第2講 後遺障害等級認定とは何か|誰がどの資料で判断しているのか

第2講 後遺障害等級認定とは何か|誰がどの資料で判断しているのか

交通事故で症状が残ったとき、多くの方が最初に気にされるのは、「この症状は後遺障害として認められるのか」「何級になるのか」という点です。もっとも、ここでいう後遺障害等級認定は、単に医師が「後遺症が残っています」と言えばそのまま決まるものではありません。実務では、一定の仕組みの中で、提出された資料をもとに、症状の内容や程度が自賠責保険の等級表に当てはまるかどうかが判断されます。したがって、後遺障害等級認定を理解するためには、まず「誰が」「何を見て」「どういう流れで」判断しているのかを押さえる必要があります。

交通事故の後遺障害等級認定は、一般に自賠責保険の仕組みの中で行われます。自賠責保険は、交通事故被害者の基本的な補償を担う制度であり、傷害部分だけでなく、後遺障害や死亡についても一定の基準に基づいて保険金が支払われる仕組みになっています。そして、後遺障害については、症状が残ったという事実だけでなく、その症状がどの程度の障害として評価されるのかを、等級という形で整理します。等級は重いものから軽いものまで区分されており、認定される等級によって自賠責保険金の額も変わりますし、その後の任意保険会社との示談交渉や裁判実務にも大きな影響を及ぼします。

もっとも、被害者の方から見ると、「認定」と言われても、どの機関が実際に判断しているのかが見えにくいことが少なくありません。ここで重要なのが、損害保険料率算出機構と、その内部に置かれた自賠責損害調査の仕組みです。実務上、後遺障害の認定は、保険会社の担当者がその場で自由に決めているわけではありません。提出された診断書、カルテ、画像、検査結果、事故状況資料などをもとに、自賠責損害調査のルートに乗せられ、調査事務所等で内容が検討され、等級該当性が判断されていきます。保険会社は窓口にはなりますが、認定の中核部分は、こうした損害調査の制度の中で処理されているのです。

この点を押さえると、後遺障害認定の性質が見えてきます。つまり、後遺障害等級認定は、「目の前の担当者を説得できるか」という話ではなく、「提出資料から見て、その障害が基準上どう評価されるか」という資料判断の色彩が非常に強いのです。もちろん、資料の集め方や提出の仕方によって結果が変わる余地はあります。しかし、裏を返せば、本人がどれだけ強くつらさを訴えても、それが資料上十分に表れていなければ、認定上は弱く扱われることがあります。後遺障害等級認定は、感覚的な納得感よりも、資料の整合性・客観性・継続性が重視されやすい手続だと理解しておくべきでしょう。

では、実際にはどのような資料が見られるのでしょうか。中心になるのは、まず後遺障害診断書です。これは、症状固定の時点で医師が作成する書面であり、どの部位にどのような症状が残っているのか、可動域制限があるのか、神経症状があるのか、検査結果はどうか、といった内容が記載されます。後遺障害認定の出発点になる極めて重要な書類です。ただし、診断書だけで全てが決まるわけではありません。診断書に書かれた内容が、それまでのカルテ、画像、検査記録、通院経過と整合しているかどうかも見られます。たとえば、最後の診断書に強い症状が記載されていても、通院中のカルテにその訴えがほとんど出ていない、画像所見が乏しい、通院が長く中断している、といった事情があると、評価が厳しくなることがあります。

画像資料も非常に重要です。MRI、CT、XPなどにより、骨折、変形、椎間板ヘルニア、神経圧迫、関節の変化などが確認できる場合には、症状を裏づける客観資料として強い意味を持ちます。ただし、画像に異常が写っていれば必ず認定されるわけでもなく、逆に画像に大きな異常がないから絶対に認定されないというわけでもありません。重要なのは、画像所見が事故態様や症状経過と整合しているか、神経学的検査など他の資料と結びついているかという点です。特に頸椎捻挫や腰椎捻挫のような事案では、画像だけで決着がつくというより、画像、診療経過、症状の一貫性、検査所見などの全体像で判断されることが多くなります。

