第12講 残業代とは何か|まずはここだけ押さえたい基礎知識

第12講 残業代とは何か|まずはここだけ押さえたい基礎知識

「残業代」と一口に言っても、法律上はかなり中身があります。
一般にイメージされるのは「定時後に働いた分のお金」ですが、労働基準法上の残業代は、より正確には、法定労働時間を超えた時間外労働法定休日労働深夜労働に対して支払われる割増賃金です。厚生労働省は、法定労働時間を原則1日8時間・週40時間とし、これを超える労働や深夜・法定休日労働には割増賃金が必要だと案内しています。

この回でまず押さえたいのは、残業代は「会社が忙しいから気持ちで払うもの」でも、「上司が認めた分だけ出るもの」でもないということです。一定の要件を満たす労働があれば、法律上の賃金請求権として発生します。厚生労働省の資料でも、割増賃金の支払義務は労基法37条に基づくもので、支払われない場合は違法になると整理されています。

1 まず「法定」と「所定」を分ける

残業代の話で最初に混乱しやすいのが、「法定労働時間」と「所定労働時間」の違いです。
法定労働時間は、法律が定める上限で、原則として1日8時間、1週40時間です。他方、所定労働時間は、会社が就業規則や雇用契約で定める通常の勤務時間です。たとえば、1日7時間勤務の会社なら、7時間が所定、8時間が法定です。

この違いはとても大事です。
たとえば所定が7時間の会社で8時間働いた場合、7時間を超えた1時間は「所定外」ではありますが、まだ法定内です。厚生労働省資料でも、所定外(法定内)労働時間には法定の割増はない一方、法定外労働時間には25%以上の割増が必要だと整理されています。つまり、「定時を超えた=必ず法律上の残業代25%増し」ではありません。ここを取り違えると、請求額の計算がずれます。

2 残業代が発生する基本パターン

基本パターンは三つです。
第一に、時間外労働です。法定労働時間を超えた労働で、割増率は原則25%以上です。第二に、法定休日労働で、割増率は35%以上です。第三に、深夜労働で、午後10時から午前5時までの労働について25%以上の割増が必要です。

さらに重なる場面では、割増率は足し算になります。
厚生労働省の説明では、法定時間外労働かつ深夜なら50%以上、法定休日労働かつ深夜なら60%以上になります。ですから、夜遅くまで働いた場合や、休日の深夜勤務では、単なる「25%増し」では済みません。

3 月60時間を超える時間外労働は、さらに重くなる

長時間残業では、割増率がさらに上がります。
厚生労働省は、1か月に60時間を超える時間外労働については、その超えた部分の割増率を50%以上と案内しています。中小企業への猶予措置は2023年4月1日に廃止されており、現在は中小企業でもこのルールが適用されます。

したがって、月の後半になると残業単価が上がることがあります。
ここは給与明細を見ても気づきにくい部分ですが、時間外労働が多い職場では、請求額にかなり差が出ます。長時間残業の案件で金額が大きくなるのは、この加重割増も一因です。

4 「36協定があるから払わなくてよい」は間違い

会社がよく誤解しているのが36協定です。
法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日に働かせたりするには、原則として36協定の締結と労基署への届出が必要です。厚生労働省も、36協定は時間外・休日労働をさせるための前提手続だと説明しています。

しかし、36協定は「払わなくてよい範囲」を決めるものではありません。
厚生労働省の教材では、36協定を超えた違法な時間外労働であっても、その時間に応じた割増賃金の支払は必要だと明示されています。つまり、36協定は「残業を適法に命じられるか」の問題であって、「残業代を払うかどうか」の問題とは別です。違法残業でも、働かせた以上は賃金支払義務が残ります。

5 法定休日と法定外休日は違う

休日出勤でも、全部が35%増しになるわけではありません。
労基法上、会社は毎週少なくとも1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならず、これが実務上の法定休日です。厚生労働省もこのルールを明示しています。

たとえば土日休みの会社で、日曜を法定休日としているなら、土曜は単なる法定外休日です。この場合、土曜に働いただけで直ちに35%増しになるわけではなく、週40時間を超えた部分について時間外労働として25%以上の割増が必要になるのが基本です。厚生労働省のQ&Aでも、土曜と日曜で手当が違いうる理由としてこの点が説明されています。

