第11講 給料が下がったとき最初に見るべきもの|基本給・手当・控除の確認
第11講 給料が下がったとき最初に見るべきもの|基本給・手当・控除の確認

「先月より給料が減っている」。
この場面で大事なのは、すぐに「違法な減給だ」と決めつけることでも、逆に「会社が決めたのだから仕方ない」と諦めることでもありません。最初にやるべきなのは、どこが減ったのかを分解することです。基本給が下がったのか、手当が消えたのか、残業代が減ったのか、欠勤控除が入ったのか、社会保険料や税金の控除が増えたのかで、法的な意味がまったく違います。厚生労働省も、賃金の支払いや減額、休業手当、給与明細の確認といった論点を分けて整理しています。
1 最初に分けるべきなのは「総支給が減った」のか「手取りが減った」のか
まず見るべきは、総支給額と**差引支給額(手取り)**のどちらが減っているかです。総支給額が同じなのに手取りだけが減っているなら、問題は基本給や手当ではなく、税金や社会保険料などの控除の増減にある可能性があります。逆に、総支給額そのものが下がっているなら、基本給、各種手当、残業代、欠勤控除など、賃金の本体部分に変化が生じていることになります。給与明細書は、その切り分けのための最初の証拠です。所得税法231条により、会社は給与の支払に際して支払明細書を交付すべきとされており、厚生労働省も給与明細書が重要な証拠になると案内しています。
この最初の切り分けを飛ばすと、話が噛み合わなくなります。たとえば、会社に「給料が下がった」と抗議しても、会社は「基本給は変えていない、保険料が変わっただけだ」と返してくるかもしれません。逆に会社が「欠勤控除です」と言っていても、実際には基本給表そのものが下げられていることもあります。まずは明細ベースで、どの欄がどう変わったかを比較することが先です。
2 給与明細で見る順番は、基本給→手当→残業代→控除である
実務的には、前月と当月、できれば数か月分の給与明細を並べて見ます。まず基本給が変わっていないかを見ます。次に、役職手当、資格手当、営業手当、住宅手当、通勤手当などの手当が減っていないかを見ます。その後、時間外手当、休日手当、深夜手当などの変動賃金を見て、最後に税金・社会保険料その他の控除を確認します。給与明細書には、いくら支払われたかだけでなく、税金や保険料がいくら引かれたかが記載されるため、ここを見れば「減った場所」がかなり見えてきます。
このとき、ひと月だけでなく、できれば採用時から直近までの流れを見る方が安全です。単月の減少が、欠勤や残業減少による一時的なものなのか、制度変更による恒常的なものなのかは、連続して見ないと分かりにくいからです。これは法令の条文そのものではありませんが、給与明細が重要証拠だという厚生労働省の整理から、そのまま導かれる実務上の見方です。
3 基本給や固定手当が下がっていたら、まず契約条件を確認する
もし基本給や毎月固定の手当が下がっているなら、次に確認すべきは、もともとの賃金条件が何だったかです。厚生労働省のFAQでは、採用時には賃金の決定、計算及び支払方法、締切日・支払日などを明示しなければならないとされています。したがって、労働条件通知書、雇用契約書、賃金規程、就業規則を見れば、本来の賃金条件の土台が分かります。
そのうえで、会社がその条件を変えたのか、単なる計算ミスなのかを見ます。会社が一方的に就業規則を変更して労働者に不利益に賃金を下げることは原則できず、変更が認められるには合理性と周知が必要だと、厚生労働省は整理しています。つまり、基本給や固定手当の減額は、「今月少なかった」で済む話ではなく、不利益変更の問題に入る可能性があります。
4 「会社が決めたから下がる」は、そのままでは通らない
給料が下がった場面で会社がよく言うのは、「会社の方針です」「制度改定です」「経営が厳しいので見直しました」といった説明です。しかし、厚生労働省のQ&Aでは、労働条件の変更は原則として労使の合意によるべきであり、使用者が一方的に就業規則を変更して不利益に変えることは原則できないとされています。例外として、変更が合理的で、変更後の就業規則が周知されている場合に限り、就業規則による変更が認められうる、という整理です。
また、厚生労働省の裁判例整理では、不利益変更への同意があったかどうかは慎重に判断すべきで、署名や受け入れ行為があるだけで直ちに有効な同意とは言えない場合があるとされています。したがって、会社から書類にサインを求められた、説明会で異議を言わなかった、しばらくその額で支払を受けていた、という事情だけで直ちに諦める必要はありません。もっとも、後で争うなら、早めに異議を示しておく方が有利です。
5 手当が減ったときは、「制度改定」なのか「要件を外れた」のかを見る
手当が減った場合には、二つの可能性があります。ひとつは、会社が手当制度そのものを変更した場合です。これは基本給の変更と同じく、不利益変更の問題になります。もうひとつは、その手当の支給要件から外れた場合です。たとえば役職手当は役職を外れたから、通勤手当は通勤方法が変わったから、皆勤手当は欠勤があったから、という場合です。前者は制度変更の問題、後者は要件該当性の問題なので、争い方が違います。これは採用時明示事項と不利益変更の法理を合わせてみると整理しやすいです。
したがって、手当が消えたら、まず就業規則や賃金規程でその手当の支給条件を確認すべきです。単に「なくなっていた」だけではなく、「会社が制度を消したのか」「自分が条件から外れた扱いにされたのか」を分けて考えると、かなり見通しが立ちます。
6 残業代が減っただけなのか、残業代計算が間違っているのかも分ける
