第39講 賞与は払われないことがあるのか|ボーナスの法的性質

第39講 賞与は払われないことがあるのか|ボーナスの法的性質

賞与について、最初に押さえるべきなのは、賞与は法律上、すべての会社に当然に支給義務があるものではないという点です。厚生労働省のモデル就業規則も、賞与は労基法その他の法律によって設けることが義務付けられているものではないと明記しています。そのうえで、会社が賞与を支給するなら、就業規則に支給対象時期、算定基準、査定期間、支払方法などを明確にしておく必要があるとされています。つまり、第39講の出発点は、「毎年出ているから当然もらえる」という発想ではなく、会社にどんな規程があり、そこでどう定められているかを見ることです。

この点からすると、賞与の法的性質は月給ほど単純ではありません。厚生労働省の裁判例整理では、賞与の請求権は、使用者の決定や労使の合意・慣行等によって、具体的な算定基準や算定方法が定められ、支給すべき金額が定められることにより初めて発生すると整理されています。実際、福岡雙葉学園事件の紹介でも、給与規程が「その都度理事会が定める金額を支給する」としか定めておらず、具体的金額や算定方法の定めも、前年度実績を下回らないという慣行もなかった事案では、理事会が金額を決めて初めて具体的権利が発生するとされています。つまり、賞与は常に当然発生する固定給ではなく、規程・慣行・決定手続を通じて初めて具体化することがある給付だということです。

そのため、会社が「業績が悪いから今回は出さない」と言ったときも、一律に違法とはいえません。沖縄労働局のQ&Aは、就業規則等で具体的金額を明示し、賞与を必ず支給すると定めている場合には支給義務がある一方で、「会社の業績により支給しないことがある」などの規定がある場合には、不支給でもやむを得ない場合があると説明しています。モデル就業規則も、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがあるという例を示しています。要するに、賞与の不支給や減額の当否は、まずその会社の規程が、支給を義務としているのか、業績連動・裁量要素を残しているのかで分かれます。

もっとも、会社があとから好きに減額できるわけでもありません。大阪労働局のQ&Aは、就業規則等によりあらかじめ支給時期や支給金額が定められている賞与であれば、その減額は労働条件の変更になり、原則として個々の労働者の同意がなければ有効ではないと説明しています。他方で、就業規則等に、会社業績や勤怠、業績評価などの査定を経て支給額を決めると定められている場合には、適正な査定による減額であれば問題ないとされています。つまり、賞与で争うときは、「減らされた」という結果だけでなく、最初からどこまで変動する仕組みだったのかを見る必要があります。

次に大きな争点になるのが、在籍要件です。これは「支給日現在在籍している者に限る」といったルールのことですが、厚生労働省の裁判例整理は、賞与の支給日または一定の基準日に在籍する者のみに賞与を支給する取扱いは有効とされていると明示しています。大和銀行事件の紹介でも、就業規則と従来の慣行に基づき、支給日に在籍している者にのみ賞与を支給する取扱いが合理性を有するとされ、支給日前に退職した労働者には受給権がないと判断されています。モデル就業規則も、一定の日又は賞与支給日に在籍した者を支給対象者とする規定を設けることで、その日に在職しない者に支給しないことも可能だとしています。したがって、支給日在籍要件は一般論としてかなり強いと押さえてよいです。

ただし、在籍要件が常に万能というわけでもありません。沖縄労働局のQ&Aは、支払対象者について「支給基準日(支払日)に在籍している者」と明確な規定がない場合には、支給対象期間内に在籍して働いていたが、支給日前に退職した者が請求権を主張してトラブルになることがあるとしています。言い換えると、会社が在籍要件で切りたいなら、そのことが規程上はっきりしていることが重要です。退職前にかなり働いていたのに、規程が曖昧なまま「辞めたからゼロ」と言われる場面では、争う余地が出てきます。

賞与の査定についても、会社に一定の裁量はありますが、無制限ではありません。モデル就業規則は、賞与額を会社の業績や各人の勤務成績などを考慮して決定する例を示しており、大阪労働局も、勤怠や業績評価等の査定を経て支給額を決める定めがある場合には、適正な査定による減額はあり得るとしています。つまり、評価差を反映すること自体は直ちに違法ではありません。しかし、その査定が恣意的であったり、規程にない基準で突然大幅減額したりすれば、別問題になります。賞与事件では、規程に書かれた査定要素に沿っていたか、運用が一貫していたかが重要です。

さらに注意が必要なのは、権利行使を理由に賞与査定で不利益を与えることです。厚生労働省のQ&Aは、年次有給休暇は労基法が保障する権利であり、これを取得したことを理由に賞与の査定でマイナス評価にすることは、その権利行使を事実上抑制する不利益取扱いになると説明しています。年休取得日を欠勤扱いにして精皆勤手当や賞与を減額することも、不利益取扱いに当たる例として挙げられています。したがって、査定という言葉が出てきても、何を査定要素にしてよいかは別途吟味しなければなりません。

労働者側の実務としては、賞与でもめたら、少なくとも四つを見るべきです。第一に、就業規則や賃金規程に賞与の支給義務、算定方法、査定要素がどう書かれているか。第二に、支給日在籍要件の有無。第三に、会社が今回の減額・不支給をどの条項に基づいて説明しているか。第四に、その査定や在籍要件の運用が、これまでの実績や慣行と整合しているか、です。賞与は「会社の好意」でも「当然の満額支給」でもなく、規程・慣行・決定手続の組み合わせで決まる給付なので、ここを具体的に崩すことが大切です。

要するに、第39講で押さえるべきことはこうです。賞与は法律上当然に発生するものではないが、会社が制度を設け、支給条件や算定方法を定めているなら、その枠内で権利が具体化する。支給日在籍要件は一般に有効だが、規程が曖昧なら争いが生じる。査定による差はあり得るが、適正な基準に基づく必要があり、年休取得のような権利行使を不利益評価してはならない。 賞与の問題は、感覚的には「もらえるか・もらえないか」ですが、法的には支給義務、在籍要件、査定の適法性を順に見る論点だということです。

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