6 「休憩」と会社が言っていても、休憩でないことがある

残業代の計算では、労働時間の数え方も重要です。
休憩時間は、労働者が自由に利用できる時間でなければなりません。使用者の指示があればすぐ業務に戻らなければならない待機時間、いわゆる手待ち時間は休憩ではなく、労働時間です。厚生労働省はこの点を明確に案内しています。

そのため、店番をしながらの昼休み、電話番をしながらの休憩、来客があれば対応する前提の待機時間などは、実質的には労働時間になりえます。これを休憩扱いにされると、労働時間も残業代も少なく計算されてしまいます。

7 準備や後片付けも、労働時間になりうる

会社は「タイムカードの前後は自己都合」と言いたがりますが、そう単純ではありません。
厚生労働省の教材では、会議準備、後片付け、仕事終わりの清掃、制服の着替えなども、上司の指揮命令下に置かれているなら労働時間に含まれると説明されています。また、明示的な指示がなくても、実態として残業せざるを得ない状況なら、黙示的な業務命令として扱われうると整理されています。

したがって、残業代の問題では、「タイムカードの打刻時間」だけではなく、その前後に何をしていたかも見ます。朝礼準備、開店準備、締め作業、片付け、引継ぎなどが日常化しているなら、その分も労働時間に入る可能性があります。

8 残業代の基礎になる賃金は、基本給だけとは限らない

割増賃金は、単純に「基本給だけ」で計算するとは限りません。
厚生労働省は、割増賃金の基礎から除外できるのは、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金だけであり、しかも①〜⑤は名称だけで除外できるわけではないと説明しています。これらに当たらない賃金は、原則として基礎に算入しなければなりません。

このため、役職手当、資格手当、職務手当、営業手当などが、会社の計算では勝手に除外されていることがあります。残業代の単価が異様に低いときは、基礎賃金から本来入るべき手当が抜けていないかを疑う必要があります。

9 月給制でも、時給に直して計算する

月給制だから残業代計算ができないわけではありません。
厚生労働省は、月給制の場合、月給額を1年間における1か月平均所定労働時間数で割って1時間当たり賃金を出し、その単価に割増率を掛けるという計算方法を示しています。つまり、月給でも最終的には時給化して考えます。

この点を知らないと、「月給に含まれているはず」「定額だから分からない」で止まりやすいです。ですが、固定給であっても、時間外・休日・深夜の割増部分は切り出して計算できます。後の固定残業代の回でもここが前提になります。

10 残業代の問題は、まず「時間」と「単価」を押さえる

結局、残業代の争点はかなりの割合で二つに集約されます。
ひとつは、何時間働いたか。もうひとつは、その1時間当たり単価がいくらかです。時間の方では、休憩とされた時間が本当に休憩か、準備や後片付けが入るか、休日区分がどうかが争点になります。単価の方では、基本給以外の手当をどこまで算入するかが争点になります。これは上で見た厚生労働省資料を整理すると、ほぼこの二軸にまとまります。

したがって、残業代の相談では、給与明細だけでなく、勤怠記録、シフト、業務日報、メール送信記録、PCログ、チャット履歴なども重要になります。今回は基礎回なので詳細は次回以降に回しますが、残業代は「何となく多く働いた」ではなく、時間と単価の積み上げで決まると押さえておけば、かなり見通しがよくなります。

11 まとめ|残業代は「定時後のおまけ」ではなく、法律上の賃金である

残業代とは、法律が定める労働時間や休日のルールを超えて働いたときに支払われる、割増賃金です。
原則は、法定時間外25%以上、法定休日35%以上、深夜25%以上で、重なれば加算されます。月60時間超の時間外労働は50%以上に上がります。36協定は必要ですが、それは支払免除の根拠ではありません。違法残業であっても、働かせた以上は残業代が必要です。

そして、残業代の基礎は、単に「何時まで会社にいたか」だけではありません。
所定と法定の違い、法定休日と法定外休日の違い、休憩と手待ち時間の違い、基礎賃金に何を入れるか、こうした細かな区別が積み重なって、請求額も会社の違法性も決まってきます。まずはここまで押さえれば、残業代の議論の土台としては十分です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA