第6講 無期転換ルールとは何か|5年を超えて働いたときに起きること
第6講 無期転換ルールとは何か|5年を超えて働いたときに起きること

契約社員、嘱託、パート、アルバイトなど、有期雇用で長く働いている方の相談では、「もう5年を超えているのに、まだ更新制のままでよいのか」という疑問がよく出てきます。ここで重要になるのが、いわゆる無期転換ルールです。厚生労働省は、同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルールだと説明しています。申込みがあった場合、使用者はこれを拒否できず、現在の有期契約が終わった翌日から無期労働契約になります。
1 無期転換は「自動」ではなく、「申込み」で動く
まず大事なのは、5年を超えたら自動的に無期雇用になるわけではない、という点です。制度は、労働者に無期転換申込権が発生し、その権利を行使してはじめて動きます。厚生労働省は、通算5年を超える有期契約の契約期間の初日から末日までの間に申込みができると案内しています。さらに、そのタイミングで申込まなくても有期契約が更新されたなら、新しい契約期間中にも改めて申込みができます。
この点は実務上かなり重要です。「5年を超えたのだから当然に無期だ」と思い込むと、会社との認識がずれます。逆に、会社側が何も案内してこなくても、権利そのものは消えません。制度は、会社の好意ではなく、法律上の申込権として設計されています。これは労働契約法18条の基本構造です。
2 いつから申込めるのか
無期転換申込権が問題になるのは、平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約を前提に、同一の使用者との間でその契約が通算5年を超えたときです。厚生労働省の説明では、たとえば契約期間が1年なら、5回目の更新後の1年間に申込権が発生します。3年契約なら、1回目の更新後の3年間に申込権が発生します。
ここでいう「同一の使用者」は、同じ企業・事業主単位で考えるのが基本です。事業場や配属先が変わっても、同じ事業主のもとで契約が続いているなら通算対象になります。これは厚生労働省の無期転換ルール解説で示されています。
3 申込みは口頭でも有効だが、実務では書面が安全
厚生労働省は、無期転換の申込みは口頭でも法律上は有効だと案内しています。ただし、後で「申込みがあった」「いや聞いていない」という争いになりやすいため、できるだけ書面で行うことを勧めています。会社側も、申込みを受けた事実を確認する書面を交付しておくことが望ましいとされています。
実務的には、メールでもよいので、日時が残る形で「労働契約法18条1項に基づき、無期労働契約への転換を申込みます」と明示しておくのが安全です。これは法律上の必須様式ではありませんが、後の紛争予防として非常に有効です。これは上の厚労省整理から導かれる実務上の推奨です。
4 無期転換すると、何が変わるのか
無期転換で変わる中心は、契約期間が有期から無期になることです。厚生労働省Q&Aは、給与や待遇などの労働条件については、労働協約、就業規則、個々の労働契約で別段の定めがある部分を除き、直前の有期労働契約と同一になると説明しています。また、無期転換したからといって当然に「正社員」になるとは限らず、どの雇用区分になるかは会社の制度しだいです。
したがって、無期転換は「正社員化」と完全に同じ意味ではありません。期間の定めがなくなることが本体であり、賃金体系や職務範囲、勤務地限定の有無などは、就業規則や個別契約の設計を見ないと分かりません。この点を誤解していると、「無期転換したのに思ったほど待遇が変わらない」という食い違いが生じます。
5 会社は無期転換を拒否できるのか
結論として、要件を満たした労働者が契約期間満了までに無期転換を申込んだ場合、会社は拒否できません。厚生労働省のQ&Aでも、使用者は申込みを承諾したものとみなされ、申込み時の有期契約の満了日の翌日を始期とする無期労働契約が成立すると明記されています。
このため、会社が「無期転換は困るから、その前に雇止めする」と考える場面では、第5講で見た雇止め法理が絡んできます。無期転換直前の雇止めが常に違法とは限りませんが、少なくとも「無期転換を避けたいから」という発想だけで片づく話ではありません。これは厚労省Q&Aと雇止め法理の接続から導かれる整理です。
6 2024年4月以降は、会社の明示義務が強くなっている
2024年4月から、労働条件明示のルールが改正されました。厚生労働省によれば、無期転換申込権が発生する有期契約の更新時には、使用者は、無期転換を申込めることを労働者に書面で明示しなければなりません。さらに、無期転換後の労働条件も書面で明示することが必要になりました。初めて申込権が発生した後、さらに有期契約を更新する場合には、更新の都度、この明示が必要です。
また、無期転換後の労働条件を決めるに当たっては、他の通常の労働者との均衡を考慮した事項について説明するよう努めることとされています。つまり、会社は「権利があることを黙っておく」「転換後の条件を曖昧にしたまま更新する」という運用をしにくくなっています。
7 通算5年の数え方には「クーリング」がある
無期転換では、「ずっと同じ会社にいたように見えるが、途中で空白期間がある」という相談も多いです。厚生労働省は、有期契約と次の有期契約の間に一定以上の無契約期間があると、それ以前の契約期間を通算対象から外す、いわゆるクーリングがあると説明しています。前の通算契約期間が1年以上なら、通常は6か月以上の空白でクーリングされます。前の通算契約期間が1年未満のときは、それより短い段階的基準があります。
ここは計算を間違えやすい部分です。見かけ上「何年も関係が続いている」ようでも、法的な通算期間はリセットされていることがあります。逆に、育休など実際には働いていない期間があっても、労働契約自体が続いているなら通算期間に入ります。
8 無期転換後に会社が条件を下げてよいのか
無期転換後の労働条件は、就業規則等で「別段の定め」を置くこと自体は可能です。しかし厚生労働省Q&Aは、職務内容などが変わらないのに、無期転換後の労働条件を従前より低下させることは望ましくないと明示しています。さらに、無期転換ルールの適用を免れる意図で就業規則を制定・変更するような場合には、その合理性が認められない可能性があるとしています。
ここは重要です。会社が「無期転換は認めるが、代わりに待遇を下げる」という運用を当然にできるわけではありません。もちろん、職務や責任範囲の見直しを伴う制度設計まで一律に否定されるわけではありませんが、無期転換つぶしのような不自然な条件変更は争点になりえます。後半は法的評価の推論ですが、厚労省Q&Aが示す合理性判断の方向性に沿うものです。
9 無期になった後は、もう自由に切れない
無期転換のあと、会社がその人との関係を終わらせたいなら、今度は通常の無期雇用労働者と同様、解雇の問題になります。厚生労働省Q&Aは、無期転換した労働者を定年以外で解雇する場合には、労働契約法16条の解雇権濫用法理が適用され、客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠けば無効になると整理しています。
つまり、会社が無期転換を嫌がる背景には、「一度無期になると、その後は単純な期間満了で終わらせられない」という事情があります。ここは制度の核心です。有期の更新管理から、無期の解雇規制へと、法的な地平が変わります。
10 まとめ|無期転換は「長く使うなら、期間の定めに頼り続けるな」というルールである
無期転換ルールは、長く反復更新して使い続けている労働者について、一定時点からは労働者本人の申込みで無期雇用へ移れるようにする制度です。同一使用者との間で有期契約が通算5年を超えたら、契約期間中に申込みができ、会社は拒否できません。転換後は契約期間がなくなり、労働条件は別段の定めがない限り直前契約と同一です。
したがって、有期雇用で長く働いている方は、「何年働いたか」だけでなく、同一使用者か、通算5年を超えたか、空白期間はどうか、申込みをしたか、転換後条件は何かを順に点検すべきです。2024年4月以降は会社の明示義務も強化されていますから、更新時の書面も必ず確認した方がよいです。