第1回 不当解雇とは何か|会社から突然「辞めてほしい」と言われたときの基本知識
第1回 不当解雇とは何か|会社から突然「辞めてほしい」と言われたときの基本知識

会社から突然、「もう来なくていい」「辞めてもらう」「今月で終了です」などと言われると、多くの方は、会社がそう決めた以上は従うしかないと思ってしまいます。
しかし、日本の労働法では、会社が一方的に労働契約を終わらせることには厳しい制限があり、会社が言ったから直ちに有効、というものではありません。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効となります。
1 そもそも「解雇」とは何か
解雇とは、会社が労働者の意思にかかわらず、一方的に労働契約を終了させることをいいます。これに対し、労働者が自分で辞めるのは辞職、会社が「辞めてくれないか」と働きかけるのは退職勧奨です。退職勧奨については、自由な意思決定を妨げるようなやり方で行われた場合、違法な権利侵害と評価されることがあると厚生労働省も案内しています。
2 解雇が有効になるための基本ルール
不当解雇を考えるときの出発点は、労働契約法16条です。ここでは、解雇が有効であるためには、単に会社に不満があるとか、上司が気に入らないといった程度では足りず、客観的に合理的な理由があり、さらに社会通念上相当といえることが必要だとされています。言い換えれば、理由の中身と、解雇という重い処分を選ぶことの相当性の両方が問われます。
また、会社は就業規則に解雇事由を記載しておく必要があり、解雇をする場合には、原則として少なくとも30日前に予告するか、予告しないなら30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う必要があります。さらに、労働者が解雇理由証明書を請求したときは、会社はこれを交付しなければなりません。
3 「会社が通知書を出したから有効」というわけではない
実務上よくある誤解は、「解雇通知書が出た以上、もう終わりだ」というものです。ですが、解雇通知書があることと、解雇が法的に有効であることは別問題です。
通知書があっても、理由が曖昧であったり、注意・指導・配置転換など解雇以外の手段をほとんど試していなかったり、手続が粗かったりすれば、解雇権の濫用として争える余地があります。整理解雇についても、厚生労働省は、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の妥当性といった点が総合考慮されると整理しています。
たとえば、勤務成績不良を理由にした解雇でも、単に評価が低いとか、上司との関係が悪いというだけで直ちに有効になるわけではありません。厚生労働省の解説でも、就業規則に能力不足の解雇事由があっても、教育・指導の余地があったのに十分な対応がされていない場合には、権利濫用と判断された裁判例が紹介されています。
4 法律上、そもそも禁止される解雇もある
解雇は、一般的な有効性の問題とは別に、法律上それ自体が禁止されている類型もあります。たとえば、業務上のけがや病気で療養中の期間とその後30日間、産前産後休業中の期間とその後30日間、労基署への申告を理由とするもの、労働組合加入等を理由とするもの、公益通報を理由とするものなどです。こうした類型では、会社側の説明をうのみにせず、まず法的な位置づけを確認すべきです。
5 突然「辞めてほしい」と言われたとき、最初にやるべきこと
初動で重要なのは、感情的に反応することではなく、記録を確保することです。
まず、解雇通知書、LINE、メール、チャット、録音、就業規則、雇用契約書、給与明細、勤務表など、関係資料を消さずに残してください。次に、会社が本当に「解雇」と言っているのか、それとも「退職届を書いてほしい」という退職勧奨なのかを切り分ける必要があります。退職勧奨は、労働者が自分で辞める形に持ち込まれやすいため、曖昧なまま退職届や合意書に署名してしまうと、後の争点が不利に変わることがあります。
そして、会社に対しては、可能であれば解雇理由の明確化を求めるべきです。前述のとおり、労働者には解雇理由証明書を請求する権利があります。会社が何を理由に契約終了を主張しているのかが曖昧なままでは、争点整理も、今後の見通し判断も難しくなります。
6 相談時にあるとよい資料
弁護士に相談する場面では、次のような資料があると見通しが立てやすくなります。
雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、解雇通知書、退職勧奨時のメモや録音、メールやLINE、タイムカードや勤怠データ、給与明細、人事評価資料、始末書や注意書などです。特に、会社が後から理由を付け足してくることは珍しくないため、「いつ、誰が、何と言ったか」を時系列で整理しておくことが重要です。これは法的主張の精度だけでなく、交渉段階での圧力にも差を生みます。
7 この段階で大切なのは、「もう無理だ」と決めつけないこと
解雇の問題は、会社からそう言われた瞬間に勝負が決まるものではありません。
むしろ、通知の文言、理由の具体性、手続の進め方、過去の指導状況、就業規則の定め、証拠の残り方によって、法的評価はかなり変わります。会社が強い口調で言ってきたとしても、それだけで解雇が有効になるわけではありません。解雇が無効なら、労働契約上の地位がなお存続すると争う余地があり、賃金請求を含めて検討する場面も出てきます。
まとめ
不当解雇の問題では、まず「会社が辞めさせたいと思っていること」と、「法的に有効に解雇できること」とは別だ、という点を押さえる必要があります。
日本法上、解雇には合理的理由と社会的相当性が必要であり、解雇予告や理由証明などのルールもあります。突然の通告を受けたときほど、退職届を急いで出さず、資料を確保し、会社の説明を言葉どおりに受け取らずに、法的に何が起きているのかを整理することが重要です。