第32講 懲戒解雇はどこまで許されるのか|重大な処分に必要な条件
第32講 懲戒解雇はどこまで許されるのか|重大な処分に必要な条件

懲戒解雇は、会社が行いうる処分の中でも最も重い部類に入ります。単に雇用が終わるだけではなく、退職金の不支給や減額、再就職への悪影響、本人の名誉・評価への打撃まで伴い得るため、裁判実務でもかなり厳しく見られます。厚生労働省の紛争解決事例の解説でも、懲戒解雇には労働契約法15条の懲戒規制と16条の解雇規制の両方が及び、その相当性は厳しく判断される傾向にあると整理されています。
出発点として、会社は好きなときに好きな理由で懲戒できるわけではありません。労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒できる場合であっても、その懲戒が、当該労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないときは、権利濫用として無効になると定めています。そして厚生労働省の解説は、ここでいう「懲戒」は労基法89条9号の「制裁」と同義であり、事業場に懲戒の定めがあるなら、その種類と程度を就業規則に記載することが必要だと説明しています。
したがって、第32講で最初に押さえるべきなのは、就業規則上の根拠です。厚生労働省の2025年版モデル就業規則でも、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないと明記されています。つまり、会社が後から「これは重大だから懲戒解雇だ」と言っても、そもそもその行為が懲戒事由として定められていなければ、そこで大きくつまずきます。さらに、地域労働局の解説でも、懲戒の種別と事由を就業規則に定め、それを労働者に周知していることが前提になるとされています。
次に重要なのは、本当に懲戒事由に当たる事実があるのかです。会社が「重大な規律違反だ」「信用を失墜させた」と抽象的に言うだけでは足りません。どの就業規則条項のどの文言に、いつ、どの行為が、どの程度当たるのかを具体的に見なければなりません。厚生労働省の紛争解決事例解説でも、まず就業規則上の懲戒事由に該当する客観的理由の存在が問われるとされています。ですから、懲戒解雇の事件では、会社の主張する不正行為、職務懈怠、横領、暴力、重大な情報漏えい、無断欠勤などが、抽象論ではなく個別事実として立証できるかが勝負になります。
しかし、懲戒事由に当たりそうな事実があるとしても、それだけで直ちに懲戒解雇が有効になるわけではありません。ここで問題になるのが、処分の重さの相当性です。労働契約法15条は、単に違反行為があったかだけでなく、その行為の性質や態様その他の事情に照らして、処分が社会通念上相当かどうかを問うています。厚生労働省のモデル就業規則でも、規律違反の程度、過去の同種事例との比較などを考慮して公正な処分を行う必要があるとされています。要するに、同じ規則違反でも、初回なのか、反復継続しているのか、故意か過失か、被害の大きさはどうか、改善可能性はあるかで、戒告や出勤停止で足りるのか、懲戒解雇まで行くのかは変わるのです。
この点で、懲戒解雇は普通解雇以上に厳しく見られます。厚生労働省の事例解説は、懲戒解雇について、罪と罰の相当性、従業員間の平等取扱い、就業規則上の手続遵守、労働者の弁明機会の保障などの観点から相当性が判断されるとし、その重い不利益ゆえに厳格に判定される傾向があると述べています。つまり、会社が「ルール違反だから即アウト」と短絡的に処理しても、裁判所は「それで本当に最重処分まで行くのか」をかなり丁寧に見ます。
そこで次に大事になるのが、手続の適正さです。就業規則に懲戒委員会、事情聴取、弁明機会、上申手続などが定められているなら、会社はそれをきちんと踏まなければなりません。厚生労働省の資料でも、就業規則上の手続遵守と労働者の弁明機会の保障は相当性判断の重要な要素とされています。したがって、調査がずさん、本人の話を聞いていない、証拠の確認もない、結論だけ先に決めている、といった事案では、事実が多少あっても懲戒解雇全体が危うくなります。
さらに見落とされがちなのが、懲戒解雇と解雇予告は別問題だという点です。会社の中で「懲戒解雇だから即時に辞めさせられる」と思い込んでいることがありますが、法的にはそう単純ではありません。労働基準法20条は、原則として解雇には30日前の予告または30日分以上の解雇予告手当を要求しており、例外的に即時解雇ができるのは、労働者の責めに帰すべき事由などについて所轄労働基準監督署長の除外認定を受けた場合です。厚生労働省のスタートアップ労働条件の解説も、即時解雇には除外認定が必要であり、認定がない、あるいは得られないなら、通知後の賃金支払いや解雇予告手当が必要になると説明しています。つまり、社内で「懲戒解雇」と呼んだからといって、当然に即時解雇が完成するわけではありません。
労働者側の実務としては、懲戒解雇を告げられたら、まず四つを確認すべきです。第一に、どの就業規則条項に基づくのか。第二に、会社は何の事実を認定しているのか。第三に、その事実を裏付ける資料は何か。第四に、事情聴取や弁明の機会はあったのか、また解雇予告手当の処理はどうなっているのか、です。会社がこのあたりを曖昧にしている場合、懲戒解雇の有効性はかなり揺らぎます。厚生労働省資料でも、懲戒解雇の前提事実や相当性、手続の適正さについての立証責任は使用者側にあると解されています。
要するに、懲戒解雇が有効になるためには、単に「悪いことをした」では足りません。就業規則に根拠があり、その内容が周知され、問題行為の事実が具体的に立証され、その行為に対して懲戒解雇という最も重い処分が重すぎず、しかも手続も適正でなければなりません。さらに、即時解雇の形を取るなら、解雇予告制度との関係も別途クリアしなければなりません。第32講で押さえるべきなのは、懲戒解雇は「会社が怒ったからできる処分」ではなく、根拠・事実・相当性・手続が全部そろったときにだけ許される、非常にハードルの高い処分だということです。