第19講 年次有給休暇を取らせてもらえない|時季変更権とその限界
第19講 年次有給休暇を取らせてもらえない|時季変更権とその限界

年次有給休暇は、「会社の許可が出たら休める制度」ではありません。労働基準法39条の要件を満たした労働者には、法律上当然に権利として発生する休暇であり、厚生労働省も、年休の権利は客観的要件を満たすことで発生し、労働者が請求して初めて生まれるものではないと整理しています。原則として、年休は労働者が請求した時季に与えられるもので、会社は例外的にしかこれを動かせません。
もっとも、実務では「その日は忙しいからだめ」「人手が足りないから無理」「うちは許可制だ」と言われることが少なくありません。ここで問題になるのが、使用者の時季変更権です。厚生労働省は、労働者が請求した時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に限って、使用者に時季変更権が認められると説明しています。つまり、会社はいつでも自由に断れるわけではなく、断れるのはかなり限定された場面だけです。
1 まず、有休が発生する基本要件
年休は、原則として、雇入れの日から6か月継続勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、最低10日付与されます。厚生労働省は、パートタイム労働者にも原則として同様に付与され、週所定労働時間や所定労働日数が少ない場合には比例付与になると案内しています。
したがって、「正社員ではないから有休はない」「アルバイトだから対象外」という説明は誤りになりえます。問題は雇用形態の名前ではなく、労基法39条の要件を満たしているかどうかです。
2 有休は原則として、労働者が時季を指定する
厚生労働省の資料は、年休の付与の時季の決定方法として、まず①労働者による請求を原則に置いています。つまり、基本形は「この日に休みます」と労働者が時季を指定し、それに対して会社が与える、という構造です。会社の承認制・許可制のように見える運用でも、法的な出発点はそこではありません。
このため、「有休申請を出したが上司が返事をしない」「許可が出ていないから欠勤扱いだ」といった運用は、そのまま適法とは言えません。もちろん職場では申請手続が定められていることがありますが、手続があることと、会社が自由に拒否できることは別です。
3 時季変更権とは何か
会社に認められるのは、「だめ」と言って消してしまう権利ではありません。厚生労働省が説明しているのは、労働者が請求した時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合に、他の時季に変更できるという権利です。つまり、時季変更権とは、年休そのものを否定する権利ではなく、例外的に時期をずらす権利です。
ここを取り違えると、「忙しいから今年は取らせない」「その件が終わるまで全部だめ」といった雑な運用になりがちです。しかし、法的には、変更権はあっても消滅権はありません。会社が本当に使えるのは、別の時季への調整までです。
4 「忙しい」は、それだけでは足りない
厚生労働省の資料は、時季変更権の行使が認められる条件をかなり限定的に理解しており、単に「業務多忙だから」という理由では認められないと明示しています。問題は、その日に休まれることで具体的に事業の正常な運営が妨げられるかどうかです。
したがって、「繁忙期だから全員一律にだめ」「月末月初は全部不可」「人が足りないから無理」といった説明は、そのままでは弱いです。本当に代替要員の確保が困難で、その労働者でなければ業務が回らず、調整も尽くしたが難しい、といったレベルまで具体化されないと、時季変更権の根拠としては足りにくいです。これは厚労省資料が示す限定的な理解からの実務的整理です。
5 会社は「別の日」を示す必要がある
時季変更権は、ただ拒否する権利ではなく、別の時季へ動かす権利です。ですから、会社が「その日はだめ」とだけ言って、代替日の調整を全くしないなら、時季変更権を適切に使ったとは言いにくくなります。厚生労働省の説明自体が、「他の時季にこれを与える」権利として整理しています。
実務でも、「今週は困るが来週ならどうか」「その日は無理だがこの日なら対応できる」といった形で具体的代替案が出てくるかは重要です。単に「だめ」「保留」「後で」と言うだけなら、法的にはかなり雑です。これは条文の文言と厚労省整理から自然に導かれます。
6 計画年休と時季変更権は別の制度である
有休の話では、時々「会社が一斉に指定しているから自由には取れない」と言われます。ここで関係するのが計画的付与制度(計画年休)です。厚生労働省は、労使協定で定めをした場合に、年休のうち5日を超える部分について計画的付与が認められると説明しています。
つまり、会社が年休を計画的に割り振れるのは、労使協定があり、しかも労働者に少なくとも5日分の自由取得部分を残したうえでの話です。これがないのに、「会社が先に全部決めているから個人では取れない」という運用は、そのままでは通りません。
7 年5日の取得義務もある
2019年4月から、年10日以上の年休が付与される労働者に対しては、そのうち5日について使用者が時季指定して取得させる義務が課されています。厚生労働省は、この義務は管理監督者も含めて対象になると案内しています。
このルールは、「有休を取らせない職場」を放置しないためのものです。逆にいえば、年10日以上付与されるのに全く取れていない職場では、労働者個人の請求だけでなく、会社側の取得確保義務違反も問題になります。
8 不利益取扱いは禁止される
厚生労働省は、年休を取得した労働者に対して、賃金の減額その他の不利益な取扱いをしないようにしなければならないと整理しています。つまり、「有休を取ったから査定を下げる」「有休を使うなら昇進に響く」「休んだら皆勤手当を当然に落とす」といった運用は問題になりえます。
もちろん、実務上は評価制度全体の中で争点化することもありますが、有休取得そのものを理由に不利益を課す発想は、法の趣旨に反します。ここは「権利として取れる」という年休制度の核心部分です。
9 半日単位・時間単位の有休
厚生労働省資料によれば、年休の取得単位は原則として1日単位です。半日単位取得は、労働者が希望し、使用者が同意した場合に、1日単位取得を妨げない範囲で認められます。さらに、時間単位年休は、労使協定があり、年5日を限度として可能です。
したがって、「半休しか認めない」「時間単位でしか使わせない」といった運用は危ういです。有休の本則はあくまで1日単位の請求ですし、時間単位は例外制度だからです。
10 実務でまず確認したいこと
この論点で最初に見るべきなのは、就業規則、有休管理簿、年休の付与日数、申請書類、会社からの返答記録です。厚生労働省は、有休の時季、日数、基準日などを記載した年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存すべきものとして扱っています。
また、「その日はだめ」と言われたなら、その理由と代替日の提示があったかを記録しておくことが重要です。時季変更権の争いでは、会社の説明が具体的だったか、単なる抽象的多忙論だったかが大きく効いてきます。これは厚労省資料の枠組みを実務向けに整理したものです。
11 まとめ|有休は原則「取れる」、会社は例外的にしか動かせない
年次有給休暇は、6か月継続勤務と8割出勤などの要件を満たせば法律上当然に発生する権利です。そして原則として、労働者が請求した時季に与えられるべきものです。会社の時季変更権は、事業の正常な運営を妨げる場合に限って、他の時季へ動かせるにすぎません。単に「忙しいから」「人手不足だから」だけでは足りません。
ですから、「有休は許可制」「忙しい時期は全部だめ」という会社の説明は、そのまま信じない方がよいです。有休は原則取れる、会社は例外的にしか動かせない。 これがこの論点の一番大事な骨格です。