給与が減ったように見えても、実は残業時間そのものが減っただけということもあります。この場合、直ちに違法とは言えません。他方で、残業したのに残業代が計上されていない、単価が違う、深夜や休日の割増が抜けているという場合は、未払賃金の問題になります。賃金の支払いについては、労基法24条の5原則があり、全額払いが原則です。厚生労働省も、賃金は通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、一定期日に支払わなければならないと説明しています。
このため、「給料が減った」と感じたときは、残業代欄が単に減ったのか、そもそも本来入るべき残業代が入っていないのかを分ける必要があります。前者なら勤務実績の問題、後者なら未払賃金の問題です。給与明細、勤怠記録、シフト表、PCログなどを合わせて見るのが基本です。
7 欠勤・遅刻・早退が原因なら、「控除」と「制裁」を分けて考える
給料減少の理由として多いのが、欠勤、遅刻、早退です。この場面では、まずノーワーク・ノーペイの発想があります。厚生労働省の教材でも、働かなかった時間に対応する賃金が支払われないという考え方が示されています。したがって、遅刻した1時間分、欠勤した1日分の賃金が減ること自体は、直ちに違法とは限りません。
ただし、ここにペナルティが上乗せされると話が変わります。厚生労働省は、規律違反に対する減給の制裁について、1回の額は平均賃金1日分の半額まで、総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1までと説明しています。つまり、働かなかった時間分の不払いと、懲戒としての減給は別物であり、後者には厳しい上限があります。遅刻1時間なのに、半日分も1日分も丸ごと引かれているなら、単なるノーワーク・ノーペイではなく制裁減給として問題になる可能性があります。
8 会社都合で休まされているなら、「ゼロ払い」で済まないことがある
出勤したいのに会社の都合でシフトを減らされた、業務がないから帰らされた、休業させられたという場合は、欠勤控除の話とは違います。厚生労働省は、使用者の責めに帰すべき事由により労働者を休業させた場合には、平均賃金の6割以上の休業手当が必要だと説明しています。つまり、「会社都合で働けなかったのだから給料ゼロ」は、そのままでは通らないことがあります。
このため、給与減少の原因が「自分が休んだ」のか「会社に休まされた」のかは大きな分岐です。特に、シフト制、日給月給制、時間給制の職場では、この違いが賃金額に直結します。会社が「仕事がないから休み」と扱っているなら、休業手当の問題を必ず点検すべきです。
9 控除が増えているなら、法定控除か、それ以外かを見る
手取りだけが減った場合には、控除欄を見ます。厚生労働省は、賃金から税金や社会保険料など法令で定められているもの以外を控除するには、過半数労組または過半数代表者との労使協定が必要だと説明しています。つまり、所得税、住民税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などの法定控除は当然にありえますが、それ以外の控除には根拠が必要です。
たとえば、親睦会費、組合費、社宅費、食事代、会社への立替返済などが引かれている場合、その根拠を確認しないといけません。控除そのものはありえても、何でも自由に引いてよいわけではありません。給与明細の控除欄は、支給欄以上に丁寧に見る価値があります。
10 時給換算すると最低賃金を割っていないかも確認する
月給制でも日給制でも、実質的な賃金が最低賃金を下回っていないかは重要です。厚生労働省の最低賃金制度サイトでは、最低賃金は雇用形態に関係なくすべての労働者に適用され、対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金で、残業代や賞与は含まれないとされています。また、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合には高い方が適用されます。
したがって、基本給や手当が下がった場合には、単に「前より少ない」だけでなく、その結果として時給換算で最低賃金を割っていないかも確認すべきです。特に、月給者で所定労働時間が長い職場、手当整理で本給が薄くなった職場では、この点が見落とされやすいです。
11 最初に集めるべき資料
給料が下がったとき、まず集めるべき資料は比較的はっきりしています。給与明細、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、賃金規程、勤怠記録です。厚生労働省も、労働条件の明示書面と給与明細が重要資料になることを示しています。これに加えて、制度変更の説明資料、同意書、メール、社内通知があれば、なおよいです。
実務では、前月比較表を自分で1枚作るだけでもかなり違います。基本給、手当、残業代、控除を並べて、増減額を書き込む。これをすると、会社への質問も鋭くなりますし、相談の質も上がります。これは法令ではありませんが、給与減少の原因を切り分けるうえで非常に有効です。給与トラブルは、感覚で話すより、数字で話した方が強いです。
12 まとめ|「どこが減ったか」が分かれば、争点はかなり見える
給料が下がったとき、最初にやるべきことは、違法か適法かを即断することではなく、基本給・手当・残業代・欠勤控除・法定控除のどこが動いたのかを分解することです。基本給や固定手当が減っているなら、不利益変更の問題が見えてきます。欠勤や遅刻ならノーワーク・ノーペイと制裁減給の区別が必要です。会社都合の休業なら、休業手当の問題になります。控除が増えただけなら、法定控除かどうかを見ます。
つまり、給料減少は一つの問題ではなく、いくつかの問題の入口です。ここを正確に切り分けられれば、その後の交渉も相談もかなり組み立てやすくなります。まずは給与明細を並べ、契約書と就業規則を出し、どこが減ったのかを見極める。そこから始めるのが正解です。