神経学的検査や可動域検査なども、認定実務ではしばしば重要になります。しびれや筋力低下が問題になる事案では、腱反射、知覚検査、筋力検査、SLRテストなどの神経学的所見が手がかりになりますし、関節機能障害では、どの角度まで動くのかという可動域の計測が重視されます。ただ、これらも単に数値が書いてあればよいのではなく、その測定方法や左右差、他の資料との整合性が問われます。後遺障害認定では、「何となく不自由そうだ」という印象ではなく、検査結果としてどこまで具体化できているかが問われるのです。

手続の流れとしては、まず治療を続けたうえで、これ以上大きな改善が見込みにくい状態に至った段階で、症状固定という考え方が問題になります。そして、症状固定後に後遺障害診断書を作成してもらい、必要資料を添えて認定の申請に進みます。この申請のルートには、保険会社側が資料を集めて進める事前認定と、被害者側で資料をそろえて行う被害者請求とがありますが、この違いは次講以降で詳しく扱います。ここで大事なのは、いずれのルートであっても、最終的には提出資料が認定判断の土台になるという点です。つまり、ルートの違いはあっても、資料の質と内容が核心であることに変わりはありません。

また、後遺障害等級認定は、一度申請して終わりではないこともあります。認定結果が非該当であったり、想定より低い等級にとどまったりした場合には、その理由を検討し、追加資料を整えたうえで異議申立てをすることがありえます。このとき重要なのは、「納得できないから争う」という感覚だけで進めないことです。なぜその認定結果になったのか、資料のどこが弱かったのか、何を補強できるのかを具体的に見なければ、異議申立てをしても結果が変わらないことがあります。後遺障害認定は、感情的な不満の表明ではなく、資料上の評価をどう組み替えるかという作業だからです。

被害者の方の中には、「医師が後遺障害診断書を書いてくれたのだから、あとは認定されるはずだ」と考える方もおられます。しかし、実務では、医師の診断と等級認定とは微妙に役割が異なります。医師は医学的見地から症状や障害を記載しますが、その症状が自賠責の等級基準上どの類型・どの程度に該当するかを最終的に評価するのは認定の仕組みの側です。したがって、主治医が重く見ていても認定が伸びないこともありますし、逆に資料がきれいに整っていれば、一定の評価につながることもあります。ここでもやはり、医学と法的評価のあいだに橋をかける資料の整え方が重要になります。

さらに、後遺障害等級認定は、自賠責保険のためだけに意味があるわけではありません。実際には、この認定結果が、任意保険会社との示談交渉における出発点になることが多く、訴訟でも重要な判断資料として扱われます。もちろん、裁判所は自賠責認定に法的に拘束されるわけではありませんから、認定結果と異なる判断をすることはありえます。しかし、現実には、自賠責認定は交通事故賠償実務の共通言語のような役割を果たしており、示談でも裁判でも大きな影響力を持っています。そのため、後遺障害等級認定は単なる保険手続ではなく、その後の賠償交渉全体を左右する入口なのです。

結局のところ、後遺障害等級認定とは、「残った症状があるか」という抽象的な話を、「どの資料によって」「どの基準で」「どの等級に当たるか」という形に落とし込む制度です。そこでは、本人のつらさそのものよりも、それが診療録や画像、検査結果、診断書の記載としてどれだけ一貫して現れているかが決定的に重要になります。交通事故後の症状に悩む方にとっては酷に感じられる面もありますが、実務はまさにそのように動いています。だからこそ、後遺障害認定を考えるときは、単に結果だけを見るのではなく、判断主体、判断資料、判断の流れを理解しておくことが必要です。

次回は、「症状固定とは何か|治療終了との違いをどう考えるか」を扱います。後遺障害の問題は、症状固定の理解を誤ると全体がずれやすいため、この段階をしっかり整理しておくことが重要です。

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