第22講 復職できるかどうかは誰が決めるのか|復職判断と主治医意見の位置づけ

第22講 復職できるかどうかは誰が決めるのか|復職判断と主治医意見の位置づけ

休職から戻る場面で、いちばんもめやすいのがここです。
労働者は「主治医が復職可と言っている」と考え、会社は「まだ戻せない」と言う。結論からいえば、主治医が復職可と言っただけで自動的に復職が決まるわけではありません。 厚生労働省の職場復帰支援の手引きは、職場復帰支援を、主治医の復職可能判断、産業医等による精査、職場復帰可否の判断、支援プラン作成、最終決定という段階に分けており、最終的な職場復帰の決定は事業者が行う流れを示しています。

もっとも、だからといって会社が好きに決めてよいわけでもありません。
厚生労働省は、復職可否の判断に当たり、主治医意見、産業医等の意見、労働者の状態、業務内容、就業上の配慮の必要性などを踏まえて総合的に判断すべきだとしており、主治医の診断書を無視してよいとはしていません。

1 主治医の「復職可」は、出発点として重要である

厚生労働省の手引きでは、職場復帰支援の第2ステップとして、労働者からの職場復帰意思表示と、主治医による職場復帰可能とする診断書の提出が置かれています。つまり、主治医意見は復職の入口として非常に重要です。主治医がなお就労困難とみている段階では、通常、復職の議論は進みにくいです。

ただし、厚生労働省は同時に、主治医の診断は日常生活上の回復を中心に見ていることが多く、必ずしも職場で要求される業務遂行能力まで回復しているという判断とは限らないと説明しています。ここが、この論点の核心です。主治医の復職可は大事だが、それだけで会社内の職務適性判断が終わるわけではない、ということです。

2 では、誰が決めるのか

最終的な職場復帰の決定主体として、厚生労働省の手引きは事業者を位置づけています。手引きの第4ステップは「最終的な職場復帰の決定」であり、その中に「事業者による最終的な職場復帰の決定」が明記されています。

ただし、その決定は会社の気分や印象でしてよいものではありません。
手引きの第3ステップでは、情報収集と評価をしたうえで、職場復帰の可否判断と職場復帰支援プランの作成を行うとされており、第2ステップでは主治医意見に加えて産業医等による精査が予定されています。つまり、会社は主治医・産業医・現場情報を踏まえたうえで判断すべきであり、「主治医の診断は関係ない」「人事がそう思うからだめ」という雑な運用は手引きの考え方と合いません。

3 産業医の役割は、主治医意見を職場に翻訳することである

厚生労働省の手引きでは、主治医による復職可能判断の後に、産業医等による精査が置かれています。さらに、治療と仕事の両立支援ガイドラインでも、主治医の意見を産業医等に提供し、職場で必要とされる業務遂行能力等を踏まえた職場復帰可否に関する意見を聴取するとされています。

この意味で、産業医は主治医の「医学的に回復してきた」という評価を、職場での「どの業務なら、どの条件で、どこまで可能か」という形に変換する役割を持っています。産業医がいる職場では、この役割がかなり重要です。産業医がいない場合でも、厚労省は主治医から得た情報をもとに、職場側で必要な業務要件や配慮事項を整理する必要がある方向を示しています。

4 会社は「元の仕事を100%できるか」だけで判断してよいのか

ここは実務上かなり重要です。厚生労働省のあっせん事例解説は、心の健康問題による休職後の復職可否判断に当たり、裁判例では、診断書や意見書の内容、休職中の健康状態、職場復帰に向けた取組状況などを認定した上で、復職を認めたものと認めなかったものがあると整理しています。つまり、復職判断は一律ではなく、かなり具体的な事情を見ます。

また、厚生労働省の休職・復職に関するQ&Aでは、主治医が勤務可能としていても会社が復帰を認めない場合、会社は主治医意見だけでなく、就業規則、職務内容、配置可能性などを踏まえて判断していることがありうると案内しています。これは裏から見ると、元の職務に完全に戻れるかだけでなく、現実に復帰可能な業務や配慮があるかも問題になるということです。

