に解雇予告の例外に関するものであって、それだけで有効・無効が決まるわけではありません。試用期間中に辞めさせられたからといって直ちに諦めるのではなく、理由、評価過程、指導状況、通知手続を一つずつ見直すことが大切です。