第28講 セクハラ・マタハラ・ケアハラ|属性に関わるハラスメントの基礎
第28講 セクハラ・マタハラ・ケアハラ|属性に関わるハラスメントの基礎

ハラスメントという言葉はひとまとめに使われがちですが、実務では、セクハラ、妊娠・出産に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメントは、それぞれ法的な根拠と見方が少しずつ違います。ただ、共通しているのは、いずれも「その人の属性や制度利用に絡めて、職場で不利益や圧力を与える問題」であり、加害者個人の問題で終わらず、会社の雇用管理責任が正面から問われるという点です。厚生労働省も、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント対策はいずれも事業主の義務であると明示しています。
まずセクハラですが、これは男女雇用機会均等法上、職場における性的な言動によって生じる問題として整理されており、大きく「対価型」と「環境型」に分けられます。対価型とは、性的な言動を拒否したことなどを理由に解雇、降格、減給その他の不利益を受ける類型であり、環境型とは、性的な言動によって職場環境が不快になり、能力発揮に重大な悪影響が生じる類型です。厚生労働省は、行為者は上司や同僚に限られず、取引先、顧客、患者、生徒などもなり得ること、また被害者・行為者は男女を問わず、同性間でも成立し得ること、性的指向や性自認にかかわらず問題となり得ることを明確にしています。
したがって、セクハラは単に露骨な性的接触や交際要求だけを意味しません。身体接触、性的冗談、容姿いじり、しつこい食事の誘い、性的な話題の強要、性的指向や性自認を揶揄する発言なども、状況によっては十分に該当し得ます。労働者側実務では、「本人が嫌だったか」だけでなく、その言動が職場に持ち込まれたことによって就業環境が悪化し、通常の就業に支障が出ているかを具体的に見ます。とくにメール、チャット、録音、周囲の目撃状況が残りやすい分野です。
次にマタハラですが、これは一般に、妊娠・出産そのもの、又はそれに関連する制度利用をめぐって行われる嫌がらせや不利益扱いを指します。厚生労働省は、職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントとして、①産前休業、育児休業などの制度や措置の利用に関する言動により就業環境が害されるものと、②女性労働者が妊娠したこと、出産したことなどに関する言動により就業環境が害されるものを示しています。つまり、「休みを取るなんて迷惑だ」「妊娠するなら辞めてもらわないと困る」といった制度利用や状態それ自体に向けられた圧力が中心です。
ここで重要なのは、マタハラには「嫌がらせ」と「不利益取扱い」という二つの論点があることです。男女雇用機会均等法には、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止が置かれており、妊娠や出産を契機に降格、雇止め、退職強要、契約更新拒否、著しい不利益配置転換などが問題になります。ですから、暴言や圧力のようなハラスメントがなくても、妊娠を契機に不自然な人事処分がされれば、それ自体が違法と評価される余地があります。マタハラを考えるときは、「ひどいことを言われたか」だけでなく、「その後に不利益な扱いがなかったか」を必ず見るべきです。
いわゆるケアハラも、実務では同じ構造で捉えるのが分かりやすいです。ここでいうケアハラとは、主に育児や家族介護に関わる制度利用、又はその必要性を理由として、職場で嫌がらせや圧力、不利益な扱いを受ける場面を指します。厚生労働省は、育児・介護休業等に関するハラスメントを、制度等の利用に関する言動によって就業環境が害されるものとして整理しており、育児休業や介護休業、短時間勤務、介護休暇等の利用申出に対する嫌味、制度利用者への排斥、昇進差別の示唆などが問題になります。また、育児・介護休業法は、育児休業や介護休業の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの禁止を定めています。
このため、セクハラ、マタハラ、ケアハラは、いずれも「言動の嫌らしさ」だけで終わる話ではありません。実務では、①問題発言や圧力があったか、②制度利用や属性と結び付いているか、③その後に配置転換、評価低下、契約更新拒否、退職誘導などの不利益が生じていないか、という三段階で見ていきます。特にマタハラやケアハラでは、露骨な暴言がなくても、人事評価や配転、更新判断の中に不利益が埋め込まれることがあり、こちらの方がむしろ実務上は多い印象です。
会社の責任という点では、これらのハラスメントは「そんなつもりはなかった」で済みません。厚生労働省は、事業主に対し、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、迅速かつ正確な事実確認、被害者・行為者への適正対応、再発防止、プライバシー保護、相談や協力を理由とする不利益取扱いの禁止周知を求めています。さらに、妊娠・出産等に関するハラスメントについては、業務体制の整備など、背景要因を解消するための措置も必要とされています。つまり、相談窓口だけ置いて放置する会社、制度利用者を現場の迷惑扱いする会社、相談した本人を外す会社は、それ自体がかなり危ういのです。
労働者側で証拠化するなら、発言の録音やメモだけでは足りないことがあります。いつ妊娠や制度利用を伝えたか、誰に相談したか、その後どんなシフト変更、配転、査定、雇止め示唆、契約条件変更があったかまで時系列で残すことが重要です。セクハラでは発言・接触の具体性が、マタハラ・ケアハラでは制度利用の申出時期とその後の人事不利益の近接性が、特に重要な争点になりやすいです。だから、診断書、母子健康管理措置の申出記録、育休・介護休業の申請書、メール、チャット、勤怠、評価資料まで含めて、広く確保する必要があります。
要するに、この講で押さえるべきことは三つです。第一に、セクハラは性的言動による就業環境侵害の問題であること。第二に、マタハラとケアハラは、妊娠・出産や育児・介護の制度利用や状態に結び付いた嫌がらせと不利益取扱いの問題であること。第三に、いずれも会社には防止措置義務があり、個人のトラブルではなく職場管理の問題として処理されるべきことです。ハラスメント類型を正確に分けて見るだけで、証拠の集め方も、会社に求める是正内容も、かなりクリアになります。