第38講 退職金は必ずもらえるのか|制度の有無と減額・不支給の問題

第38講 退職金は必ずもらえるのか|制度の有無と減額・不支給の問題

退職金について、まず最初に押さえるべきなのは、退職金制度は法律上、すべての会社に必ずあるわけではないということです。厚生労働省のモデル就業規則は、退職金制度は必ず設けなければならないものではないと明記しています。他方で、いったん制度を設けるなら、労働基準法89条により、適用される労働者の範囲、支給要件、計算方法、支払方法、支払時期などを就業規則に記載しなければなりません。つまり、第38講の出発点は、「退職金は当然にもらえるもの」ではなく、まず制度があるか、そしてその制度がどう定められているかを見ることにあります。

したがって、退職金を請求できるかどうかは、まず就業規則、退職金規程、労働契約書、労働協約を確認するところから始まります。厚生労働省系の労働局Q&Aでも、退職金制度は必置ではないが、就業規則等で具体的な金額や支払方法などを定めている場合には、その規則どおり支払わなければならないと案内されています。つまり、「うちの会社は退職金がある雰囲気だった」というだけでは弱く、何が支給条件になっているかを規程レベルで押さえることが基本です。

もっとも、規程がなくても終わりとは限りません。茨城労働局のQ&Aは、明文化された規則がなくても、退職金支給が慣行となっている場合には、支払われるべきものと考えられることがあるとしています。つまり、以前に辞めた人に継続的・定型的に支払われていた、計算方法もある程度固まっていた、といった事情があれば、慣行としての退職金制度が争点になる余地があります。ここは実務でも見落とされがちですが、「規程が見当たらないからゼロ」と即断しない方がよいところです。

次に重要なのは、退職金の法的性質です。厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、就業規則や労働協約で支給条件が明確に定められている退職金は、労働基準法11条の「賃金」に当たり得ると整理しています。他方で、その性質は単純な月給の延長ではなく、賃金の後払い的性格、功労報償的性格、生活保障的性格をあわせ持つものと説明されています。だからこそ、退職金は「働いた以上当然に満額」という単純なものでも、「会社が気に入らなければ全部ゼロにできる」というものでもなく、その制度の趣旨に即して判断されます。

この点が、減額や不支給の問題につながります。厚生労働省の裁判例整理は、退職金規程で一定の場合に減額や不支給を定めること自体は認められるとしつつ、それでも無制限ではなく、労働者のそれまでの功績を失わせるほどの重大な背信行為がある場合などに限られると整理しています。つまり、会社が懲戒解雇した、あるいは規程に不支給条項がある、というだけで当然に全部ゼロになるわけではありません。退職金の後払い的性格がある以上、裁判所もかなり限定的に見ます。

厚生労働省のモデル就業規則も、懲戒解雇者について「退職金の全部又は一部を支給しないことがある」としており、常に全額不支給とは書いていません。これは実務感覚としても重要で、重い規律違反があっても、勤続年数やそれまでの功労、違反行為の内容・程度によっては、一部支給が認められる余地があるという発想です。逆にいえば、会社側が「懲戒解雇だから当然に退職金ゼロ」と機械的に処理している場合、その点自体が争点になります。

ここで労働者側が特に見るべきなのは、規程の文言、周知、事実の重さ、比例性です。まず、減額・不支給の根拠条項が本当にあるのか。次に、その規程がきちんと周知されていたのか。さらに、会社が主張する非違行為が本当にあったのか、その内容が「永年の勤続の功労を抹消するほど」の重大性を持つのか。この順で見ていく必要があります。厚生労働省の裁判例整理でも、不支給規定は限定的に解釈されるとされており、単なる勤務不良や会社との不和程度で全部不支給が常に通るわけではありません。

また、自己都合退職だから不利になるかという点も、規程次第です。厚生労働省の旧モデル就業規則には、自己都合退職で勤続年数が短い者には支給しない例が示されていましたし、近年の政策文書でも、自己都合退職時の退職金減額という労働慣行の見直しが言及されています。要するに、自己都合退職だから必ずもらえないわけでも、逆に必ず会社都合と同じ額になるわけでもなく、勤続年数要件や自己都合減額率が規程にどう書かれているかが重要になります。

さらに、会社が途中で退職金制度を不利益に変更してきた場合は、その変更自体が別途争点になります。厚生労働省の労働法教材は、特に賃金や退職金のような重要な労働条件について不利益変更をするには、労働者にその不利益を受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づく合理性が必要だと整理しています。ですから、「前は退職金があったのに、途中からなくなった」「大きく減った」という場合には、現時点の規程だけでなく、どう変更されたのか、その変更が合理的かまで見なければなりません。

支払時期も実務上は重要です。労働局の相談事例では、退職金は就業規則等であらかじめ特定された支払期日が到来するまでは、直ちに労基法23条違反になるとは限らないが、規程で定めた支払日を過ぎてなお支払がない場合は、支給額や支払時期が分かる資料を持って労働基準監督署へ相談するよう案内されています。つまり、「退職したのに今日払われない」というだけで直ちに違法とは限りませんが、規程上の支払日を過ぎたのに払わないなら、かなり具体的な請求段階に入ります。

労働者側の実務としては、退職金でもめたら、少なくとも五つを確認すべきです。第一に、制度の有無。第二に、適用対象かどうか。第三に、勤続年数や退職理由に応じた支給要件。第四に、減額・不支給条項の内容と周知。第五に、支払時期です。会社から「うちは退職金ありません」「あなたは対象外です」「懲戒だからゼロです」と言われても、その一言で終わるのではなく、規程と運用を照らして本当にそうかを確認することが必要です。慣行があればその有無も見ますし、不支給なら非違行為の重大性まで見ることになります。

要するに、第38講で押さえるべきことはこうです。退職金は法律上当然にもらえるものではなく、制度があるかどうか、そしてその規程内容によって決まる。もっとも、制度がある以上、会社は規程どおりに支払う義務を負い、減額・不支給も無制限ではなく、重大な背信行為がある場合などに厳しく絞られる。 したがって、退職金の問題は「あるか・ないか」の二択ではなく、制度、規程、慣行、非違行為の重さ、変更の合理性まで含めて見るべき論点だということです。

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