第11回 降格・減給・賞与カットに争える余地はあるか

第11回 降格・減給・賞与カットに争える余地はあるか

会社から、役職を外された、基本給を下げられた、賞与を大きく削られた、という相談は少なくありません。もっとも、この3つは似ているようで法的な見方がかなり違います。降格は人事権や等級制度の問題、減給は賃金支払や懲戒の問題、賞与カットは賞与の法的性質や就業規則・査定の問題として整理する必要があります。ここを混同すると、争えるはずの点を見落としやすくなります。

1 まず「降格」「減給」「賞与カット」は分けて考える

「降格」といっても、肩書だけ外れる場合と、等級が下がって基本給まで下がる場合とでは重みが違います。また、「減給」といっても、懲戒処分としての減給なのか、人事評価や職務変更に伴う賃金テーブルの変更なのかで適用される考え方が変わります。さらに、賞与は毎月の基本給と違い、就業規則や賃金規程、会社の決定、労使慣行などによって具体的な請求権が発生する仕組みであり、毎回同じように当然支払われるとは限りません。

2 降格が直ちに違法になるわけではないが、会社が自由にできるわけでもない

会社が人事制度として等級制度や評価制度を設け、職能資格や職務等級に応じて賃金を決めること自体は珍しくありません。厚生労働省の就業規則規定例でも、業績・能力に基づく職務等級を定め、一定の低評価が続いた場合の降格と、それに対応する賃金体系を例示しています。他方で、賃金などの労働条件は労働契約の内容ですから、会社が一方的に「今日から給料を下げます」と決めることは原則として許されません。例外的に、就業規則の変更によって統一的に不利益変更を行う場合でも、合理性があり、しかも労働者に周知されていなければ効力は生じません。

ですから、降格が問題になるのは、単に肩書が変わったというだけでなく、賃金まで落ちているのに根拠規程があいまいである、評価基準が不透明である、特定の人だけに大きな不利益を集中させている、十分な説明や経過措置がない、といった場面です。厚生労働省の裁判例整理でも、就業規則の不利益変更は、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、代償措置や交渉経過などを総合して合理性が判断されるとされ、特定層に大きな不利益だけを負わせる変更は問題になり得ると整理されています。

3 「減給」の制裁には上限がある

懲戒処分としての減給には、労働基準法91条の制限があります。厚生労働省の説明では、1回の減給額は平均賃金1日分の半額を超えてはならず、複数の懲戒事由があっても、総額は1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはなりません。これは、すでに発生している賃金債権を無制限に削ることを防ぐためのルールです。加えて、労働基準法24条の全額払原則があるため、法令や労使協定などの根拠なく、会社が勝手に天引き的に賃金を減らすこともできません。

ここで注意したいのは、すべての「給料ダウン」が労基法91条の懲戒減給に当たるわけではないことです。厚生労働省のQ&Aでは、たとえば職務変更に伴い、運転手職から運転助手職へ変更され、その職種に対応する賃金テーブルに移る結果として賃金が下がる場合は、職務変更に伴う当然の結果として、減給の制裁そのものには当たらないと整理されています。つまり、会社側はしばしば「これは懲戒減給ではなく等級・職務変更に伴う降給だ」と主張してきます。そこで本当に職務や等級の変更が実質を伴うのか、賃金体系との対応が明確か、という点が争点になります。

4 賞与カットは「基本給カット」と同じ発想では見ない

賞与については、厚生労働省の裁判例整理上、請求権は、使用者の決定や労使の合意・慣行等によって具体的な算定基準や方法が定まり、支給額が定められることで初めて具体化するとされています。そのため、毎月の賃金のように、当然に一定額が確定しているとは限りません。また、支給日や一定の基準日に在籍する者に限って賞与を支給する取扱いは、一般に有効と整理されています。

ただし、だからといって会社が自由にゼロにできるわけでもありません。厚生労働省のあっせん事例では、「賞与支給日において退職予定の労働者には賞与を支給しない」という就業規則が、労働者に実質的に周知されていない場合、その規定には効力がなく、その規定を理由に不支給とすることは許されないと整理されています。また、勤務成績等に応じた査定で賞与額に差をつけること自体は使用者の裁量が認められ得ますが、その裁量も無制限ではありません。

5 懲戒を理由に「賞与を全額カット」はできるのか

この点も誤解が多いところです。厚生労働省のQ&Aでは、賞与も労基法11条の「賃金」に含まれるため、懲戒処分として賞与を減額する場合にも労基法91条の制限が及ぶと整理されています。したがって、1回の懲戒事由について、平均賃金1日分の半額を超え、また総額でその支払期の賞与額の10分の1を超えるような賞与減額はできず、懲戒名目での「賞与全額不支給」は原則として許されません。

もっとも、同じ賞与の減額でも、懲戒としての制裁なのか、算定期間中の不就労や勤務評価に基づく査定なのかで見方が違います。厚生労働省も、不就労期間に対応する賞与減額や、勤務評価に基づく賞与算定は、直ちに労基法91条の「減給の制裁」とは別に考えられると説明しています。会社側はここを使って「懲戒ではなく査定だ」と言ってくることが多いので、賞与明細、支給基準、評価資料を見て、本当に査定の問題なのか、それとも制裁的な不利益処分なのかを切り分ける必要があります。

6 こういう場面は争点になりやすい

実務で特に争点化しやすいのは、理由があいまいな降格・降給です。たとえば、「評価が悪いから」と言うだけで、どの基準で何点だったのか、どの等級要件を欠いたのかが示されない場合、単なる不満や対立を賃金不利益に変えているだけではないかが問題になります。また、妊娠・出産、育児休業等を理由として降格させること、減給すること、賞与で不利益な算定を行うことは、厚生労働省の資料でも禁止される不利益取扱いの典型例として明示されています。こうした事情が絡む場合は、単なる人事評価ではなく、違法な不利益取扱いとして見る必要があります。

7 会社から言われたとき、まず何を確認すべきか

この場面でまず確認したいのは、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程、人事評価規程、等級制度の資料、給与明細、賞与明細、評価結果の通知、面談記録です。見たいのは、降格や降給の根拠規定があるか、評価制度と賃金体系がどう連動しているか、賞与の算定基準や在籍要件があるか、その内容が実際に周知されていたか、という点です。就業規則による不利益変更や賞与不支給は、内容だけでなく周知が効力要件として重要だからです。

また、引き下げられた給料を何も言わずに受け取り続けると、後で会社側から「同意していた」と主張される余地が生まれます。厚生労働省の解説でも、減額給与を黙って受け取っていると同意があったとみなされるおそれがあるため、疑問があれば会社に確認すべきだとされています。ですから、異議があるなら、少なくとも理由の説明を求め、記録を残しておくべきです。

まとめ

降格・減給・賞与カットは、会社が全部自由に決められるものではありません。降格や降給は、就業規則や賃金体系、人事評価制度との対応、労働条件の不利益変更としての合理性が問われます。懲戒としての減給には労基法91条の上限があり、賞与も懲戒名目なら同じ制限を受けます。他方で、賞与は支給基準や在籍要件、査定制度によって左右される面があるため、毎月の賃金と同じ発想では見ません。結局のところ、何の根拠で、どの手続で、どの程度の不利益が課されたのかを一つずつ分解して見ることが大切です。

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