第40講 減給処分・出勤停止・降格|懲戒処分の重さはどう判断されるか
第40講 減給処分・出勤停止・降格|懲戒処分の重さはどう判断されるか

減給処分、出勤停止、降格は、懲戒解雇ほどではないにせよ、労働者にとってかなり重い不利益です。しかも、同じ「重い処分」でも、減給は労基法91条による法定の上限があり、出勤停止は就労そのものを一定期間禁止する処分で、降格は役職・等級・賃金に長く影響し得るという違いがあります。厚生労働省系の解説でも、懲戒処分の例として戒告・けん責、減給、出勤停止、降格などが挙げられ、これらはいずれも服務規律違反に対する制裁として位置付けられています。
もっとも、これらの処分も会社が自由に選べるわけではありません。労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その懲戒が、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないときは無効になると定めています。厚生労働省のモデル就業規則解説でも、懲戒事由に合理性がない場合や、処分が公正と認められない場合には、懲戒権の濫用として無効となり得るとされています。つまり、第40講の基本軸も、これまでと同じく、就業規則上の根拠、事実の存在、処分の重さの相当性です。
まず減給処分ですが、これは他の懲戒よりも法的な上限がはっきりしています。労働基準法91条は、就業規則で減給の制裁を定める場合、その一回の額が平均賃金1日分の半額を超えず、かつ、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはならないと定めています。厚生労働省の「労働条件・職場環境に関するルール」でも、この上限がそのまま分かりやすく説明されています。したがって、「1回のミスで月給を大きく削る」「何度か問題があったから今月の給与を半分にする」といった処分は、条文レベルでかなり危ういです。
ここで実務上よく混同されるのが、懲戒としての減給と、働かなかった時間分の不払いの違いです。厚生労働省のモデル就業規則解説は、遅刻や早退の時間については、その時間分の賃金債権がそもそも生じないため、その不払い自体は労基法91条の制限を受けないとしています。他方で、遅刻や早退の時間分を超えてさらに賃金を削る部分は「制裁」とみなされ、91条の制限を受けます。つまり、ノーワーク・ノーペイの処理と、制裁としての減給は別であり、会社がこの二つを混ぜて大きく差し引いている場合には、そこが争点になります。
また、減給は賃金だけの問題ではありません。減給処分をするには、そもそも就業規則に懲戒の種類と事由が定められていなければならず、しかも当該事実がその事由に当てはまり、なおかつその重さが相当である必要があります。モデル就業規則解説も、就業規則に定めのない事由による懲戒は懲戒権濫用となり得ること、さらに過去の同種事例との均衡などを考慮して公正な処分を行う必要があることを明示しています。したがって、法定上限以内だから直ちに有効というわけではなく、根拠・事実・相当性の三段階はやはり必要です。
次に出勤停止です。これは、一定期間労働者の就業を禁止し、その間の賃金を支給しない処分です。厚生労働省のハラスメント関係資料にある規程例でも、「7日を限度として、出勤を停止し、その間の賃金は支給しない」という形で示されています。つまり、出勤停止は、減給のように一部だけ差し引くのではなく、一定期間まるごと働けず、その期間の賃金も失うため、実質的にはかなり重い懲戒です。
そのため、出勤停止では特に期間の長さが重要になります。法令上、減給のような一律の数値上限が条文で定められているわけではありませんが、少なくともモデル的な規程例では7日程度の上限が示されており、労契法15条の相当性審査の下で、違反行為に比して長過ぎる出勤停止は無効に傾きやすいと考えるべきです。これは明文の法定上限がないというより、むしろ相当性の審査に丸ごと委ねられる分、処分の重さと事案の釣り合いがより厳しく問われると見た方が実務に近いです。
さらに、出勤停止は一見「解雇より軽い」ようでいて、生活への打撃は小さくありません。一定期間賃金がゼロになり、しかも職場から排除されるため、名誉・信用面の不利益も伴いやすいからです。仙台ELCCの解説も、懲戒の重さは違反行為の内容に応じて、重過ぎず軽過ぎず社会的に妥当な内容である必要があるとしています。したがって、単発の軽微な遅刻や、注意すれば足りる程度の問題行動に対し、いきなり長期の出勤停止を選ぶような場合は、かなり危ういです。
そして降格ですが、ここが最も混線しやすいところです。厚生労働省系の資料では、降格は懲戒処分の一類型として挙げられる一方で、人事権の行使として行われる降格もあり得ると明示されています。つまり、同じ「降格」という言葉でも、非違行為への制裁としての懲戒降格なのか、職務適性や組織再編による人事上の降格なのかで、法的な見方が違います。第40講で扱うのは前者、すなわち懲戒としての降格です。
懲戒としての降格が問題になるのは、役職を解く、下位等級へ落とす、それに伴って役職手当や等級給が下がる、といった場面です。厚生労働省の資料でも、規程例として「職位を解任し、若しくは下位等級へ降格する」と示されています。ここで大事なのは、降格は減給処分と違って、一回限りの控除額の問題では終わらず、その後の地位や賃金に継続的影響を及ぼし得るという点です。したがって、降格に伴って収入が長く下がる場合には、処分としての重さはかなり大きく、相当性審査も厳しくなると考えるべきです。これは、厚労省資料が降格を減給や出勤停止とは別個の懲戒類型として扱っていることからの実務的な帰結です。
このため、降格では、何を下げたのかを具体的に分ける必要があります。役職だけ外したのか、職能資格等級まで下げたのか、基本給まで落ちたのか、役職手当だけなくなったのかで、不利益の大きさは全く違います。しかも、それが懲戒として行われるなら、就業規則にその類型と事由が定められていることが必要ですし、事実認定や手続も当然問われます。仙台ELCCも、懲戒では就業規則などの労働契約上の根拠が必要で、証拠の信用性や本人の言い分聴取、社内先例との均衡も重要だとしています。
さらに、減給・出勤停止・降格のいずれでも、一事不再理的な発想は重要です。厚生労働省のモデル就業規則解説は、就業規則に懲戒規定を設ける以前の行為に遡って懲戒することや、1回の懲戒事由に当たる行為に対して複数回の懲戒処分を行うことはできないとしています。したがって、同じ出来事について、まず減給し、その後また同じ理由で出勤停止にし、さらに降格まで重ねるような運用は非常に危ういです。処分の重さ以前に、処分の重ね方自体が問題になります。
労働者側の実務としては、これらの処分を受けたとき、少なくとも五つを見るべきです。第一に、就業規則にその処分類型と事由があるか。第二に、会社が認定した事実は何か。第三に、その事実を裏付ける証拠はあるか。第四に、過去の同種事例と比べて重過ぎないか。第五に、減給なら91条の上限、出勤停止なら期間、降格なら賃金・地位への継続的不利益の大きさ、をそれぞれ押さえることです。重い処分ほど「何となく悪いことをしたから」で押し切られやすいのですが、実際にはかなり細かく見る余地があります。
要するに、第40講で押さえるべきことはこうです。減給は法定上限があるので数字でチェックしやすい。出勤停止は賃金を失う期間処分なので、期間と事案の釣り合いが重要になる。降格は懲戒か人事かをまず分けたうえで、地位と賃金への継続的不利益の重さを見なければならない。 そして三つに共通するのは、就業規則上の根拠、事実認定、相当性、均衡、手続がそろわなければ無効になり得るという点です。懲戒権濫用の問題は、解雇だけでなく、このあたりの「中間的に重い処分」でこそ非常に重要です。