5 主治医意見と会社判断が食い違うのは、珍しくない

厚生労働省のあっせん事例解説自体が、労働者・主治医は復帰可能と判断しているのに、会社・産業医は復帰不可と判断して争いになる事例が見受けられると述べています。つまり、この対立は例外ではなく、典型的な紛争類型です。

この場面で大事なのは、どちらの肩を機械的に持つかではありません。
主治医意見書の内容がどれだけ具体的か、産業医意見書が職務内容をどこまで踏まえているか、会社が復帰支援のプロセスをどれだけ尽くしたか、労働者側が復帰に向けてどんな準備や情報提供をしたか、こうした事情の積み重ねで結論が変わります。厚労省資料も、意見書の作成過程意味内容まで見ていることを示しています。

6 会社が主治医意見を軽視してよいわけではない

最終決定権者が事業者だからといって、会社が主治医意見を無視してよいわけではありません。厚生労働省の手引きは、主治医への情報提供と産業医等による精査を組み込んだうえで判断する流れを取っており、また主治医との連携の重要性も繰り返し示しています。

したがって、会社が「主治医は職場を知らないから関係ない」と言って何の照会もしない、「復職不可」とだけ言って具体的理由や配慮検討を示さない、といった運用はかなり危ういです。少なくとも厚労省が示す標準的な復職支援プロセスとはずれます。

7 労働者側にも、資料を出して説明する協力が必要になる

復職争いでは、労働者側も「主治医が大丈夫と言っている」で止まらない方がよいです。厚労省の手引きや連携マニュアルは、主治医意見書や就業上の配慮事項を具体化し、必要なら職場復帰支援プランの中で、復職日、業務内容、業務量、配慮事項、見直し時期まで明確にすることを想定しています。

そのため、復職を希望するなら、診断書だけでなく、何時間勤務が可能か、残業は可能か、通勤負荷はどうか、対人負荷・ノルマ・夜勤はどうか、段階的勤務が必要か、といった情報まで主治医意見に落としてもらう方が強いです。抽象的な「就労可能」より、具体的な配慮条件の方が、会社も判断しやすくなります。

8 復職判断のプロセスが雑だと、会社側に不利になりやすい

厚生労働省の手引きは、職場復帰支援を5つのステップで整理し、復帰後のフォローアップまで含めたプランニングを示しています。これは単なる努力目標に近い文書ではありますが、実務では「会社がどれだけ丁寧に復職可否を判断したか」を測る有力な物差しになります。

したがって、主治医意見の受領後に何の追加確認もせず、産業医面談もなく、配置可能性も検討せず、「まだだめ」で終わるようなケースは、会社側の判断過程として弱くなりやすいです。逆に、主治医・産業医・現場で情報を集め、軽減勤務や段階的復帰まで検討している会社の方が、判断の合理性を主張しやすくなります。これは厚労省手引きの構造からの実務的整理です。

9 まとめ|主治医が決めるのでも、会社が好きに決めるのでもない

復職できるかどうかは、主治医が単独で決めるわけでも、会社が好きに決めるわけでもありません。
主治医の復職可判断は重要な出発点ですが、それだけで決着はつかず、職場で必要な業務遂行能力や配慮可能性を踏まえた精査が必要です。厚生労働省は、主治医意見、産業医等の精査、情報収集と評価、支援プラン作成、最終的な事業者判断という流れを標準形として示しています。

この論点を一言で言えば、主治医は医学的回復の入口を示し、会社は職場での就業可能性を最終判断する。ただし、その判断は主治医意見や配慮可能性を踏まえた合理的なものでなければならないということです。ここを押さえると、「主治医がOKなのに会社が拒否」「会社が慎重すぎるのでは」という場面を、かなり整理して見られるようになります。

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