第2回 退職勧奨と解雇はどう違うのか|「辞めてくれ」と言われたときの対応

第2回 退職勧奨と解雇はどう違うのか|「辞めてくれ」と言われたときの対応

会社から「辞めてくれないか」「今後のことを考えてほしい」「退職届を書いてほしい」などと言われたとき、労働者側では、それが解雇なのか、単なる打診なのか、あるいは退職を強く迫る退職勧奨なのかが分かりにくいことがあります。ですが、この違いは非常に重要です。なぜなら、解雇には法律上の厳しい制限がある一方、退職勧奨は労働者が応じてしまうと、会社が一方的に契約を切った場面とは全く違う整理になりやすいからです。

1 退職勧奨とは何か

退職勧奨とは、会社が労働者に対して「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って、退職を勧めることをいいます。厚生労働省は、これは労働者の意思とは関係なく会社が一方的に契約終了を通告する解雇とは異なる、と整理しています。つまり、退職勧奨の本質は、あくまで「退職の合意を取りに来ている」という点にあります。

2 解雇とは何が違うのか

解雇は、会社が労働者の意思にかかわらず、一方的に労働契約を終了させるものです。そのため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効になりますし、原則として30日前の予告または解雇予告手当も必要になります。さらに、労働者は会社に対し、退職証明書に解雇理由を記載するよう求めることで、会社が何を理由に解雇したのかを確認することができます。

これに対し、退職勧奨は、労働者が自由意思で応じる限り、それ自体は直ちに違法ではありません。裏を返せば、会社が十分な解雇理由を持っていなくても、労働者が退職届を出したり、退職に同意したりすると、後から「本当は解雇だった」と争いにくくなることがあります。厚生労働省の解説資料でも、退職勧奨に応じてしまうと、解雇と違って合理的な理由がなくても有効となってしまうことがあると説明されています。

3 いちばん危ないのは「曖昧なまま退職届を書くこと」

実務上よくあるのは、会社が明確に「解雇します」とは言わず、「自主的に辞めてくれた形にしてほしい」「今日中に退職届を書いてほしい」と迫ってくる場面です。ここで労働者が、法的な意味を十分に整理しないまま退職届を書いてしまうと、会社側は「本人が自分で辞めた」「合意で終了した」と主張しやすくなります。退職勧奨は、応じるかどうかが労働者の自由であり、その場で直ちに返答する必要はないと厚生労働省も案内しています。

そのため、「辞めてくれ」と言われたときにまず確認すべきなのは、会社が一方的な解雇を通告しているのか、それとも退職に同意するよう求めているだけなのか、という点です。この切り分けをせずに話を進めると、後になって争点が不必要に不利になります。

4 退職勧奨でも、やり方が行き過ぎれば違法になる

もっとも、退職勧奨だから会社が何をしてもよいわけではありません。厚生労働省は、使用者による労働者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害に当たり得ると説明しています。具体例として、明確に断っているのに執拗に繰り返す、嫌がっている労働者にその場で退職手続をするよう繰り返し迫る、といった事案が、違法と判断された例として紹介されています。

したがって、長時間の詰問、繰り返しの呼び出し、退職届の即時提出要求、拒否したことへの嫌がらせなどがある場合には、単なる話し合いの域を超えている可能性があります。会社側の言い方が柔らかくても、実際には自由な選択を奪う形で退職を迫っているのであれば、法的には問題になり得ます。

5 「辞めてくれ」と言われたときの初動

この場面で大切なのは、まずその場で退職届を書かないことです。退職勧奨に応じるかどうかは労働者の自由であり、すぐ答える必要はありません。むしろ、会社が何を求めているのかを言葉で確認し、解雇なのか、退職勧奨なのかを切り分けることが先です。

会社が「解雇だ」と言うのであれば、解雇理由の明確化を求めるべきです。厚生労働省も、解雇の有効性を争う前提として、就業規則の解雇事由を確認し、退職証明書に解雇理由を記載してもらうことが有効だとしています。逆に、会社が解雇と言い切らず、退職届や合意書への署名ばかりを急がせる場合には、会社側も解雇の法的責任を避けようとしている可能性があります。

また、やり取りの日時、場所、出席者、言われた内容、渡された文書は、その後の判断に直結します。特に、どの時点で何を言われたかが曖昧になると、「本人が納得して辞めた」という会社側の主張が通りやすくなることがあるため、経過を残しておくことが重要です。これは、解雇なのか退職勧奨なのか、その後の争い方を左右するからです。

6 まとめ

「辞めてくれ」と言われたとき、すぐに解雇だと決めつけるのも危険ですが、反対に、ただのお願いだと思って軽く退職届を書いてしまうのも危険です。退職勧奨は、会社が退職の合意を取りに来ている場面であり、解雇は会社が一方的に契約を終わらせる場面です。この違いを見失うと、守れるはずの権利を自分から手放してしまうことがあります。

会社から退職を迫られた場合には、まず「それは解雇ですか、退職勧奨ですか」と整理し、その場で退職届を書かず、理由と経過を確認することが出発点になります。労働事件では、最初の一手でその後の見通しがかなり変わることがあります。だからこそ、曖昧なまま流されないことが重要です。

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